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第九十四話 俺はロリコンじゃない。

お待たせしました、最新話です!

 


 夕食を食べ終わった俺たちはそれぞれの部屋で自由に過ごすことになった。

 もちろん俺の部屋にはカームやカッツェちゃんが遊びに来ていた。ニアですらも仕事を済ませて俺の部屋に来ていた。


「明日は何か予定があるのかしら?」


 カームが俺にそう尋ねてくる。

 それはやっぱり海水浴だろ。


「海に泳ぎに行きたいかなー。」


「そうね、元気があるうちに泳いでおく方がいいのよ。」


「妙に含みのある言い方じゃな、ニア?」


 タマモが不思議そうにそう尋ねる。


「いや、五日間もあると疲れが出るだろうと思っていってみただけなの。流石にニアでも旅行くらいは楽しく過ごさせてあげるのよ。」


 なんだ、良かった。

 俺はてっきり課題が山ほど用意されているとか、特別にレポートを書くみたいなことをさせられるのかと思った。


「お師匠様、私、忘れてませんよ?」


「私もですよクリンゲル君!」


 凪沙とカッツェちゃんが目は笑ってない笑顔で俺に微笑みかける。


「ももも、もちろんですよ。明後日! 凪沙は明後日ね! カッツェちゃんはその後!」


「それならいいです。」


 二人はその殺気をも孕んだ冷笑を止め普段の笑顔に戻った。

 女の子って本当に怖いね。


「そろそろ寝るか?」


「明日海だしな。そうするか。」


 ヘルとゲヴィッターも寝る準備を整え、カッツェちゃん達も部屋を出ようとする。


「じゃあ、また明日!」


「はい、海楽しみですね!」


「お休みー」


 そう言って別れようとしたが、一向にニアが俺のベッドから出て行かない。

 ……あれ? ここ俺の部屋だったよね。間違えてないよね?


「なあ、ニア? お前は教員専用の部屋があったよね?」


「ちゃんと巡回はやるのよ! 仕事はするからここに置いてほしいの!」


「……出て行きなさい。」


 俺が無情にもそう告げるとニアは今にも泣きだしそうな悲痛な表情を浮かべる。


「なんでなの!? わざわざ夜景も楽しめるようにクリンゲルの部屋だけちょっとだけ料金が高い部屋を取ったのに!」


「お前の仕業か!」


 ヘルとゲヴィッターは「役得役得」と頷きながらいつの間にかバスローブに着替えて片手にワインを――なんであいつらワインを持ってるんだ。未成年じゃねえの?


「お前らはなんでワインを飲んでんだよ!」


「「いや、ぶどうジュース。」」


「紛らわしいわ!」


 ふとニアの方に視線を戻すと、しれっと俺のベッドの中に潜り込んで寝る態勢を整えていた。


「お前もどさくさに紛れて寝ようとするな!」


 俺はニアがくるまっている布団をはがすために奮闘するがそれにニアが一生懸命抵抗する。


「や、止めるのよ! ニアの楽園エデンを奪わないで!」


「どこがエデンだ! 早く教員室エデンに帰れ!」


 何とか布団をはぎ取った俺はニアを抱きかかえて部屋から閉め出そうと――


「な、何してるんですか?」


 宿の従業員が騒いでいる俺たちの様子を見に来たらしく、俺が部屋の扉を開けた瞬間に目が合った。

 綺麗なお姉さんが困惑した目で俺とニアを交互に見る。


「い、いや、これはその……」


 マズイ。今の構図は必死に抵抗するかわいい小さな女の子を無理やり部屋から連れ出そうとしているように映るはず……

 つまりはたから見た俺はロリコン変質者。


「あの、これは誤解というか、なんというか……!」


「へ、」


「へ?」


「変態!!」


 従業員のお姉さんが上げた叫びで近くの部屋からわが校の生徒がたくさん現れる。

 それだけでなく一般客やほかの従業員も現れる始末。

 誤解が誤解を呼んで、俺の社会的地位を死に追いやっていく展開。

 俺の顔はだんだん青ざめる。


「だ、誰か、この人捕まえて!」


「ち、違う、こいつは俺たちの担に――!?」


 なぜかニアのことを知っているはずのエリート養成学校の生徒までもが俺を取り押さえに来た。というか取り押さえに来た人の九割はそいつらだが。


「待って、苦し……!?」


「な、何が起こってるの……!?」


 俺と一緒に連行されるニアは自分がどんな状況か掴めていない。

 これは真剣に兵士の詰め所行きな気がしてきた。


「ま、待つのよ、ニアは教師なの! ほら、ここに教員証明書が……!」


 一生懸命ニアはアピールするが結局抵抗虚しく「担任はどこだー!」と叫ばれながら教員室に連行された。


「お、俺の向かう先は……?」


「詰所。」


「勘弁してくれぇぇぇ!!」


 その後誤解を解くのに二時間くらいかかった。



 ☆



 波の音と眩しい朝日で目が覚める。

 今日は待ちに待った海水浴の日だ。

 すがすがしい朝が俺の目覚めを待ちわびていたかのように光り輝く。


「ふっ、今日が修学旅行最高の日になるぜ。」


 俺が外を見ながらそう呟いているとヘルとゲヴィッターが起床する。


「んん、あれ? お前詰所に行ったんじゃ?」


「触れてくれるな。あえて触れてなかったんだから触れてくれるな。」


 昨日のことを思い出して遠い目をする俺。

 いろいろ凄かった。ちょっとロリコンに厳しいのかな、この世界。

 俺はロリコンじゃないぞ! 本当に違うからな!


「さあ、清々しいほど晴れた朝だ。朝食に行くぞ!」


 俺がアロハシャツを着て部屋を出るとヘルたちもついてくる。

 その眼にはもはや眠気など微塵も残っていない。あるのはこれから目にする真なる桃源郷への期待である。


 食堂に着くと、すでに何人かが朝食を取っていた。

 バイキング制のようだ。これなら自由に食べられるし時間も合わせることができる。


「よし、あまり重いものを食べると海でキャッキャウフフできなくなるぞ。」


「分かっている。軽く、だがエネルギーになるバナナだろう?」


「別にバナナとは言ってない。」


 どや顔でバナナを取り始めるヘルは置いといて俺とゲヴィッターは思い思いに直感で朝食を皿に取っていく。

 すると、女子たちが髪を手櫛で整えつつ、眠そうにやってきた。


「おはよう、みんな。眠そうだけど大丈夫か?」


「ふぁぁ……ちょっと夜更かししちゃったかしら。でも大丈夫よ。海は楽しみだから。」


 カームが胸を張って答える。

 海に来てもらわないと困るんだが。これからの五日間の命運が分かれるんだけど?


「無理はするなよ、海は危険だからな。さあ、朝食にしようぜ!」


「なんであんたはそんなにテンション高いのよ……」


「何もテンションが高いのは俺だけじゃない。むしろヘルやゲヴィッターの方が高いくらいだろ?」


「無論だ。」


「今日のために生きてきた。」


 サムズアップしながら二人が答える。眩しい笑顔だ。欲望にまみれている。


「あー、でも分かります! 修学旅行って学校生活で一番楽しみですよね!」


 カッツェちゃんが笑顔でそう答える。その穢れ無き精神が俺たちにとっては眩しすぎる。なんかよこしまな考えしか持ってなくてすいません。


「きっと主たちはそんな高尚な考えではないと思うがの。まあ妾の魅力にやられてしまうがいいわ。」


「タマモって残念美人感がぬぐえないよな。」


「タマモちゃんもったいないぜ?」


 ゲヴィッターがタマモにそういった。自ら地雷を踏みぬくとは……漢か。

 そんなことを話しているうちに全員がそれぞれ好みの朝食を皿に取ったので席に着く。

 俺は軽めにパンとスープ、サラダとごく普通の朝食の組み合わせにした。

 他のみんなもヘル以外は普通の朝食のようだ。

 ヘルはバナナ十本と極端なものだが。


「朝ご飯食べたらすぐに海に行くんですか?」


 凪沙がパンを頬張りながら尋ねてきた。

 リスのように頬が膨らんで愛らしい。が、マナーがなってない。


「食べながら話さない。……そうだな、ニアの仕事が終わってからみんなで行くから少しは時間あるんじゃないか?」


「そうですか、じゃあ食休みも取れるので全力で泳げますね!」


「そうだな。楽しみでしょうがないぜ!」


「ニアがどうしたの?」


 後ろから声をかけられたので振り返ってみるとそこには寝起きの顔のニアがいた。

 髪は整っているが目はまだ半分夢の中にいるようなとろけ具合だ。


「顔洗って来いよ……今日は仕事あんの?」


「特にないからすぐに遊べるのよ。」


「そうか、じゃあみんなの支度が終わったら行くか。食休みはまあ――何とかなるだろ。」


 俺がそういうと皆も了承してくれたようで頷いてくれた。

 いよいよ俺たちにとっての楽園エデンはすぐそこだ。




お読みくださりありがとうございます!

話が進んでない? へたくそな焦らしです。

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