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科学は魔術に嫉妬する  作者: 大山ヒカル


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1/7

人はそれをオカルトと呼ぶ


 幼い頃、テレビで観たアニメ。魔法少女が悪を倒し、平和を守る――そんな物語に、沖田美羽(おきた みう)は瞳を輝かせて夢中になった。

 その時から、美羽は確信していた。この世界には、必ず魔法が存在するのだと。


 大学生になると彼女は人類学を専攻し、ありとあらゆる文献を読み漁った。世界の歴史には、現代科学では説明できない事象が必ず記されている。そこに気づいた瞬間、美羽の心はさらに躍った。

 

 そんな美羽の熱量に教授である小倉も最初は戸惑いを見せていた。「それはオカルトと言うのだよ」と最初のうちは諭していたのだが、美羽の熱は冷めることがない。むしろ日に日に増していく。やがて小倉は困り果て、ついには彼女を研究室に呼び寄せた。


「沖田くん。君、最近ますます拍車がかかってないかね?」


 机を挟んで座る美羽を見て、小倉は深いため息を漏らす。腰まで伸ばした黒髪、ゴシック風のケープコートに膝上までの黒いワンピース姿の美羽。言動と相まって、小倉の目にはまるで“魔女のコスプレ”のように映っていた。


「何がですか?」

「いや、なんでもない。このご時世、何かとうるさいからね。私は何も言うまい」


 小倉の含みのある言葉に、美羽は首をかしげる。


「君が熱心なのは分かった、しかし私には手に負えないということも分かった。そこで、私の知り合いに君と同じような…、君の同志が居ることを思い出してね。一度彼に会ってみなさい」


 小倉は言葉を選びながら、一枚の名刺を差し出した。


「この久保田さんなら、君の疑問に答えてくれるかもしれない」


 美羽は名刺を両手で受け取り、胸の前に掲げて微笑む。

「ありがとうございます、教授!」


 そう言うなり、名刺を握りしめたまま研究室を後にする。

 去りゆく背中を見送りながら、小倉は苦笑混じりに呟いた。


「……本当に変わった娘だ」




 都心から電車で二時間ほど、美羽は目的地へと辿り着いた。海岸近くの住宅地に建つのは、古びた洋館を思わせる屋敷。外観だけ見れば、まるで魔術師の館だ。

 その姿に、美羽の胸は高鳴る。――なのに、玄関にあったのはライオンのノッカーではなく、ごく普通のインターホンだった。思わず肩を落としながらも、ボタンを押す。


「初めまして。沖田美羽といいます。小倉教授の紹介で参りました」

「はあ? 何だ急に。何の用だ」


 返ってきたのは、気難しさを絵に描いたような低い声。


「魔術研究について伺いたいことがあるんです」

「……入れ」

「おじゃましまーす」


 扉を開けると、スーツベストを着た中年の男が立っていた。メガネの奥の目は鋭く、眉間の皺が消えることはない。

 美羽の視線が屋敷内の調度品に好奇心を隠さず泳ぐ一方で、男は気にも留めず歩き出す。


 書斎へ案内されると、壁一面の本棚と書類の山が目に飛び込んできた。中央には重厚なソファ。美羽が腰を下ろすと、対面に男も座る。


 その男――久保田は、氷のような表情を崩さぬまま、開口一番こう告げた。


「最初に言っておく。この世に“魔術”なんてものは存在しない」


 久保田の言葉に、美羽は思わず吹き出した。

「いやいや、何言ってるんですか~。ありますよ~」


 来訪者を突き放すかのような第一声。それを軽く受け流す美羽の反応に、久保田は眉をひそめ、小さな付箋にメモを走らせて懐にしまう。


「人間の脳というのは不思議なものでね。現実にないものでも“ある”と認識できてしまう。――例えば、赤く塗っただけの鉄の棒を熱していると信じ込ませ、腕に押し当てると火傷の痕ができる。実際には熱していなくても、脳が信じた結果、肉体が反応してしまうんだ」


 語りながら、久保田は立ち上がり、美羽に指を突きつける。


「水晶、魔法陣、羊の死体。派手であればあるほど脳は騙されやすい。五感を通じて受け取った情報が脳に届き、肉体に影響を及ぼす。魔術の正体とは、そういう“思い込み”に過ぎない」


 言葉に熱が乗る。久保田の眼鏡の奥の瞳が鋭く光る。


「君のようにオカルトを好み、その情報を積み重ねてきた人間には、単なる手品でさえ“魔法”に見える。――私もそうだった。魔術や超能力にのめり込み、すっかり虜になった人間だ。だから痛いほど気持ちは分かる」


 一拍置き、彼は自嘲気味に笑う。


「だが今の私は、この有様だ。魔術研究と言っても、結局は古人の記録を漁り、実験して“不可能”を証明するばかり。魔術とは人間の想像力が生んだ幻想――ファンタジーなのだよ」


 最後の言葉を吐き出すように言い、久保田はソファに腰を下ろした。まるで舞台の芝居を観るように、美羽は彼の一連の動きを食い入るように見つめていた。


「……すまないが、君に言えるのはこれだけだ。大学に戻って勉強し、良い企業に就職することだ。今日はいいきっかけだと思って、帰りなさい」


 長広舌の余韻に浸っていた美羽は、言葉が自分に向けられていたことに気づき、拍手しかけた手を止める。そして、素直な疑問が口から零れた。


「だったら……なんで久保田さんは研究を続けてきたんですか? ただの意地ですか?」


 苦笑を浮かべる久保田。その表情を逃さず、美羽は畳みかける。


「これだけ魔術を否定しながらも、辞めようとはしなかったじゃないですか。――小さな可能性を、信じずにはいられなかったんですよね? 私が興味本位だけでここに来たと思ったら、それは大間違いです。私は確信しています。魔術は、この世界に存在しているんです!」


「その言葉は、私の研究をすべて否定するのと同じだ」

「違います!久保田さんだって信じてるはずです。魔術の可能性を!」

 

 久保田の拳がぎゅっと握り締められ、震えていた。肩もわななき、ついに感情が堰を切る。


 ドンッ。


 彼は立ち上がると美羽に詰め寄り、その胸ぐらを掴んで本棚に押し付けた。

 悲しみを滲ませた怒りの表情が、間近に迫る。


「お前のような若造に、何が分かる! 私は……人生を棒に振っただけだ!魔術を研究し続けた結果、証明してしまったんだよ――魔術なんて存在しないと!」


 声が震え、最後は叫ぶような怒号だった。

 やがて久保田は力を抜き、掴んでいた手を離す。両腕がだらりと落ち、背中を向ける。


 その背は、敗北を背負った男の哀愁そのものだった。


「……もう帰ってくれ」


 重く沈む声。


 美羽は唇を噛みしめ、頭を下げる。

「……ごめんなさい。失礼します」

 





 久保田の家を出た美羽は、そのまま足を空港へと向けた。

 空港近くの古びたホテル。外観はくすみ、看板の灯りもどこか頼りない。美羽はそこへ入り、フロントに立つ。


 出迎えもせず、辛気臭い男が椅子に沈んだまま顔を上げた。事務的に宿泊手続きを始めるが、その声には覇気がない。

 辺りを見渡せば、ロビーは薄暗く、客の姿もない。ガラリとした静けさが、余計に不気味さを際立たせていた。


 二階の隅の部屋の鍵を受け取る。男は部屋番号だけをぶっきらぼうに告げると、すぐに雑誌へ目を落とした。

 この辛気臭いホテルの経営状況を考えながら廊下を歩き、やがて部屋の扉を開いた。


 中は想像通りの荒れ具合。ベッドのシーツに指を這わせると、思わず苦笑が漏れる。近くの椅子に腰を下ろし、持参した魔術書を開いた。


 ――どれほど時間が経っただろうか。気づけば五時間が過ぎていた。立ち上がると固くなった身体を伸ばした瞬間、ノックの音が響く。

 ドアスコープを覗けば、そこに立っていたのは、待ち望んでいた人物だった。


「どうぞ」

「待たせて済まない」


 鞄を抱えた久保田を部屋に通すと、美羽はポケットから一枚の付箋を取り出して問いかける。


「これは一体どういうことでしょうか?」


 付箋にはこのホテルの名前と部屋番号、そして一言――「ここで待て」。


「すまない、詰め寄った時に君のポケットに入れたんだ」

「そこじゃないです、入れた理由を知りたいんです」


 美羽は頬をふくらませ、両手で付箋を突きつける。その様子に、久保田は思わず笑い声を漏らした。

「君も馬鹿だね。そんな走り書きを信じて待っているなんて」


 美羽には魔術を否定する久保田の言葉がどうにも腑に落ちなかった。1年程度ならあの言葉にも納得できたが、久保田は数十年も魔術を研究し続けた男だ。きっと久保田は魔術を信じている。そんな確信が美羽の足をホテルへ向かわせていた。


「早速ですが、何故こんな回りくどい事をしたのか説明してくれませんか?」

「小倉に紹介されたと言ったな」

「はい。小倉教授が久保田さんを紹介してくれました」

「……君が私の家に来た時点で、彼らの策略に嵌ってしまったのだよ。完全に巻き込まれたということだ。いや――君が私を巻き込んだと言う方が正しいかもしれん」


 久保田は鞄を床に置き、ベッドに腰を下ろした。

 その瞬間、古びたシーツの上に積もった埃が舞い上がり、久保田の顔を襲う。


「コホン、コホン……何だこれは、まったく」


 手で埃を払う姿に、美羽は苦笑を漏らす。やがて久保田は落ち着きを取り戻し、真剣な表情で美羽に向き直った。


「美羽くん……そう呼んでいいか?」

「はい」

「君は、魔術の存在を確信していると言っていたな」

「はい。確信しています」

「――私もだ」


 その言葉に、美羽の瞳が大きく見開かれる。


 久保田はゆっくりと語り始めた。

 多くの人は魔術を空想やフィクションだと考える。それは科学がそう定義づけてきたからだ。

 古代に“魔術”と呼ばれた現象の多くは、今では科学によって再現できる。だから人は信じなくなった――。


 久保田が自宅で語っていたのも、確かに事実だった。

 だが、それでも「もしかしたら」という希望を捨てられなかった。

 その微かな可能性が、彼を突き動かし続けた。


 久保田は数十年もの間、伝説・神話・歴史書に残る“魔術の痕跡”を追い、世界中を渡り歩いた。

 そしてついに、魔女裁判や魔女狩りの記録の中に“異質な痕跡”を見つけたのだ。


 しかし――それは彼の想像していた“奇跡の証拠”ではなかった。

 浮かび上がってきたのは、()()()()の痕跡。

 しかもそれは緻密で、完璧だった。

 明らかに個人の手によるものではなく、強大な組織によって行われていた。


「事実を……無かったことにするため、ですよね」

「――そうだ。私もその結論に辿り着いた」


 美羽の言葉に、久保田は静かに頷く。


 魔術は、確かに存在していた。

 だからこそ、彼らはそれを抹消する必要があった。

 “魔術など存在してはならない”――それがこの世界の裏側にある掟だ。


 現代において、人々が絶対と信じるものは科学だ。

 誰も疑わず、そこに依存して生きている。

 もしその科学の基盤が嘘だったと知れたら、世界は一瞬で崩壊する。


「その“彼ら”って、一体何者なんですか?」

「……久遠連合くおんれんごうと呼ばれている」

「久遠連合……」


 久保田は目を伏せ、静かに言葉を続けた。


「科学が“世界の常識”として広まったのは、彼らが勝者だからだ」


 理不尽に迫害され、存在を消され続けた魔術師たち。

 それでも中には、命を懸けて抵抗した者たちもいた。

 だが――敗者の名は歴史に残らない。


 彼らとっての歴史とは古人の功績を残すものではなく、自分たちの都合のいい情報を世界に認知させるための道具でしかない。

 

「――この世界の歴史は、全部嘘だ」


 その言葉を聞いた瞬間、美羽の頬に笑みが広がった。

 幼い頃から抱いてきた違和感、信じたかった真実。

 それが今、目の前の男の口からこぼれたのだ。

 “嘘である”という事実こそが、彼女にとって希望だった。


「その証拠に、争いのあった国を特定することが出来た」

「ほお、凄いですよそれ」


 思わず身を乗り出す美羽に、久保田は息を潜めるように続ける。


「だが、それが分かってからだ。久遠連合の連中が、私の周囲に現れ始めた。家は監視され、電話も盗聴されていた」


「なるほど……。久保田さんの“演技”、真に迫ってましたね。わざと突き放して、付箋で私を誘導して……このホテルまで来させた、ってことですか」


「そういうことだ。小倉から紹介されたと言っただろう、あの男は久遠連合と繋がっている」

「あの小倉教授が?想像つきませんね…」


「今や考古学者、歴史学者の殆どに奴らの息がかかっている。その意味も分かるはずだ」

「魔術師の痕跡を歴史から消す為…」


「そうだ。小倉は、私が“手がかり”を掴んだことを察知した。そして君を使って、情報を引き出そうとしたのだろう」


「私を……ですか?」


「そうだ。だが、私は気づいた。だから、あの時ああして追い返した」

「追い返された役立たずな私は、お役御免では?」


「そんなに甘くはないだろう、人並み以上に魔術に対して興味を持っている美羽くんは、いずれ私のようになるかもしれないと思ったはずだ。情報を聞き出した後に、私と一緒に消そうとでも考えていただろう」

「……」


 沈黙が部屋に落ちる。

 外では飛行機の音がかすかに響き、窓の向こうで光が瞬いていた。


「久保田さん、そういえばこのホテルの近くって空港ありましたよね…」

「ああ、だからこのホテルで落ち合うことにしたのだ」

「もしかして、この国を出るとか言わないですよね」


 久保田は立ち上がり、鞄の取っ手を握った。

 その瞳は、どこか少年のように輝いていた。


「そうだ、戦場となった国に行くぞ!」






 久保田の予想以上に、久遠連合の動きは早かった。

 空港の警備はいつもより明らかに多い。

 それが自分たちを捕らえるための布陣だと理解したとき、美羽は背筋が凍る思いがした。


 久保田が言っていた“私と一緒に消される”という言葉――

 それが現実味を帯びてきた。


「久保田さん、警備員多いですね」

「まずいな…」

「どうするんですか」

「時間が経てば経つほど奴らはここを重点的に警備するだろう」

「時間は無いということですね」


「とりあえず国外へ出る。目的地へのルートは、逃げ切ってから考えよう」

「でも、この人数じゃ……搭乗口で絶対に捕まりますよ」

「わかっている」

「ということは何か策があるんですね」

「ああ、――いや無いな」

「ちょっと真面目に考えてくださいよ」

「美羽くんも何か策は無いのか?」

「考えはありますけど…」

「おお、聞かせてくれ!」


 2人は搭乗口を諦めると、滑走路近くにある格納庫の影に身を隠した。

「本当に大丈夫なんだろうな」

「大丈夫です。映画で見たことありますから」

「映画って美羽くん……」

「やっぱり、空港入り口と搭乗口以外は、結構手薄でしたね」

「これも映画通りか?」

「はい、ここまでは順調です!」

「……」

「よし、あの飛行機にしましょう」


 美羽が指差したのは、見慣れない国のマークをつけた旅客機だった。


「あの機体、この国のものじゃないな」

「はい。入国便は混むけど、帰国便は乗客が少ない。狙い目です」

「その国を知っているのか?」

「祖父の母国なんです」

「よし、あれにするか」

「はい」



 2人は搭乗口を諦め、滑走路脇の格納庫の影に身を潜めた。

 吹き抜ける風が冷たく、ジェットエンジンの低い唸りが地面を震わせる。

 整備士たちが最後の点検を終えるのを、息を殺して待つ。


 手信号が交わされ、整備士が格納庫の奥へと消えていった。

 その瞬間、美羽が頷く。


 2人は影の中を這うように進み、車輪の巨大な影の下に辿り着いた。


「登りますよ!」

「年寄りにはきついな……」


 美羽が久保田を押し上げ、2人は狭い空間に潜り込む。

 そして、エンジンが唸りを上げ始めるまでの二十分――

 息を潜め、鼓動の音を数え続けた。


 次の瞬間、機体が大きく揺れた。

 車輪が動き出し、飛行機が地上を駆け抜ける。


「ついに出発です」

「ああ……!」


 機体は加速を続け、大きな唸り声を上げて浮き上がった。

 その衝撃は凄まじく、久保田の腕が外れた。

 美羽が手を伸ばすが、間に合わない。


 久保田の身体は車輪収納口の隙間へ――吸い込まれるように消えた。


「久保田さん!」


 美羽の叫びが響く。久保田の姿は機体の後方、遥か下方に。

 飛行機はすでに離陸していた。高度はビルの五階ほど。

 地面が迫り、風が裂ける。


 久保田は何が起こっているのか理解できない。

 ただ無意識に手足をばたつかせ、何かに掴まろうとする。

 けれど、掴むものなどどこにもない。

 あるのは、ただ――落下する自分自身だけだった。


 死の覚悟をする暇もない。

 落ちる音すら、遠くで他人のもののように聞こえた。


 その瞬間、美羽は迷わず飛び降りた。


「身体を広げて!」


 突風にかき消される声。それでも久保田の耳には届いた。

 言われるがまま、四肢を広げる。

 空気抵抗が働き、美羽との距離が一気に縮まった。


 美羽は体を窄めて落下速度を上げる。

 視界に久保田の姿を捉えると、全力で腕を伸ばした。


 ――掴んだ。


「美羽くん! 何をしてるんだ!」

「いいから、私にしがみついてください!」


 久保田は訳もわからず、美羽の身体にしがみつく。

 その瞬間、二人の体が――上昇した。


 まるで見えない力に引き上げられるように、飛行機へと吸い寄せられていく。

 風を切る音が逆流し、視界が反転する。


「お願い、間に合って……!」


 車輪収納口が閉じかけた刹那、二人の体がその隙間に滑り込んだ。


 ――間一髪だった。


 息を切らせながら、久保田は自分の体を確かめる。


「い、生きてる……のか?」

「……みたいです」

「い、一体……何が起こったんだ……」


 久保田が美羽を見ると、彼女は静かに微笑んだ。


「最初に言いましたよね。私は、魔術師の存在を確信してるって」

「あ? なんだって?」

「私自身が――魔術師だからです」


「ははは……なんじゃそりゃ……」

「あはは……」


 乾いた笑いが、冷たい鉄の空間に響く。


 その時、収納部の赤いランプが点灯した。


「久保田さん……映画だと、ここから飛行機に乗り込んだ人……」

「なんだ?」

「凍死してました」


 言葉の通り、凍てつく寒気が身体を刺した。


「……」


 美羽が上を指差す。天井に小さなハッチがある。


「あそこ。貨物室に行けそうです」

「……行こう」


 二人は冷たい金属の壁を掴み、体を引き上げた。

 吹き込む風の中、互いの呼吸だけが響く。


 ――この二人の出会いから、わずか五年後。

 世界は、魔術と科学の戦争に包まれる。

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