出発
前書きチャンネル
二人とも無事でよかったー。
文字数3498字 推定所要時間8分
出発
7月10日
既に気温は三十度を超える猛暑が続く正午
「ただいまぁ、あれ、咲夜さんは?」
今日は橙の昇格式兼、説明だけだったので早めの帰宅
樋口がソファに膝を抱えて雑誌を読んでいた
「おかえり、今日咲夜さんは一人の任務だよ」
「隊を成してる意味ないな」
隣に腰掛けてそこはかとなくテレビをつける
「そもそもあの人1人で動く感じの人だったし」
(そもそも、咲夜さんはお目付役だろうな)
視線が胸元に吸い寄せられていく
「あれからちゃんと下着はしてるのか?」
「してないよ?暑いし面倒なんだよねぇ、それ咲夜さんにも言われた」
(うちの子が苦労かけてます…)
「精神が早熟ってどんな感覚なんだろうな」
咲夜の殊科は、遠隔斬撃
視界内の一定範囲内の任意の場所に刀と同じ挙動をする魔力の塊を発生させる能力
柳生家は代々、精神が早熟し短命なのだという事を聞かされていた
「小さいのにめっちゃ大人びてると思ったらまさかね」
「でもちょっと可愛いとこあるよね」
「確かに、あのお面とかな」
「あ〜、あのお面可愛かったよね」
「狐が好きだから狐のお面ってポイント高め」
「割れたはずなんだけど、すぐ同じような奴つけてたよね」
「右耳に赤いのついたやつな」
「そうそう、家で見れないのちょっと残念」
「眼帯してたらつけなくていいんかな?」
「ちょっとでも心許してくれてればいいんだけどね」
「警戒心高そうだからな」
「咲夜さんって意外と大雑把だよね」
「確かに、上着とかたまにソファにかかってるし、あと咀嚼スピードめっちゃ早いからな」
「フフッ、それ関係ある?」
「刀の名前が好物からとってるって聞いたぞ」
「何だっけ?」
「鮭のバター焼きにポン酢かけるから鮭ポン酢って」
「鮭ポン酢?えーっと…影打神奈鴨とかじゃなかった?」
(あー恥ずかしかったのかぁ…)
「」
「日中の殆ど瞑想してるからあんまり喋れないんだよね」
「え、嘘?俺めっちゃ…」
(あ〜…あかねは家で下着あんまつけないからか…精神は壮年、体は思春期ってだいぶ大変そうだな…)
「めっちゃ?」
「めっちゃ…喋りたいんだけどなぁ〜って」
「だよねぇ、今度みんなで食べに行こうよ」
「だな、名古屋のうまい店教えて貰おうぜ」
「先月のうどんのお店めちゃ美味しかったよね」
「あぁ〜行ったなぁ、奢ってくれたんだよね」
「油揚げ3枚食べてたね」
「狐好きじゃなくて咲夜さんが狐かもな」コンコンって
「フフッ、今度お稲荷さんでもお供えしておこうかな」
「瞑想中に?」
「そうそう、お狐様に感謝していただきます」
「あかねが食べるかのよ」
「つまみ食いだよ」
「全部行くだろ?」
「もちろん!」
「食事なんだよそれは……」
「…?、どうしたの?」
「いや、なんか二人で会話するのが久しぶりな気がして」
「そうだっけ?」
「なんて言うか…」
「?」
不思議そうに覗き込んでくる
「今から始めるのか?」
「咲夜さん!?」
「お狐様!おかえり!」
「お狐様とはなんだ、今帰ったが用事を思い出した」
「ダイジョオブです、ご飯にしましょうか」
「せっかくムードを壊してしまったな」
「違いますって」
「なになに?」
「あかねも大丈夫だから」
食卓にカトラリーを並べた
簡単に作ったミートパスタを食べる
「俺橙に上がりました」
「おぉ〜、パチパチパチ」
「そうか、なら辞職する事だな」
「直ってない…」
「お前が覚醒でもしない限り、俺の意思は変わらん」
「覚醒ってそんな」
「あすか…その…実は私も、ほんの少しだけ、咲夜さんの意見に同意と言うか…」
「心配してくれるのは嬉しいけど、状況に適応するには強くなるしかないって、アーサーさんも言ってたし」
「…うん」
「ただ巻き込まれたとはいえ、要は覚醒して炎ブッパなせるようになりゃいいって事だろ?」
「そういうことになる、本気なら伝えておくが、覚醒したとしても耐えられる器じゃなければ狂徒に落ちるだけだ」
「大丈夫、絶対にならないからな」
「…」
「あすか…うん、応援してる」
「その前に基礎体力をつけろ」
「その…二人に相談があるんだが…」
樋口は食べ終えたお皿にフォークを置いてモジモジする
「…」
「やな同僚でもいたか?」
なんか嫌な予感
「その…最近胸が…」
闇に電流走る
あすかはすぐに咲夜を見る
(おとーさーーん!!お父さん出番ですよオオォォ!)
咲夜さんは平然としていた
「痛くて…」
「怪我でもしたのか?」
「そうじゃなくて、しこりというか、何か悪い病気か何かなのかも…」
「そうか、今度知り合いの信頼できる女性オペレーターを紹介しよう、きっと原因がわかるだろう」
「ありがとうございます」
「なんであすかが言うの?」
「一応?」
「すまない、詳細はわからないが、おそらく悪いことではないだろう」
「ありがとうございます!」
樋口は食器を片付けに席を立つ
咲夜はあすかに耳打ちする
「おいあすか」
「なんですか?」
「ちゃんと躾けておけ」
「すいません…現世の常識がまだ理解しきれていないようで…」
「この前なんかお風呂に誘われたんだぞ!」
「すいません…」
「家内でラフな格好は結構だが、ラフすぎるぞ、このままでは保たない」
「な、何がですか?」
「この体が保たない」
「すいません…言って聞かせますんで…」
セクハラは酷い事なんだと思った
「お前ら明日俺に同行しろ」
「え?任務ですか?」
「違う、君らにはそれぞれ合わせたい人がいる」
「合わせたい人?」
「誰ですか?」
「樋口は俺がお世話になった女性のオペレーター、遊部は俺の師匠だ」
「咲夜さんの師匠?」
「あぁ、いい機会だ、戦力のアップと日頃の疲れを癒せ」
「任務とか無いんですか?」
「最近狂徒の発生がない、二週間前まではかなりの頻度で発生していたのにだ」
「嵐の前のって事ですか?」
「まだわからない、俺も暫く休暇になるからな」
「成る程」
「樋口はまだ稽古に付き合ってもらうぞ」
「えぇ…」
「それと警告だ」
溶けた氷がカランと音を鳴らす
「狂徒は発生件数はゼロだ、だがサーチャーが行方不明になる事件が発生している」
「サーチャーが?」
「そうだ、一般市民に被害が出ていない事を鑑みれば一目瞭然」
「狙われてる?」
「知らない人に声かけられてもついて行くなよ」
「子供じゃないんだから…」
「はーい」
こうして長い夏休みが始まった
―1ヶ月後…8月27日
京都某所の昼下がり
高いビルの上層から突如爆発する
けたたましく鳴り響くサイレン
複数回の地響き
「
―最大増加!―
」
爆破地点から上部が爆発と共にズレ動く
空から瓦礫と少女が落下する
「大丈夫ですか?」
銀髪でセンター分けの壮年がその少女を回収する
「まだぁッ」
血反吐を吐きながら元いた場所を睨む
崩れる足場、開けた部屋からそれを見下す黒い瞳
「…」
「おや?まだ生きておるのか?」
「もういい、帰るぞ」
「ワシせっかくここまで来たのにぃ」
赤い目が黒い髪の青年を見る
「お前こそ…あれをくらって、生きていたのか…」
「なんかまだ生きてるぞ?」
「放っておけ」
「逃げるのか…」
「この情報デバイスがあれば、いずれくる大戦を優位に進められる」
「大戦…だと…」
「こちらとしても戦力を無闇矢鱈と減らすわけには行かないのでね」
「こやつなんか通信してないか?」
「ッ!男2人、SDが奪われた!内通者がッ!……
「プラン変更だ」
「しー?しーだよなぁ?」
「…、あぁ、Cで行こう」
「そうじゃ!それでこそ来た意味があるってものよ」
「聞かれてしまった以上簡単に返してくれそうもないし」
「よしキタ」
「派手に暴れてくれよ」
「任せい、補填は十分してきたからのぉ…」
ビルの入り口に三人の男が立つ
「SDってなんすか?」
『三白家 色彩青、宇治藁 最上』
金髪セミロングにセンターは分けの青年が、身長ほどの大鎌を地面に立てながら問う
「知らんかったのか」
「がぶさん知ってるんですか?」
「全く、京都支部ならそのくらい知っておけ」
『三白家 色彩青、百々女木 牙武』
短い黒髪を逆立てた四角い眼鏡の青年が気怠げに答えた
「ズバリ、すごくでかいやつだ」
「…なるほど!」
「緊急の任務は常に重要である」
「ヴィヴィアナさんが倒されたってほんとなんすかね?」
「本当のようだ、奇襲をうけたらしい」
「そんなうちらんとこザルだったっけ」
「そうじゃない、今回俺たちはまんまと釣られたわけだ」
「そんな事、俺の輝きに比べれば些末な問題だ」
『三白家 色彩紫、鉱 輝煌』
金髪で青の瞳、白のマントに身を包んだ端正な顔立ちの青年が後ろから歩いてくる
「きおうさん!やっぱ眩しいっすね」
「当然だ、もがみ」
「はい!」
「がぶ」
「はい」
「急ぐぞ、今回は緊急だからな」
「「「!!」」」
「わざわざお出迎えかのぉ」
ビルの中から1人の少年が歩いて出てきた
「戦闘体制」
「ついでに貰ってゆくかな」
赤い目が笑う
「かかれ」
第一章、畏怖恢弘編 終
言い訳チャンネル
辻褄合わせに手間取ってしまったチャンネル
―奪われた情報の価値、たった数分の出来事により
目を覚めるかつての厄災…
第二章、coming soon―
―削られゆく戦力と成長し芽吹く新たな英雄たち
再び来る災厄の大戦線―
第三章、brushupなう―
乞うご期待!せんきゅーふぉーりーでぃん!!




