第九十五話 世界水着発見!
寒いですね。冬です。でも夏の気分で読んでください(土下座)
朝食を取り終えた俺たちはすぐに泳ぎに行く準備に取り掛かった。
「なあ、日焼け止め塗ってください展開あると思う?」
「無い。」
「えー、いやでも、1%くらいは……」
「無い。」
こんなバカな会話しかしてないがかくいう俺も内心ドッキドキである。
だって、あのメンツだぞ! 興奮しない奴は頭おかしい。
「俺今日のために今まで生きてきたのかもしれない。」
ヘルはいたって真面目な顔でそうこぼした。
その気持ちは分からなくもない。けどそれを言うとゲヴィッターからツッコミが……
「そうか、なら今日くたばれ。」
ほら。言わんこっちゃない。
「はあ? お前の方がくたばるべきだろ? 何が『日焼け止め展開』だ!」
「お? いつもに増して煽ってくるじゃねぇか。いいぜ、今日こそ決着をつけてやろうか?」
喧嘩になりそうだな……こんな日にわざわざ喧嘩しなくてもいいだろうに。
「おいお前ら、テンション上がってんのは分かるが落ち着け。幸せは分け合え。それと普段から喧嘩してるみたいになってるけどお前らが煽ってんのは俺だろ。」
「は? 幸せは分け合え?」
「ブーメランの世界大会にでも出る気かこいつは?」
ヤバい。矛先がこっち向いた。
「大体お前のせいで俺たちに女運が回ってこねぇんだろうが!」
「あの女子たちだってみんなお前にベタ……認めたくないから言わねえけどとりあえず爆発しろ!」
「え、ちょ……」
そんなに煽られても身に覚えがない……ていうか、ブーメランの世界大会ってなんだ。
「今日という今日は収まらん! ぶちのめしてやる!」
「ああ、その通りだ! 行くぞ、ヘル!」
二人がついに攻撃態勢に入る。
ゲヴィッターはその身にある魔力を収束し、俺へと焦点を定める。
ヘルは槍を取り出し今にも俺を串刺しにしようと構える。
「そんなに怒るなって……っ!?」
なだめようとした瞬間、素早い雷撃が俺の目の前に迫る。
「『ディスアピア』ッッ!」
何とか消滅魔法を放ちその攻撃を回避するが、二人は目がマジだ。
これは俺も本気で止めなくては……
「『フレアバレット』」
無詠唱で放つ炎の弾丸は俺の指先から放たれ、まずはヘルのパンツを燃やし尽くす。
次弾も同じようにゲヴィッターのものを焼き尽くす。
「なにっ!?」
「だが、俺たちはこれから海に行くのだ! これ位気にすることも――」
「まだですかぁ?」
ヘルが叫んでいるさなかに無慈悲にも天使が降臨してしまった。
この状況では天使ではなく悪魔と呼ぶのがふさわしいかもしれない。
カッツェちゃんは硬直している。
今のうちに隠せば言い逃れができるかもしれない。そう考えてヘルたちの方を見るが、
「なっ……!?」
「へぁっ……」
こちらも硬直。詰みだ。
「きゃああああああああああああ!!!!!」
大きく叫ぶカッツェちゃん。とたん、残りの女子全員が部屋に入ってくる。
その様子はまさしく、地獄絵図。
「なな、なんで履いて……!?」
顔を羞恥の色に染めながらもうすでに水着を着たカームが問いかける。
その答えは簡単。
「燃えた。」
「なんでだよ!」
そうなるよね。俺は特にダメージないから超余裕だったりする。
「はいじゃあ、とりあえず女子の皆さんは一旦出てもらっていいですかね?」
「あ、う、うん」
女子は静かに部屋から出た。
硬直していた彼らはすでに意気消沈といった様子だった。
「終わった……」
「俺たちの楽しみが……」
「大丈夫、多分見なかったことにしてくれるから。」
俺は慰めながら思った。
(普通シチュエーション逆じゃね?)
と。
☆
なんとか着替えも済ませて海に来た。
波の音が心地よく耳をくすぐる。
だが目的はそこじゃない。もう一度言おう。目的はそこじゃない。
「はぁぁ……! 海ってすごくきれいですね!」
カッツェちゃんは嬉しそうに海を見ながら感想を言った。
うん、そうだけど、昨日も見てるよね。
カッツェちゃんはスカートビキニにパーカーを羽織っている。白い水着の色が桃色の髪と映えて素晴らしいコントラストを生み出している。いっそ彫刻にしたいレベルだ。
「私、泳げるかしら……」
と心配そうにつぶやくのはカームだ。
彼女はその豊満な胸を強調するかのようなオフショルダービキニだ。こちらもパーカーを着ているものの、その双丘の大きさは計れる。
ふっ、美しい。
「のう、主。さっきから視線がいかがわしいが? 妾だけにしてくれんか?」
「うるせえ、それは気のせいだろ。」
タマモは黒色の一般的な三角ビキニだ。羞恥心というのが抜け落ちているのか上には何も羽織っていない。それだけにタマモの妖艶さというべきか、持っている魅力が余すことなく発揮されている。正直に言おう。目が離せない。
「クリンゲル! ニアはどうなの?」
「お師匠様、私はどうですかね?」
ニアは純白ワンピースで子供らしさ倍増。そうだな、守りたくなるような印象を受ける。決して、劣情は抱いていない。大丈夫、もう詰所にはいかない。
凪沙に関しては色気、という面ではやはり劣ってしまうが黒髪ということだけあって清純な感じが新鮮で素晴らしい。
なんだろう、この幸福感。俺また死ぬのかな?
「感想はないの?」
ニアが立腹といった表情で俺に問いかけてくる。ここで詳しくいっても引かれるかもしれないから、そうだな、ここは……
「皆、似合ってるよ。」
これで当り障りないはず……
「は?」
「そんな安直なの期待してないわよ。」
「逆に流石お師匠様ですね。」
「主、妾は別に気にしておらんぞ。あとで個別に感想を言ってもらえるのだろう?」
「わ、私も別に……似合ってるってだけでうれしいですし……」
なんでだ。褒めたのに貶されている。
ちなみに、ヘルとゲヴィッターはこの時の光景をのちにこう語った。
「あれが、天国だったのだ。」
と。
☆
「さて、泳ぐのは良いけど普通に泳いでも面白くないわよね。」
カームが考えるように呟く。
「確かに普通に疲れて終了な気がするの。」
ニアもそのカームの言葉にうなずいて同意した。
「そういうと思って俺はこれを持ってきた。」
俺はすでに膨らませていたビーチボールを取り出した。
言うまでもなく日本で買ってきたものである。
「なんですかこれ?」
カッツェちゃんは興味津々にビーチボールを触り始める。
「ビーチボールですよ。空気を入れて膨らませてあるんです。」
凪沙が得意げに説明する。俺のセリフを奪われてしまった。
「なるほど、子供が遊ぶこっちの世界のボールより軽いようだけど?」
「素材の違いですかねー。その辺はよくわからないですけど、これはビニールって言う奴でできてますよ。」
もしかしなくても素材の違いだろう。
魔法世界で言うボールとは丸く削った木の球に安全のためゴムのような素材を巻き付けただけの物だ。
中は空洞にしてあるので多少は軽いがビニールと比べてしまえばとても重いだろう。
「これで何すんだよ。」
ゲヴィッターが尋ねる。
「『ビーチバレー』さ。」
俺はリア充的雰囲気ににやりと笑いながらそう答えたのだった。
お読みくださりありがとうございます。