英雄たらしめる力
動きやすい服に着替えた2人は敵のアジトに乗り込むのだった
英雄たらしめる力
昼間とは打って変わり、危なげな香りが充満していた
一応和装に着替えてきた
(やっぱ落ち着くな…)
路地裏からの怒号と叫喚
ホストの強引な勧誘などをのらりくらりと、マーリンさんと避けて進んだ
路地に入ったが、この先が危険だと感じる辺りで声をかけられた
スキンヘッドに強面で、スーツ姿だが体格の良さがはっきりわかる様な大男だ
「この先は危険だ、嬢ちゃんらのくるところじゃあない、早く帰んな」
別に立ち塞がるわけでも無く、普通に心配してくれている様な大男は、首を今来た道に振って言った
「ご忠告どうも、私たちはこの先に用事があるの」
「ちょっと待ったぁ、なら話は別だ、気は乗らないが、力尽くでも通すわけには行かない」
「あらぁ、紳士なのね」
「女子供に手を挙げる方がおかしいんぜ?帰ってくれるか?」
ベチっ
背後に回った樋口が、男の後頭部をぶん殴り気絶させ、綺麗に前方に倒す
「行きましょう」
奥へ進むと、至る所から血の匂いが発せられていた
満身創痍でうつ伏せのまま動かない人や、店内に連れ戻られる人など殺伐としていた
「こんな場所があったのか…」
「これかしら」
大阪の若い社長の言葉を思い返す
「スナック魔薔薇…」
所々蛍光灯の切れた看板のそばに、扉の無い地下への入り口が佇んでいた
「大丈夫よ、私がついてるわ?」
マーリンさんが、少し物怖じする樋口に鼓舞する意味を込め声を掛けた
階段を降っていく、一段ごとに周りの温度が低下していく
鞘を握る左手に力が入る、かなり長い階段を終えた
長い廊下の先に扉があった
悪気を放つ扉を開けて刀の柄を握る
樋口の瞳は赤く光っていた
そこには天井が高くサッカーのコート程の空間があり、ペットショップの様に人ならざる異形の崩れた狂徒が壁一面に収容されていた
そして目線の先に、目標がいた
「やはり貴方だったのね、社長さん」
「クックック…いつから気づいていたんですか?」
「それだけ血生臭ければ、誰でも気づきます」
(そうなんだ…)
「と言うことは最初から?クッフッフッフ、サプライズのつもりがされていたんでしょうか?」
「話は以上です、樋口さん、行けますか?」
抜刀し構える
「もう少しだけ話しましょうよ、私あなたの事結構気に入ったんですよ?」
頬杖をつきながら喋りかけてくる
「生憎、私には彼が居るので」
「そうですか、それは残念、今回はお互い利害が一致していると思ったんですけどね」
「そう?じゃあ大人しく捕まってくれるかしら」
「いいや?のこのこと罠にハマってくれて嬉しいですよ、解放」
指を鳴らすと、左右の檻から、巨大化した猫と蛇の様な狂徒が放たれた
「そういえばアーサーとか言うガキは何処ですか?貴方がいるという事は彼も来日しているのでしょう?」
「さぁ?」
「連絡は取れますか?無理ですよね?大人しく食われて欲しいのですが…?」
アーサーただ、高いビルの屋上から広場を見下ろす
「お断りします」
「貴方を屠った後、すぐに追わせますよ」
その一言でマーリンの空気が変わった
「樋口さん二匹任せるわ?」
「了解!」
左の猫から攻撃を避け首を落とす
右にいた蛇も首を輪切りにする
マーリンは眼鏡を外し、見せつけるように前にふんわり投げる
眼鏡は黒い球の付いた綺麗な黒い杖に変化する
「不可能よ、だって貴方はここで捕らわれるもの」
白い球体が菱形の頂点の位置に現れ光が集約する
「我々の目的は既に達成されていますので、大盤振る舞いです」
全てのケージの扉が開いた
「―リーズオブライト―」
光線が4本放たれまっすぐ向かう
その射線上にいた獣が何かに引っ張られ一つに集合する
―混合獣、魔陀羅―
「少しでもホープを削る為に噂をばら撒いてみれば、釣れたのは使い魔と魔族の子供とは」
直撃した黒い煙からその姿が現れる
両手の鋭い爪からは溶解液が垂れ落ち、前傾で短い犬の様な力強い後ろ足、猿と虎の混じった様な顔面にトカゲの様な尻尾が生えている
全長は三メートルほどだろうか社長の前に立ちはだかる
前腕と腹部に命中したのだろうか、前腕からは黒い煙が、腹部は貫通していたが、すぐに回復した
「何さらしとんねんワレぇ!!」
社長の怒号が響く
「自分全部防げよ普通!飛んできた光線で瓦礫飛んできて服汚れたやないかボケェ!!」
巨大な猛獣は怯えたように振り返る
「ええから、さっさと始末してこんかい」
樋口は、一心不乱に距離を詰めてくる巨体との間に立つ
「一撃で!」
マーリンは樋口の肩にそっとを手を置いた
「?」
「ポケット」
―take out―
白く太い閃光が巨体の上半身を撃ち抜き、社長に向かう
「はぁほんま使えんわ、これ頼むで」
同時刻―アーサー視点―
(マーリンがやばい)
ビルの上から地面を見つめ集中する
「我が意志の元に輝け、カリバーン」
飛び上がり、剣を素早く振り下ろす
白い紅閃を地面に放つと崩れ、大きな穴が開く
「!?」
白い光線が社長の前で霧散したかと思えば、突如として地響きがして上から瓦礫が降ってくる
「なんだ?新手か?」
樋口はマーリンの側によりあたふたする
マーリンは防護球体を展開したが、瓦礫に混ざってアーサーも降ってきた
「イフのアインシュタインだな」
「ご明察」
アーサーは社長を見るなり、素早く切り込む
「アーサー様!」
マーリンが声を上げる
アーサーは何者かに阻まれ、さらにカウンターまで食らい蹴り飛ばされた
「今の避けられんのかよ〜」
アーサーくらいの身長にボロボロの和服
ハンチング帽子を被っていて顔は見づらかったが、刀を持った、歪な禍々しい気配を放つ男が、悔しそうに言う
(この気配…今までに感じた事が無い強烈な…本能が敵だと言ってる)
「お主アーサーじゃろ?古代ブリテンの王?知ってるぞい?わしは伊村じゃ!まだ時間あるしちょっとだけいいよな?」
「お前は…赤目の魔族?」
ボロ雑巾は抜刀する
切先が揺れ、互いの距離が一瞬で消える
砂埃が舞い、金属音が響いた
所々で白い閃光が砂埃を切り裂いた
砂埃のせいで殆ど目で追うことは出来なかった
だが、アーサーが劣勢であることは、感じ取る事ができた
(コイツ、やっぱ魔族だ)
アーサーの中で情報が合致する
気配を完全に消す技量、赤い眼、少年風のボロい風貌
「ホープのNo.1だぁ!ちょっと張り切っちゃうよ!?」
「ッ!?」
「大丈夫なんですか?」
「ッ……」
マーリンは少し苦しそうにしていた
球体の障壁が点滅する
「マーリンさん!?」
少しよろけるマーリンを支えた
「ごめんなさい…少し眩暈が…」
大きな音を立て両者の渾身の一撃が打ち合った時、衝撃で砂埃が晴れた
両者が距離を置く
「お、こんなのもあるぞ!」
赤い宝石のような物を二つ取り出すと投げた
その宝石は伊村の容姿に変わった
「いけ」
「行かせッ!!」
アーサーは振り返り向かおうとした瞬間、魔族の圧力を感じ、足が止まる
樋口らの元に向かう二体の人形
―紅踊―
本体よりも格段に弱い人形を素早く切り裂き赤い瞳でアーサーを睨んだ
「!!」
アーサーと目が合う
(こっちは任せて前向け!)
「よそ見はダメだぞ?」
「お前がな」
「!!」
更に早く後ろに周りこみ剣を振り切るが、刀で受けられて壁に叩きつけるだけとなった
「…、ハァ…ハァ…」
剣を持つ右腕が少し光り輝いていた
「いったぁ…すごいのぉ?でも早く殺さなきゃ、2人はどれだけ持つかな?」
更に三体増えた
「…」「…」「…」
「よく見ておけ、これが英雄を英雄たらしめる力」
アーサーの気配が膨れ上がる
「マーリン!」
声が上がる
マーリンさんは聞き慣れない言葉で詠唱し、壁一面に魔力を流し補強する
「選定にて選ばれし王が一人、アーサーの名の元に、眼前の敵を討ち滅ぼさん、振え」
―resonance(共振)
剣に選ばれし王―
アーサーが光に包まれ、剣自身も強く輝く
心なしかマーリンさんも少し回復しているようだった
(剣技では勝てない、欐のやつよりも鬱陶しい…攻撃が全ていなされ、こいつにとって完璧なタイミング、角度、力で獲物が衝突しやがるから、こっちの力が完全に伝わらん…故に力でゴリ押す)
「お〜やっと本気出してくれるの?嬉しいなぁ、じゃあわしも…本気出すよ。」
「火力で一気にねじ伏せる!」
「是非にともして見せろ!」
伊村と名乗る男の顔が少し見えた、白い肌に目は赤く不気味に輝いていた
不意に目線が合う、背筋が凍る様な冷たい目をしていた
「あれ、新しい魔族飼い始めたんだ?」
「…」
「フフッ、やっぱり魔族が好きなんだね」
「…」
「女の子かな?やっぱり美味しいもんね」
「…!!」
打ち合いはさらに激しさを増す
互いの距離が開き、一生とも思える一瞬の静止が起こる
「穿て!」
―カリバーン―
「来い!」
―斬流ノ太刀―
光線は分散されて川の流れの様に、伊村のそばを避けた
(…流された?手応えはあるが、)
伊村の肌は所々焼き焦げて剥がれ、徐々に元に戻っていく
「へぇ…、こんなもんか…」
魔族の表情から余裕は薄れていた
「フゥー…まだこれからだろ」
「伊村、もう時間切れやで」
「ちぇぇっ、もう少しだけ!」
「逃すものか」
「あかんて」
「!?」
再び地響きが起こる
伊村は臼井に呼びかけられ姿を消した
地面から五メートルはある巨大な岩様な怪物が現れた
―狂気なる錬金術―
『フランケンシュタイン2型』
「暇つぶしに作っておいたさかい楽しんでな」
(なんだあの大きさは、気配もさっきの奴らと比べ物にならない、私が万全だったら、、!?)
「悪いが、一撃で沈めて…ッ!?」
「ック!」
アーサーは蹴り飛ばされ吹き飛んだ
アーサーのいた場所には蹴り飛ばした樋口が、そして剥き出しの筋肉の塊の様な怪物が、樋口を殴り飛ばしていた
樋口は壁に叩きつけられていた
「…ッ……」
「樋口さん!」
怪物の拳を受けた両腕は腫れていて、頭部から血が流れていた
マーリンが側に移動する
「なっ…チッ!…………………」
アーサーは大きく舌打ちをした
(見誤った!?それだけならまだいい、殴られようがあのぐらい!魔族に…魔族に庇われただと!?)
筋肉の化け物は低く唸る
「ハァ…」
白く睨みつけた
「黙っとけ」
更に低く唸り前傾姿勢を取る
瞬く間にアーサーの目の前に同じ様な拳が繰り出されていた
「そうか」
アーサーはそう言うと、突き出された拳を切り裂き、背後に回る
光が剣に収束する
「すぐに楽にしてやろう」
剣を重く突き出した
―カリバーン―
放たれた閃光は怪物二体の上半身を吹き飛ばした
―収納(take in)―
光線の先には黒い丸い球体があり、それにゆっくりと吸い込まれていった
残った巨大な両腕が落ちる
(これが英雄…あの時全然本気じゃなかったのか)
音の消えた空間で光る剣を、静かに鞘に収める
樋口はマーリンに支えられていた
「おい生きてるか」
アーサーが気づけば目の前まで近づいていた
「あぁ、ちゃんと受け身は取ったから…」
「骨が折れてるわね…」
「これくらい大丈夫、すぐに治ると思う、ます」
「見せてみろ」
「すまん…腕があがんない」
「…そうか」
そういうと、納めた剣の柄を持つ
「…」
ゆっくりと抜剣し、横に素早く放り投げた
「…」
投げた剣は魔獣の残党に刺さっていた
(剣を手放しても襲ってこない、ならもう残っていないのか?)
(魔獣の生き残りがいたのか…死んだかと思った…蹴り飛ばしたから怒ってんのかと思った…)
アーサーは周囲を見回し剣を呼び戻す
飛来する剣を再び鞘に納める
それと同時に白い鎧は閃光を放ち消えた
「眩しぃ…」
いつものラフな服装に戻る
樋口に歩み寄り腰を下ろす
「えぇうわぁ!」
足を掬い上げゆっくりと持ち上げる
「ちょっと…」
「歩けるのか?」
「いやぁ…」
碧眼と目が合う
樋口の目は薄く光っていた
「…」
あまりの気まずさに目を逸らす
「痛むか?」
「…大丈夫」
「嘘はつくなよ」
「…、すごく痛い」
「フッ、だろうな」
「ナッ」
「マーリン、俺はこいつを病院に連れて行く、事後処理は任せてもいいか?」
「もちろん、怪我に障らないように注意してね?」
「分かってる」
「樋口さんも、痛み止め程度しか渡せないけれど、あまり回復に魔力を使いすぎないようにね?」
「分かりました」
こうして病院に置いていかれ、損傷の酷かった右腕がぐるぐるに固められて返された
「お大事に〜」
(左腕は早めに治しておいて良かったな、両方これだと大変だった)
「よぉ」
「アーサー?」
「どうだった?」
「折れてるらしい、固められて明後日また見せに来いって」
「これは今回の報酬だ」
樋口はアーサーから封筒を渡される
「うちは依頼をこなせばその分上乗せされる歩合制だが…」
開いてみると諭吉が二十人入っていた
「ありがとう、ございます」
「それは諸々を差し引いた金額だ」
「これで何が買えるんだ?」
「しらん、晩御飯にはなるんじゃないのか?」
「少ないのか?」
「あぁ、紙が20枚あっても価値はないだろ」
「そっか…」
「今日のことは感謝しよう、来てくれて助かった」
「そんな、えっと、マーリンさんは…」
「少し休めば良くなる」
「そっか」
「今日は解散だ」
空が白み始めていたときようやく家についた
因みにアインシュタインとフランケンシュタインは実際のところ関係ないです。ただ、無名の科学者がそう名乗り、そう呼ばれ、作品をそう呼ぶだけです。社長が関西弁なのは大阪のシノギに日本語を教えてもらったからだそうです。




