ヒナツヒメって結構いい性格してるね
緋奈津との出会いは翔魔の生活、いや人生を一変させた。
毎日の様に霊洞に入り浸り、カエデの力も借りながら魔物を倒し続けた。
緋奈津は力を貸してはくれなかったが、いつも傍らに浮いているし、怪我をすれば癒やしてくれた。
霊洞は翔魔の成長にあわせて発展していった。
小さかった霊洞もどんどん大きくなり、やがて一年が経ち霊洞も学校の体育館ほどになった頃、不思議な魔物に出会った。
それは黒い蛇の様にも鰻の様にも見える細長い胴体を持つ魔物だったが、何故か棒の様な物に巻き付いた状態で出現したのだ。
「うわ、変なの。カエデ、あれ何の魔物かわかる?」
「アレはおそらくクリカラ……まあ黒い龍の幼体であろう。アレは調伏して仲間にした方が良さそうに思うが、どうであろう?」
翔魔は一瞬だけ考えるも、あの巻き付いている棒状のモノが気になったのでカエデに賛同する。
「よし、じゃあ霊宝久珠発動!いっくぞおおお!」
緋奈津に授けてもらった宝珠が胸の内から光を放つ。
この光を受けている間に魔物を倒す事によって従魔とする事ができる。
翔魔がこれを使うのは初だったので、最初の魔物が龍とはいえ鰻みたいな魔物だった事に若干の物足りなさを感じるが、巻き付いている棒だけでも手に入れられれば、お年玉で買った木刀よりは上等な武器になりそうなので我慢する。
従魔にするにはもう一つ条件がある。それは自分一人の力で倒さなければならないと言うものだ。
カエデの助力は得られない。それでもこれまで積んできた経験は翔魔に自信と力を与えていた。
最初のうちは振り回すだけだった武器も、それなりにサマになっている風に扱う事ができる様になっていたし、身のこなしも一年前に比べたら雲泥だ。
木刀とはいえ、そんな翔魔の攻撃に黒い幼龍はなす術なく叩かれ続ける。
「キャア、もうヤメテよ!」
その黒い幼龍が声を上げた。翔魔は驚き動きを止める。
「わかったから、アンタに従うからもう叩くのはヤメテ!」
女の子の様な声でそんな事を言う黒い幼龍に何だか悪い事をしている様な気持ちになって……くる様な翔魔ではなかった。
「気持ち悪い蛇だな、鰻だっけ?あ、龍って言ってたな。どっちでもいいけど何で喋ってんだよ、それは俺の従魔になるって事でいいんだな」
「誰がウナギよ!アタシは将来立派な龍になって大倶利伽羅として不動様に使ってもらうんだから!」
「不動様とやらは知らねえけど、お前はもう俺のモンだからな。お前は俺が使う!」
お前と言うよりもその巻き付いてる棒みたいなのだけどな、と心で付け加える翔魔。
「ア、アンタの……モノ……アンタがアタシを……使う」
「そうだ、お前は俺の従魔になったんだから当然だ!」
「し、仕方ないわね……いいわ、アンタにアタシを使わしたげる」
本来の倶利伽羅剣とは不動明王の武器であり、黒い成龍が巻き付い剣である。
それが霊洞内で魔物化したモノがクリカラであり、さらにその幼体だ。
翔魔に倒されるのも、多少ちょろいのも仕方が無いのかもしれない。
緋奈津やカエデはそう思いながらその光景を見ていた。
けれどもカエデは思った。ちょろいのは自分も同じだと、最初は緋奈津の命によるものだったが、後先考えないがむしゃらっぷりと言い、こちらの忠告を全く聞かない無鉄砲ぶりと言い、呆れ果てる少年だった。
辟易としたのも束の間のこと、いつしか手の掛かる弟の様なものに感じられてきた。
カエデに兄弟はいない。親は自らが食い殺してしまった。
今はただ緋奈津だけが主であり、唯一の家族だった……そこに翔魔が加わった。
おそらく霊宝久珠の力に当てられての事ではあると分かってはいるが、そう感じられている以上はそうなのだと思える。
緋奈津は翔魔の事をどう思っているのだろうか……カエデはそんな事を考える様になっていた。
そこからさらに一年が経つ頃カエデも姿を変えられる様になった。
絶世の美女とも言えるカエデの姿に、さすがの翔魔も胸の高まりを止められずにいた。ツノの生えた鬼である事などは些細な問題だった。
武器として振るっていたクリカラも、その姿を日本刀の様な物に返事始めてきた。
それを見て翔魔は小躍りして喜んだ。
自分の成長を喜んでくれた翔魔に対するクリカラの好感度も爆上がりだ。
その後、龍の子でありながら龍になれなかった“蒲牢”と言う魔物を従魔とした。
見た目は子犬の様だが、確かによく見ると龍っぽい顔をしていた。
翔魔は確かに成長していた。三年も経つ頃には以前の様な無鉄砲で傍若無人な行動はなりを顰め、乱暴な言葉遣いも改まってきた。
その頃にはクリカラも少女の姿を取る様になり、翔魔はリカと呼ぶ様になった。
「のう、カエデ……其方随分とあの童に入れ込んでおるものよのう」
「何を今更、緋奈津が言ったんじゃない、ショウマの力になれと」
急に緋奈津は何を言うのかと訝しむカエデ。
「いや何、“血染めの蛙手”がここまで気を許す相手が出来てワシも嬉しいのじゃ」
それはカエデの古傷を抉る様な呼び名なのだが、平然と口にする緋奈津。
しかしカエデは気にした様子もなく、懐かしそうな顔をする。
「貴方に拾われた頃が想い起こされる名ですね、あれから随分経ちました」
カエデとしてはもう乗り越えた事だ、そしてそれは緋奈津も承知しているが故の軽口。
「じゃがの、ソレはあの宝珠の力ぞ……良いのか?」
「何を言うかと思えば、そもそもそれを与えたのは緋奈津でしょうに、そして妾をショウマに引き合わせたのも貴方。何が言いたいのかわからないけど、妾はそれを受け入れておりますよ」
「そうじゃのう……そうじゃったわ」
緋奈津はただ顕現の恩返しでここまで翔魔に付き合っていたわけではない。
彼女なりの理由があっての事だった。けれどそれを言えば今のカエデは怒る事だろう。
それは嬉しい事である反面一抹の寂しさも感じさせた。
本来であれば翔魔の能力は今よりもずっと高みに成長しているはずのものだった。
それだけの戦いをこれまで翔魔は経験してきた。もちろんそれは従魔も含めてのものではある。
従魔の倒した魔物も主人である翔魔の経験値という形で力になるからだ。
その力を緋奈津は自身に取り込むために翔魔の近くにいたのだ。
霊洞は緋奈津と繋がっている。宝珠は緋奈津の一部でもある。
それらを通じて、翔魔のこれまでの経験値……得られるはずだった成長の力をくすねていたと言える。
「……潮時かのう」
カエデがここまで気を許す仲間が出来たのだ、神の眷属などという枷を外して自由に在れるようにすべきではないだろうか。
自分の神力はもう十分に貯まった。かくなる上は主様を探す旅に出ても良いのではないだろうか。
そんな事を考えていた折だった。
「おーいヒナ!たまには遊びに行かないか」
翔魔が緋奈津を遊びに誘ってきたのだ。
緋奈津は神だ。それも産霊神と云われる創造の神だ。
力場のない場所に在る事など造作もない。
これまでにも映画などを見に行った事もあった。
姿が他には見えない為できる事に限りはあるが、例えば現代の服などを見て、それを自身に投影してファッションを楽しむとかもした事がある。
翔魔もそう言ったつもりで誘ったのであろう。そう緋奈津は考えた。
対して、翔魔の方は少し事情が違う。
翔魔にとって緋奈津は大切な存在だった。自分に探索者の夢を与えてくれ、力を、カエデを、霊洞を与えてくれた。
怪我をした時にはそれを癒やしてくれもしたし、挫けそうな時に叱咤して励まし、応援してくれた。
そんな緋奈津に翔魔は、神と人間という事も忘れ想いを寄せていた。
まだ幼い、淡い想いではあるが、確かに翔魔は緋奈津に恋をしていたのだ。
「ふむ、では映画でも観に行くかの」
こうして一人と一柱は町へと出掛けた……これがいけなかった。
「見つけたぞ、やはりいやがったか……こんなところに隠れていたとはな」
その男は潤葱総士郎だった。
町から霊洞に戻り、さあまた修行だ!と意気込む翔魔の前に現れた潤葱は持ち前の異世界魔法を駆使して緋奈津を拐うことに成功する。
町で襲って来なかったのは周りに魔法が使える事を隠したかったから。緋奈津が見えたのも何処でも魔法が使える潤葱には魔法的な存在である神を視る事などは出来て当然の事だった。
「やめろ!ヒナに何するんだ!」
「この痴れ者が!緋奈津を離せ!」
「うるせえ!俺を異世界に追いやった神なんぞ全員敵だ、ぶっ殺してやるんだよ!コイツはそのための道具だ!」
緋奈津は思った。これは良い機会だと。
この男はかなりの力を持ちながらも、何処かこの世界のものと違う感じを受ける。
主様もこの世界の全てでありながらも、こことは違う何処かに半身を預けている様に感じられるのだ。
何かこの男が主様とワシを引き合わせてくれる予感がする。
「翔魔、カエデよ……ワシに構うな、コヤツは強い。今のお主らでは太刀打ち出来ぬ……強くなって迎えにきてくれるのじゃろう?待っておるぞ」
とか何とか適当にそれらしい事を言って潤葱に拐われるがままにする。
まさかその後で呪力の籠った棺に閉じ込められ、良い様に霊洞を造らされるハメに陥るとも知らずに、その先にある主様との出会いに想いを馳せながら。
最初はもう少し詳しく書こうと思っていたのですが、ガミに労力を使うのも何だかなあと思い
ダイジェスト的に進めてしまいました。
次回からは本編の続きを書きます。
今回も読んで下さりありがとうございます。




