イエガネーゼ1
「ーー知らない....いや、知ってる天井だな。これは」
鳥の囀りで目を覚ますと、自室のベットの上にいた。
起き上がり、木窓を開けると、雀とツバメを足して二で割ったような小鳥が一羽入ってきて、俺の肩にとまった。
外を見てみると、どうやら朝のようだ。
うーん、いつ寝たんだったか、何故か記憶がハッキリしないなぁ。
昨日は何か、とんでもない事があった気がするんだが....。
「....これは、そこはかとない陰謀の香りがする。
なぁ、ワトソン君?」
眉間に皺を寄せ、真剣な顔で肩の小鳥に話かけると、小鳥は直ぐ様飛び立ってしまった。
飛び立つ直前、心なしか嫌そうな顔をしたように見えたのは俺の気のせいだろうか。
....冗談はさておき、昨日なにをしたんだったか。
昨日、昨日....、
ああ!
「蜥蜴モドキと戦ったんだった!」
人殺しの現場を目撃し、感情を抑えきれずにドラグーン種に楯突いたんだったなぁ。
「しかし冷静になって思い返すと、よくあんな無茶をしたもんだ」
前世も含めてあそこまで激怒したことは今までなかったんだが....。
しかも相手は指先一つで人を殺せる、世紀末の救世主の様な存在だ。
一歩間違えば『お前はもう、死んでいる』的な状況になっていてもおかしくなかった、いや寧ろその可能性のほうが高かった。
これからはもう少し考えて行動しよう。
昨日のようなことばかりしていると命が幾つあっても足りない。
「それにあんなのは俺のキャラじゃないしな」
ぐぅ~~~
そんなことを考えていると、腹の虫が鳴いてしまった。
そういえば昨日も朝の一食しか食事をしていなかったなぁ。
思えば転生を自覚してからの半分は空腹状態である。この成長期の体で、ここまで食事を取らないのは不味いだろう。これは早急に栄養摂取しなければ。
ーーー
「おはよう、母さん。
何故かとてもお腹が空いているので朝食を用意して頂けないでしょうか」
自室から階段を下っている途中に台所に母が立っているのを見つけ、声を掛ける。
以前に全く同じ台詞を言った記憶がある気がするが、いつだったか....。
これがデジャ☆ビュ、というやつか。
母がこちらをチラッと見たが、その表情はどこか陰があるように思えた。
おまけに俺の言葉は無視された。
台所のテーブルに視線を向けると一人、ジュエル種の男が座っていた。
まさか....、『今日からあなたの父親になる人よ』的な展開が!
ということでは全くなく、今日からも何も、元から俺の父親だ。
そう、父親である。
何気に俺が前世の意識を取り戻してから初対面なのだ。
朝は早く、日が登りきる前に仕事に向かい、夜は俺が眠りに就いてから帰宅する。そんなブラック企業に勤めるサラリーマンのような生活をしている父なので、仕事が休みの日以外ではあまり遭遇しないのだ。
因みに父が何の仕事をしているのかは聞かされていないが、集落の外に出ての仕事らしい。
「おはよう、父さん。今日は仕事休み?」
この時間に家に居るということは、仕事が休みなのだろうと思い尋ねてみる。
「....ああ。今日は大事な話があるから仕事を休みにした。
取り敢えず立ってないで椅子に座りなさい。ほら、母さんも」
言われるままに席に就く俺と母。
どうでもいいが、何故この男はこんなにも威圧感を出しているのか。
俺の父親の視線が鋭い。
「分かっているとは思うが、大事な話とは昨日の件についてだ」
あー、やっぱりかぁ。
薄々感づいてはいたが、俺はこの集落を略奪者から守った英雄である。
その英雄に何か褒美を出そう、とかそういう類いの話だろう。
いや~、参っちゃうね!
だがここで調子に乗ったら器が知れるというものだ。
ここは謙虚に行こう。
「父さん!
僕は人として、当然の事をした迄です!
なので、褒美等は結構です!」
若干どや顔になってしまったが、まぁいいだろう。
「?....何を言ってるんだ?」
....お前が何を言ってるんだ!
ここは自分の行いに利益を求めない、謙虚に育った偉大な息子に、泣いて喜ぶ所だろうが!
「何を勘違いしているのかは知らんが、エル、お前に聞きたいことがある」
どや顔から唖然とした表情に変わった俺に訝しげな目を向けながら父は切り出す。
「俺は見てないがお前は昨日、魔法を使ったそうだな。本当か?」
「うん」
「どうやって使い方を知ったんだ」
「森で会った妖精に教えて貰ったんだ!スゴいでしょ!」
妖精という普段見かけない種族に会ったこと、魔法が使えることを自慢気に話すと、父の視線が更に鋭くなった。
気にはなったが、俺が魔法を修得する過程において疑問があったことを思いだしたのでそれを聞いてみることにする。
宝石を通さないと魔法が使えない。子供は下級魔法を使える程度の魔力しかない。というのは、子供が魔法を暴発させない為の嘘ではないのか。
子供は平均して俺位の魔力があるのか。
この二点だ。
一つ目の疑問の答えは俺の思った通りで嘘らしい。
二つ目の疑問の答えは俺が異常、というか大人ですら俺の半分も無いらしい。
成る程、魔力が売りのジュエル種の大人の皆さんでも俺の半分以下ですか、そうですか。
ふひひ、俺最強伝説の始まりだぜー!
「重要なのはここからだ」
俺無双 (笑)状態を想像しながらニヤニヤしていると、父が声を低くして話出した。
「確かにお前がドラグーン種を追い払ったお陰で集落の食糧等を奪われずに済んだ。
しかし、同時にこの集落を危険に晒したことを理解しているか?」
ーースー、っとバカなことを考えて浮わついた俺の頭が冷えていくのを感じた。
言われて気付いたが、確かにそうだ。
もし俺が負けて殺されるだけならまだいいが、怒りの収まらないドラグーン種が集落の全員を皆殺しにした可能性だってあった。
「それにお前は相手が退かないなら集落ごと消してやる、と言ったそうだな?」
「あ、ち、違っ!あれは、脅しただけで!」
「本心がどうであれ、お前にはそうするだけの力があり、そういう発言をした。
聞いていた人は皆、恐怖と軽蔑の目でお前を見るだろうな」
「くっ、」
何も言い返せない....。
「それで、昨日の夜に集落の大人達で話し合った結果、お前を集落から追放することに決定した」
な....に....?
「お前は危険だ、というのが大人達の総意見だ」
「ちょ、ちょっと待て!
確かに俺は集落を危険に晒したし、危ない発言をしたかもしれない!
でも!根本はこの集落を守る為にしたことだ!」
「それをどう証明する?
端から見たら、お前がただキレて相手を挑発したようにしか見えないぞ」
確かにそうだ....。
そうだか、でも!
「父さんはそれでいいのか?!
ジュエル種の子供が集落の外で生きていけるはずがない!
俺に....息子に死ねって言うのか?」
「それも含めて追放に納得したんだ」
「っ!母さんは?」
すがるように視線を向けると、母は俺から目を反らし、俯きながら言葉を漏らす。
「....ごめん、ごめんなさい....。
あの時のあなたを見て、私は恐怖を感じてしまったの....」
ごめんなさい、ごめんなさい、と弱々しく、しかしハッキリとした拒絶の言葉が俺を襲う。
あ....。今何かが壊れた音がした。
それは多分、母の優しさだとか、厳しいながらに一本筋の通った父の愛情だとか、それらの記憶だろう。
それらの記憶が壊れた後に見る二人はまるで別人のようだ。
「....もういい。分かった。
今からお前らは俺の親じゃない。
力に怯えて他人を平気で見殺しにする、他の奴等と同じ弱小種族のクソ共だ」
「なっ?!貴様っ!」
「....事実だろ?
相手に敵わなければ仲間を殺されても黙って従うし、力があると分かれば同じ種族の、それも子供を集落から追い出し、野垂れ死にさせようとする。
クソじゃなきゃグズ共か?」
もうこいつらには嫌悪感しかない。
だってそうだろ?
一番信頼していた人物に裏切られたんだ。
「貴様、それ以上言うなら」
「言うならなんだ?ただじゃおかないってか?」
「もういい!出ていけ!」
なんという小物臭か。
こんな奴が父親だったなんて、ヘドが出る。
「言われなくても出ていくよ。
精々強者のご機嫌を伺いながら細々と生きていくんだな」
俺はそう捨て台詞を残して、十年間暮らした家を出ていった。
ちょっと思い通りなものが書けなかったので後で改変するかもです。