種族に関するエトセトラ2
「あ~?ナンカ文句でもあんのか?クソガキ」
リーダー格の男が面倒くさそうにこちらを向き、鋭い眼光で威圧してくる、が、そんなもの、今の俺には意味がない。
仲間を殺されたのだ。
会えば挨拶をしていた程度の記憶しかないが、それでも同じ種族、同じ集落の仲間だった。
それをこの蜥蜴モドキは無理難題を押し付け、それが通らないとなると容易く命を奪った。
なんたる横暴。
なんいう理不尽。
こんな事が許されていい筈がない。
先程使いきったと思っていた魔力が、怒りと共に沸き上がってくるのを感じる。
あぁ....。
俺の体もあいつを殺せと言っているかのようだ....。
「おい、エルっ!不味いって、早く謝れ」
ウェルが焦って止めてくるが、それは無理だ。
俺の体はもう止まらない。
「死にたいんならもう一回言ってみろよ」
蜥蜴モドキが俺の前まで歩いてきて、バカにした顔で言ってくる。
「....ふざけんなって言ったんだ。
一回で理解しろよ爬虫類野郎」
挑発しながら体の外に魔力を放出させ、瞬時に魔法を放てるように身構えておく。
「いい度胸だ」
ニヤリ、と不適に笑い、長を殺した時の様に人差し指で額を狙ってくる。
その動作自体は視界に捕らえられたが、別段身体能力が高い訳ではないこの身体では反応が追いつかない。
ならばどうするか。
もちろん魔法で防ぐしかない。
幸いにも先程の練習で魔法の発動をタイムラグ無く行える。
なので、瞬時に水の壁が体の前に現れるようにイメージする。
「チッ、魔法が使えたのか。....って、なんだ!こでガボボボ」
水の壁を作り、攻撃を防ぐことに成功したことに安堵してしまい魔力の制御が一瞬乱れてしまった。
その一瞬の乱れで水の壁は一気に膨張。瞬く間に蜥蜴モドキを飲み込む。
直ぐに気を引き締め魔力を制御したのでそれ程大きくはならなかったが、それでもこの蜥蜴モドキが三、四人は入る程度だ。
「隊長!」
「テメェっ、やりやがったな!」
「ぶっ殺せ!」
楽しそうに事の成り行きを見ていた蜥蜴モドキの手下らしき数人が憤怒の形相でこちらに向かって来ようとしている。
流石にまとめて四人相手にすれば俺は成す術もなくやられるだろうな。
ここは一つ、ハッタリを咬ましてやるか。
「動くなっ!
動いたらこの水の中に雷魔法を放つ。
どうなるかわかるよな?」
俺は分からないがな。
雷魔法なんて使ったことないしな。
だが、奴等の動きを止めたということは、水の中に雷を通せば俺の想像通りの事態が起こるということだろう。
しかしこの後どうするか。
いっそのこともっと水を膨張させて後ろの連中もまとめて飲み込んでから雷魔法を試してみるか。
方針が決まり、水を膨張させようとしたその時、
『グォォォォオオオ』
「っ!」
鼓膜が破れるかと思う程の大音量が俺の耳を襲った。
咄嗟に耳を押さえ、体を伏せながら、反射的にその場から一足飛びに後ずさる。
何だ?!何が起こった?
まだキーン、と耳鳴りが残っているが、体を起こすとそこには在る筈の水の塊が無くなっており、蜥蜴モドキが鬱陶しそうな顔をしながらも悠然とそこに立っていた。
「ーーったく。面倒な真似しやがって。」
「な、なんで、俺の魔法、が」
「あ~?んなこともしらねぇで突っ掛かってきたのか?
俺等ドラグーン種の咆哮は魔力を四散させるんだよ」
な、んだよ、それ....。
魔法が通じない?そんなの有りかよ。
ハ、ハハハ、
じゃあ始めから勝ち目なんて無かったってことだ。
とんだ道化じゃないか....。
「だからお前に抵抗手段は無いぜ?
分かったら死ねよ、なっ!」
先程、俺が飛び退いて出来た距離を埋めるために蜥蜴モドキが飛び掛かってくる。
今度は魔法で壁を作ったとしてもそれごと切り裂いてしまうつもりなのか、腰に提げている剣に手を掛けながら。
....諦める、か。
ーーいや、ここで諦めたら集落の食料を根こそぎ奪われてしまう。
長の仇も打てない。
それにどうせ死ぬんなら最期まで抵抗しながら死のう。
考えていると、相手が目の前まで迫っており、剣を鞘から抜く状態だった。
俺は咄嗟に前方に火の魔法を展開し、それを目眩ましに使い、後ろに飛び退き距離をとる。火を使うのは初めてだったが水と同じ要領で問題なく発動出来たようだ。
飛び退き様に、直径30cm程の水の玉を即座に作る。
火の壁をもろともせずにくぐり抜けてくる蜥蜴モドキ目掛けて水の玉を放つ。
流石にいきなり目の前に現れた水の玉を避けることは出来ないだろう。
当たる、と思った直前に、蜥蜴モドキが咆哮をあげるのを予測し、耳を押さえる。
『グォォォォオオオ』
予想通り蜥蜴モドキの咆哮があがる。
予め耳を押さえていた俺に被害はないが、水の玉は弾けるようにして消えてしまった。
だが、水の玉は陽動だ。問題ない。
本命は咆哮が終わった直後の油断しているであろう蜥蜴モドキに俺の最大魔力を注ぎ込んだ魔法を叩き込むことだ。
『ーーォォォ』
今だ!
「うぉぉぉぉおお」
身体中の魔力全てを外に押し出し、それが空に集まり雷になるようにイメージする。
雷は瞬時に形を成し、その体積を爆発的に広げていく。
咆哮が終わり、得意気な顔をしていた蜥蜴モドキが俺が、何かしようとしていることに気付き、周りをサッと見渡して、やがて頭上に異変があることに気付く。
「う、嘘だろ?こんなの見たことねぇよ....」
蜥蜴モドキの発したその言葉は俺も、いや、ここに居る全ての人が思っただろう。
(ーー大き過ぎる....)
空に浮かぶ雷の塊は凡そこの集落を覆い尽くす程の大きさになり、見る者に絶望を与える、力の権化と化していた。
「咆哮だ!
全員で一斉に吠えろ!」
『『『『『グォォォォオオオ』』』』』
発動した俺よりも早く立ち直った蜥蜴モドキは、仲間と一緒に空に向かって咆哮をあげる。
だが、雷の塊はビクともしない。
「チクショウッ!なんで消えねぇんだ!」
「隊長!もう一度やりましょう!」
「ーー無駄だ。魔力が大き過ぎる....。
おい、クソガキ。あれを俺達はどうすることも出来ねぇ。さっさと殺せ」
蜥蜴モドキが諦めた顔で言ってくるが、この雷をそのまま放てば、集落ごとなくなってしまう。
仕方ない。ここは交渉するとしよう。
「生憎、魔力制御が下手くそでね。お前等だけに放つのは無理なんだよ。
そこで交渉なんだが、今すぐ集落から出ていってくれないか?」
「ふざけんじゃねぇよ!あれが使えないなら俺等がお前に従う理由は無くなるだろ!」
確かにそうだろうなぁ。
「だから、交渉だ、って言っただろ?
お前等に略奪されるくらいなら集落ごとお前等を消してやるよ」
「....くっ!」
もちろん、そんなつもりはないが、こう言えば引き下がるだろう。
現に蜥蜴モドキは苦い表情で悩んでいる。
もう一押しだな。
「ほら、どうするんだ?
折角手柄挙げて帰ってきたのに、こんな所で同族と心中していいのか?」
「....チッ、分かったよ。直ぐにここを立ち去る」
そう言うと、踵を返し、蜥蜴モドキの集団は集落から去っていった。
ーーふぅ、
危なかったが何とかなったな....。
っと、そういえば雷を消さないと。
ー
ーー
ーーー
その後、なんとか魔力を分散させて、雷を消した途端に魔力切れを起こし、地面に倒れてしまった。
倒れ込む瞬間に周りの人の目がやけに冷たい感じがしたが、俺はそのまま意識を手放した。