紫苑堅闍《しおんけんじゃ》の暴走
学院の生徒達が学ぶ校舎からは少し離れた別棟。
教職員の中でも限られた一部の者……貴族家の息のかかった者しか入る事を許されない通称“籐苑閣”
その一室に5人の壮年が円卓に着いていた。
「ではやはりかの者は日従彦様であるということか……」
「うむ、緋奈津比売神があの様に傅く相手などそういまい」
「となれば我が神、豊産稀比売神様にご報告をせねばなるまい」
「豊由気比売だ。かの神はその呼ばれ方を嫌っている」
「だが待ちたまえ、報告はもっと慎重になるべきだ。他に確証はあるのか?」
五人は口々にそう言い合う。
この学院内において学院長以上の力を持つ五人の理事、紫苑堅闍と呼ばれる集まりだ。
現在は五人だが、人数の縛りは特にはない。
この五人が議題に挙げているのは藤堂玻琉綺と言う一人の新入生だ。
彼の破格さは入学前から示されている。
妄濫霊洞の穴堕ち救助に始まり、入学直後の威徳霊征五条覇の完遂、学内対戦における無敗での連勝記録更新、国際的テロリスト潤葱総士郎の捕縛など、およそ一介の高校生に出来ることではない。
底知れぬ力を示し、主神である比売神の妹神を従える器量。
八百万の神々の間でも伝説にしか存在しない天地分仮実日従彦大神の迹身である事が現実味を帯びた事が要因だ。
昨年末、神託が降りた。
『我らが父なる御方がその地に降り立った。ついては此の身をもって御迎えに上がる』
というものだった。
この神託では皆が動く事が出来ずにいたのだ。
何をしても余計な事になってしまいかねないからだ。
「しかし……手を拱いていれば世界中が混乱の渦に放り込まれかねんぞ」
「……その通りだが、だからと言って勇み足になっても敵わぬ」
「確証があれば……もう一つ何かがあれば」
「ならばどうだろう、羽化繭を使うというのは……」
「貴公、正気で言っているのか?学院の存続どころか生徒の命さえ危うくなるぞ」
「そうだ!報告どころの騒ぎではない、豊由気比売神の不興を買うのは必至だぞ!」
「……いや、生徒達の生死に目を瞑ればそう悪い手ではない……我らにはそれを使う権利が与えられている」
羽化繭とは学院の前身が誕生した際に豊由気比売神から賜った物で、一度だけその力を使い霊洞を産み出せるという物。
その最奥には繭に入った豊由気比売神が眠っているという。
「そうかも知れぬが、千年もの間誰も使わずにいた物だぞ!おいそれと使える物ではない」
「しかしそれでその生徒が真に日従彦様かが分かるのではないか?これは賭けだ」
「待て!そんな賭けをする必要がどこにある!大人しく沙汰を待つのが賢明ではないのか」
「ただ座して待つのを由とするのか!それで我らの忠信を証明出来るのか」
「他に証明の仕方ぐらいあるだろう!」
彼らはある種の狂信者だ。連綿と続く血脈に縛られ、目的も手段も全ては忠信と言う言葉で片付けてしまう。
「きりがないな、決を取ろう」
三対二で羽化繭の使用が決められた。
すぐに敷地内の一般施設に退避勧告を行う。
この地に進出してくる際には、こういう事態は契約に盛り込んであるので、初のこととはいえ迅速な対応がなされると期待するしかない。
「もう後戻りは出来ないぞ」
「ああ、だが私は分のいい賭けだと思っているよ」
「……決には従うさ」
「我らは一連托生だからな」
「全ては豊由気比売神の御為に」
全員心は一つだった。
(いざとなったら緋奈津比売神にとりなしてもらおう)
彼らは緋奈津比売に総代邸に住まわせてくれと頼まれた者達だった。
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「校舎内に残っている人数を確認する、才華、深優璃、タツ頼む、沙嶋、沙河楽、剣ヶ峰で校舎外の生徒を中に誘導しれくれ、まれなは俺についてこい」
矢継ぎ早に指示を出す。
この指示で才華ならみんなを教室内にまとめて確認するって方法を取るはずだ。
深優璃の人望も役に立つだろうし、揉め事になる可能性も考えてタツを配置する。
外の連中も素直に校舎内に入ってくるか分からないので、一応貴族のサジ、補佐で沙河楽君をつけて、剣ヶ峰は万が一の備えて外周りに出しといた方がいい。
レベル5力場って相当ヤバい、戦力的に従魔のいる剣ヶ峰がいれば魔物が出現したとしても対応できるだろう……撃退とかは難しいかもしれないけど避難する猶予ぐらいは作ってくれるはずだ。
「玻琉綺、何処に向かうの?」
「屋上に行く、この校舎に結界を張るんだ」
まれなの問いにはそう答える。まずは安全な拠点作りが急務だ。
校舎内にいない生徒達の救出はそれから考える。
この学院の生徒ならそう簡単にやられる事はないだろうが何せレベル5だ、魔物の発生率も高まる。
才華の体質も心配だ、これほどの力場じゃすぐに体調を崩しても不思議はない。
「貴方結界なんて張れるの?感覚的に結構強力な力場よ!」
「レベル5だ、対応出来るアイテムは作ってある」
油断はしてても備えはしてある。
魔熊と魔鹿とアスライオと白哪吒の素材でいい結界道具が作れた。
特に魔導角はメイン素材、魔熊体脂で耐久や性能が上がった。レベル5ならギリ足りる……少なくとも校舎内はレベル2くらいまでは抑えられるはずだ。
「例のアレね、そんなのまで作れるのね」
「みんな!教室に入っててくれ、異常事態だ!」
階段を駆け上がりながらまれなと二人で叫ぶ。
程なくして屋上に着き、手分けをして結界のアイテムを屋上の四隅のに設置する。
建物自体はデカいけど真四角の建物でよかった、用意していた最後の五個目を真ん中に設置して準備完了だ。
「郭陵結界発動!」
キーワードを叫ぶと同時に薄い青色に輝く結界壁が校舎を覆い始めた。
「よし、これで校舎内は安全地帯として機能するだろう」
見上げると、視界に入る範囲を覆っていた黒い霊洞入り口の様だった空が、今度は霊洞出口の様に虹色に輝いていた。
まるでこの辺一体が霊洞に呑み込まれたかの様だ。
もうこの辺はレベル5力場になってしまっている。
こうなってくるともうここは霊洞内だと思った方がいいな。
一先ず校舎はいいとして、町の方が気になる。
あそこには商売をしにきているだけの一般人もいるはずだ。
一年生をまとめたらそっちにも対応しないといけないだろうが、レベル5霊洞なんて経験ないし俺だってどこまでやれるか分かんないな。
校舎内に戻ると丁度最上階まで上がって来ていた才華達と行き会う。
「あ、玻琉綺君、残っていた人達には教室で待機してもらう様頼んでおいたよ。でも半分近い人達がもう出ちゃってるみたい」
単純に考えて400人以上って事か、多いな。
だがまずは校舎内に残った生徒達を落ち着けなきゃならない。
「誰か放送室って分かるか?一応結界を張っておいたから校舎内は安全なはず。いない人達にも仲のいい人達で連絡を取り合ってもらう。デヴァイス通知よりも放送の方が確実に伝わるだろ」
「放送室なら三階の北階段脇よ、アタシ案内するね」
「頼む深優璃。みんなは実習室に集まっててくれ、各クラスの代表をそこに集める」
くそっ、忙しいな。あっちこっち走り回るのは時間のロスだけどこればっかりは仕方ない。
いくら魔法が使えても所詮人間に出来る事は限られてる。
拡声魔法とかあるのか分かんないけど、今魔法の教科書とか持ってないよ。
前半の会話劇にある妄濫霊洞とは玻琉綺の言うイレギュラー霊洞の事です。
迹身とは仮の姿という意味です。
急にわかりにくい表現を使ってしまい申し訳ありません。
今回も読んで頂きありがとうございます。




