いちいち裏を掻かれるな
体育祭を明日に控え、俺は念の為に様々なアイテムや装備品を作っておいた。御霊櫃病院や、徹夜でカンセコした五条覇なんかでだいぶ素材もMPも貯まったし、結構なものが作れた。
こうなってくると霊洞が重要な資源というのも頷ける。
普通はこんなに出るものじゃないって考えると、何度も潜って数多くの魔物を倒さないといけないから時間も人手も必要だし、当然費用も嵩む。
それに応じて素材の値段も上がるし、加工品もさらに高値が付く。
一大産業にもなるよな、性能もさる事ながら美術品や嗜好品としての価値もあるし、霊洞産の魔導製品なら更に価値が高い。
主に宝箱系から手に入るソレは、現代技術を上回る物すらあるらしい。
それらを研究して更なる技術に発展に繋げていく、って意味でも付加価値は幾らでも付くってもんだ。
化石燃料とかの地球資源とは別体系の資源だし、発掘には命懸けって以外の手間もかかんないし、色んなとこが参入するはずだよなあ、ギルド同士の争いも無理はない。
それに御霊櫃病院みたいな霊場ってのがあってそこでも魔物なんかが出てくるんだから、霊洞に潜る必要だってなさそうだ。
あそこで出たクマの魔物……灰色魔熊ってセトちゃん言ってた……からは魔熊体脂とか言う脂がドロップして、コレがまた役にたつ。
殆ど全ての魔道具に使えるグリスの様なもので、耐久性を高める効果があるし、加工次第で傷薬や保湿剤にもなる。……灰色魔熊と呼ばれるのも納得だ。
体皮も柔軟性と強度が高く防具にはもってこいの代物で、灰装皮と言うそうだ。
寒暖烈士皮の素材だ。
その分めちゃくちゃ強かった。あんなの普通にいていい魔物なのか?俺も装備のおかげで何とかなった様なもんだった。
二本魔鹿と言う魔物もそのツノが重宝される。魔導角と呼ばれるくらい魔力の伝導率が高く、魔法系の武器防具などにも使われるみたいだ。
また、魔物には珍しく肉を食用にできるみたいで、魔力のある所でなら腐る事もなく生で食べれる。
二本魔鹿の皮は天然のミスリルアラミドの様な効果を持っているらしく、真鹿皮と呼ばれ、天蓋孤独の素材になっている。
コイツもかなり手強かった。
山の魔物つえーよ。あそこの警備員は相当な実力者なんだろうな。
さらには垢離魔猪とか月魔兎とか名称はアレだけど少なくとも学院の霊洞よりは強い魔物だった。
霊洞と違うのはボスがいない事と宝箱の有無ぐらいか。
霊洞のボスと言えば、五条覇の五ボスは爬竜霊洞のフトアゴヒゲドラゴン。
緋禽霊洞の迦楼鸞緋雛、至獅霊洞のアスライオ、塵獣霊洞の麒鳴羅麟、白瑞霊洞の白哪吒辺りはさすがにボスらしく山の魔物よりも強かった。
その分素材も良いものだったな。
今の装備はコレらを追加して格段に性能が強化されたし、山で何とかなったのもそのおかげだ。
山では他にも猛壮竹とか行者阿羅木とか言うニンニクみたいな植物系の素材も採れて、行李行者になった。
そんな調子で今回も色々作ってみたけど、これだけ自分で制作出来るなら必要なものがあっても賄えちゃうな。
普通探索者ってそう言ったものを買い揃えるために出費が嵩むみたいなんだけど、俺の場合元手はゼロみたいなもんだしな。
まあ準備はこんなもんでいいか、使わないに越したことはないけど。
普通に想定しただけで明日の総代パフォーマンスが一番怪しい。
わかっているなら何か別のパフォーマンスにすればいいって思わないでもなかったけど、こうやって隙を作っておけばそこに食いついてくれるだろうと見込んでそのままにした。
その方が対処が楽になるし。
もっとも、コレはあくまで俺が狙われた場合の話だ。
目的が分からないので、全部読み切れるわけじゃないけど、神薙には狙われた事もあるし、一部の上級生徒に煙たがらてるって考えれば、ターゲット一番手は俺だろう。
警戒だけはしておくに越した事はない。
……ただなあ、ここまでやってから落ち着いて考えてみると、普通に考えすぎな気もするんだよなあ。
それに魔法が普通に使えた。霊洞で試してみたら授業で習った所はもちろんのこと、習っていない魔法も教科書に載ってるものなら使えてしまった……教科書を読みながらだけど。
だからこんなに何とかえもんの秘密道具みたいに作る必要は実はなかったかもしれないんだけど、何だか気分が乗ってしまいつい作り過ぎてしまった……後悔はしてない。
けど、精々上級生徒とやらの嫌がらせが関の山だと思う。
神薙の連中も学院に入り込んでるって事は、俺の入学前からいるんだろうし、その場合目的に俺が入ってるわけないんだよな。
ちょっとテンションおかしくなって、過敏になりすぎたよな。
まあ、たとえ無駄になったとしてもどっかで使う事もあるだろ。
実際、体育祭では何も起こらなかった。
恙無く進行して、無難に役割をこなし、騎馬戦、リレーともに圧勝し、惜しくも優勝は逃したが3位で終える事ができた。
散々引っ張った割にコレとは……良かったのか悪かったのか。
考え過ぎだったんだなやっぱり。何をするつもりなのかは分からないけど、俺に関わってこない限り何も出来ないし、何かをするつもりもない。
この世界という舞台で様々な人間がそれぞれの思いで銘銘に行動して歴史は作られる。
俺がそこに介入するのはこちらに火の粉が飛んでくる事が明白になった時だ。
そうでないなら単なるお節介の出しゃばり野郎だしな。
まあその“こちら”と言うのがどこまでの範囲なのかって話だけどな。
なんてカッコつけて油断してたのかな。
期末試験も終わって夏休みももう直ぐだと言う時だった。
「む、何だあの空の色は……」
最初に気づいたのはサジだった。
言われて空に目を向けると天頂部分に当たるところからジワジワと黒いシミの様なものが広がっていた。
見る見るうちにどんどん広がっていく。
「なんか霊洞の入り口みたいじゃねえ?」
タツの言う通り霊洞の入り口の様に見えるし、この感覚にも覚えがある。
駅前でバクレイオン霊洞が出来始めてきた時に似ている。
あの時と違い今いる学院の敷地内は常時力場が発生しているので、気付くのが遅れた。
「おいヒメ!何かしたのか?」
ここは霊洞の神様である緋奈津比売さまにでも心当たりを気いてみる。
「これは……姉様!」
え、姉様って……お姉ちゃんって事?緋奈津比売って姉がいるのか、前の世界では聞いた事ない神様だからどんな神様なのか全く検討つかないけど。
「緋奈津比売の姉って……まさか豊由気比売命の事!?」
まれなは知っているのか。
俺はちょっと知らない神様だな、有名どころは知ってるけど別にそんなに詳しいわけじゃないし。
「え、ヒナのお姉ちゃんって、俺何にも用意してないよ!」
ガミは挨拶しようとしてんじゃねえよ、明らかに友好的とは思えない現象起こしてんじゃねえか。
たまたま全員が揃って帰る所だったけど、このまま総代邸に行くわけにはいかない。
異常事態が起こったのだ、総代としてみんなの安全を確保するためにも校舎に戻ろう。
まだ校舎には多くの生徒が残っているはず。
もう寮に帰ってしまった生徒もいるかもしれないけどどうする?校舎に呼び戻すか……デヴァイスを使って通知だけは送っておこう。
「何が起こったか分からない!バラバラにはならない方がいいだろう、校舎に戻ろう!」
そう言って皆で校舎へと駆け戻る。
「今デヴァイスを通じて全員に通知は送った、上級生の事は分からないけどそれぞれの総代に任せよう。一先ずは一年生だけでも纏まっておきたい」
上級生と上級生徒は意味が違うので紛らわしいな、まあ伝わるだろう。
しかし……完全に油断してた。まさかこんな大掛かりな事態になるとはな……。
この感じは嫌な予感しかしないぞ、ヒナのお姉ちゃんが何かしてるのか、それとも以前のヒナの様にその力を使われているだけなのか。
学院に入り込んでるって言う神薙にこんな事が出来るのか?
まさか潤葱総士郎の仕業か?奴が脱走したとは聞いてないし、奴の企みの殆どは潰しているはず。
それほど沢山の手を用意できる奴にも見えなかったけど。
何にせよ情報が少ない。
『アッちゃん、あれなんだろ?』
『分からん、ただ悪意の様なものは感じぬ。ただのこの世界の自然現象ではないのか?』
こんな自然現象ある?歴史の授業とかでも聞いた事ないよ。
《レベル5の魔導力場を検知。この一帯……恐らく学院敷地内を覆う規模です》
ほら、そんな局所的な、狙った様な自然現象あってたまるか。一体何が起こってるんだ。
すごく間延びしそうなので体育祭はすっ飛ばしました。
そんなに面白い事も思いつかなかったので……。
ちょっと想定より早い気もしますが話を動かします。
進めていかないと自分の気持ち的にも早ってしまいますので。
今回も読んで頂きありがとうございます。




