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ヒメ、助けに参りました


 俺が霊征学院の生徒だと言うことを伝えると、桃花ちゃんは一瞬泣きそうな顔になる。

でもすぐに表情を引き締めて言い放つ。


「大丈夫です!心配はいりません!まだ間に合います、これからが勝負です!」


 いや、心配とか別にしてないけど……本当にウチ来る気?まあ実際いい奴ばっかだから、エリートってのは人格も優れた人が多いんだろう。

学院内の治安は問題ないと思う。


 そうか、桃花ちゃんはミツの一コ上か、今までの成績はどうか知らないけど、未来の後輩には頑張ってもらうか。


「そう、頑張って。桃花ちゃんが来てくれたら俺も嬉しいよ」


「はひゃっ!?もわあ……頑張りまっす!絶対合格目指して猛勉強します!藤堂先輩、勉強教えて下さい!」


 無茶を言う。


「そうしてあげられたらいいんだけどね、俺も学院をあまり休めないし、明日には退院するつもりだよ」


 もっとも医者とは一度も会ってないので、勝手に退院とかしてもいいもんかよく分かんないけど、まあダメだろ。

なので、あくまで“つもり”と言う事にして逃げる。


 俺は試験を受けてないからな、そんな俺が一体何を教えると言うのだろうか。

多分学年でも下から数えた方が早いんじゃないだろうか……今最悪の想像が脳裏をよぎった。


 いや不味い、俺は曲がりなりにも総代という立場にいるんだ。

そんな俺が学年最下位なんて結果になろうもんなら余りにも格好がつかない。

総代をクビになる可能性すらあるぞ。


 やばい、休んでる場合じゃなかった。潤葱総士郎なんかどうでもいい、そんな阿呆よりもテストの方が大事だ。

……と言えればいいんだけどなあ……被害があるしな。


 マジで今晩中にせめてヒメの救出だけでもしておきたい。

潤葱総士郎が許せないのは変わらないけど、少なくとも今はまだ拘禁されているのだから行政に任せよう。

脱走なんぞをしようもんなら、その時こそ俺が本気を出す時だ。


「そうですか、分かりました!今回は諦めますけど、諦めません!」


 ややこしいな、諦めないってどれの事?

代わりに俺の個人情報を聞き出して宮藤兄妹は帰っていく。最後まで感謝の言葉を絶やさずに。


 宮藤さんから貰った謝礼は500万あった……相場が分からんけどこんなに貰っちゃ不味いんじゃないの?俺未成年なんだけど。


 その後初顔合わせの医者に“傷癒水ポーション”を見せて、これで治したと説明する。

この病院にも鑑定持ちの人が居るらしく、見てもらったらひっくり返ってた。

これでもまだ驚かれるか。


 完全に治すと言っても傷にしか効果ないし、体力回復とか、増血作用とか、滋養強壮とかの効果も無いんだけどなあ。ちなみに骨折は骨の傷って事で治る。


 だからと言って明日退院とはならないみたいだ。

元の症状が酷過ぎたから検査をする必要があるそうで、その準備をして明日検査を行うとの事だった。


 つまり今から明日の検査までは自由時間だ。タクシーでも使えば一時間ほどで鬼面山には着くようだ。

早速宮藤さんからの謝礼を使わせてもらおう。



 というわけで夜……今俺は鬼面山にいる。

タクシー代は高かった。魔物の出る所を走るんだから無理も無いか。

ただ問題なのは、ここは安達太良山系、今の世界では阿多々良(あたたら)山系の鬼面山だ。

鬼面山と言うのは他にも結構ある。


 だからここに来たのは勘だ。

まず、潤葱総士郎は会津若松の方から逃げ出したと言う事。

となれば同一県の可能性が高い様に思われ、吹嶋ふきしま県内には鬼面山は二つある。


 もう一つの方は病院からは同程度の距離だったし、観光スポット的にはあまり注目されてはいなさそうだったので、人目につかないって点ではこちらかもしれないとは思った。


 でも、安達太良山の麓、安達ヶ原の鬼婆伝説は有名だ……今は哀太刀あだちヶ原だけど。

その伝説が今の世界にもあるのかは知らないけど、この際あると信じる。そしてその安達太良山、今は阿多々良山の隣りに鬼面山はある。前の世界でもそんな山あったかは知らないけど、符合としては出来過ぎなくらいだ。


 鬼婆は岩屋に住んでいたって話だったと思うし、奴が言っていたのも岩屋洞だ。

これらを考えて、阿多々良連峰鬼面山の哀太刀ヶ原方面の麓に来たと言うわけだ。


 しかしまあ、何と言うかやたら鬼に関連するとこだよな。

多々良って製鉄技術の事だよな、鬼ってのは製鉄民族って話もあるし、刀の産地に鬼伝説が多いって聞いた事がある。で、哀太刀ヶ原か。


 潤葱総士郎は鬼と敵対しているみたいだし、割と鬼は重要キャラなのか。

……そう言うどうでもいい事は一旦頭から追いやろう。


 さすがは曰く付きの場所だけあってなかなか雰囲気のある所だ。

今はまだ夕方だけど、夜になったら雰囲気どころか怪談現場みたいな感じになりそうだな。


 問題はこうやって来てみたものの、どうやって見つけるか何だよな。

歩き回って、違和感のある場所を探り当てるってのは現実的じゃ無い。出来るだろうけど時間がかかり過ぎる。


 残念ながら力場は発生していない。

いつもみたいにセトちゃんに頼んで付近を調査するってのも難しい……なんてね。

こんな事もあろうかと作っておいたのがあれだ。


 “天蓋孤独ソロキャンパー”だ。

こんな事だろうと思って、あらかじめ病院から手で持って来た。

折り畳まれていれば普通の市販のテントと変わらない。


 これを組み立てて、中に入ればそこには魔導力場が発生してるって寸法だ。

組み立ててみても普通に市販品ぽいテントだった。

ドーム型のそれは、見た目は市販品だけど中に入ればあら不思議、六畳間くらいあるな。


『セトちゃん、どう?何か近辺に変なもの無いかい?』


《平面座標上には反応無し、間隙座標に反応あり》


 間隙座標?聞いた事ないな。

セトちゃんの造語だろうけど、要は異次元的な場所って事か。


《通常空間からのアプローチは不可》


 そういや潤葱総士郎は転移も無しには入れないとか稲城華樹臣の姿の時に言ってたな。


《解析済みの転移術による移動を実行しますか?》


『え、セトちゃん転移使えるの?』


 凄え、どんどん多芸になってくな。

俺が要らない子になる日も近いぞこりゃ。


《解析済みの範囲でなら可能です。移動先は複数ありますがバクレイオン霊洞や比良坂霊洞も含まれています。至近に阿流高あるたか霊洞と言うものがあります》


 阿流高?岩屋洞とかは無いのか、それともそこを岩屋洞って呼んでいたのか。


『至近って、どのくらいの距離なの?』


《ここから北西に200mほど離れた所です》


 セトちゃんがマップにポイントを表示してくれる。

近いな、これなら闇雲に歩いて回っても見つけられたっぽいな……あ、でも通常空間には存在しないのか。

だったら別に距離とかも関係ない気がするけど、何か媒体みたいなのがあるのかもな。


『じゃあそこへ転移をお願いする……ちょっと待って、それ帰って来れる?』


 バクレイオン霊洞に転移すれば家まですぐだけど、明日病院で検査受けなきゃなんないから、出来ればここに帰って来たい。


《帰還ポイントに天蓋孤独ソロキャンパーを登録済みです》


 わー有能、さすがセトちゃん。


《転移ポイント阿流高霊洞…………転移開始………転移完了》


 一瞬目が眩み、僅かな時間の浮遊感。目の前の景色が切り替わる。

ゴツゴツとした岩肌のだだっ広い場所へと転移して来た。


 ここが阿流高霊洞か。なるほど、気持ち悪い魔力だが呪力だかが満ちているな。

ここにヒナツヒメが囚われているのか、ここまで来てあの野郎嘘とかついて無いよな。


 神経を研ぎ澄ませて気持ち悪く無い魔力を探してみる。

あ、なんか反応した。セトちゃんに頼らなくても自分で出来た。


 ちょっと嬉しくなりながら反応先まで魔力を辿りながら進んでいく。

歩く事10分ほど、祭壇がある広間に出た。

今までの剥き出しの岩肌とは違って、滑らかに磨かれた様な岩壁に床、天井。


 コレは多分アレだな、この場所でなんか土属性とかの魔法使って霊洞内をくり抜いたな。

実に安直な異世界帰りの能無し野郎がやりそうな手抜き工事だ。


 階段作って上にステージを設ければそれで祭壇です!とか言う発想も陳腐だ。

これだから異世界帰りって奴はセンスがねえ。大方、自分に酔って“こんな事ぐらい簡単なものだ”ファサア……とかやってたんだろうな。


 とか思いながらも登ってはみる。

その祭壇の最上段のステージ部分に社と棺桶が置いてある。


 何だろう、あの変態が社なんか建てて何かを祀るとかするとは思えないんだけど。

覗いてみると何かかがお供えしてある。どうも食べ物の様だけど……比良坂霊洞の噂で聞いたな。


『セトちゃんこれ吸収しといて』


 そのお供え物は光の粒子となって石板に吸い込まれる。

何にせよ潤葱総士郎の邪魔をするには、こっちで回収しといたほうがいい。


 さらに棺桶を開けてみる。白、ピンク、赤い花に埋もれる様に眠る少女がいた。

いい匂い、これ桃の花かな。何か意味があるのか?

多分彼女が緋奈津比売神子だろう。違ったら違ったで、こんなとこに安置されてる時点で普通じゃないんだから、回収しといた方が安心だ。


『セトちゃん、これこのまま吸収しても大丈夫?』


《問題ありません。恐らくコレはこの世界の神と呼ばれるモノの依代です。状態を維持したまま吸収し、排出出来ます》


 やっぱりそうか、なんか表現気になるけど、それならいいか。

そもそもこのままじゃ連れて行けないし、少しぐらい我慢してもらおう。


「緋奈津比売神子ですね、カエデに頼まれて助けに来ました。失礼とは思いますけど少々我慢して下さい」


 聞こえてるか分からないけど、一応断りは入れておく。

すると、ヒナツヒメは光の粒子となってお供え物と同じ様に石板に吸収されていった。


 よし、これで一先ず解決だ。

救出成功です。

やっとGW編が終わりそうです。疲れました。


今回も読んで頂きありがとうございます。

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