回る少女
さすが山だけあってケモノ系の魔物が多かった。
その他虫系の魔物もまあまあ多かった……ちょっとグロかったのであまり思い出したくない。
あとなんか植物っぽい魔物もいた。
多少身体が痛んだけど、動いているうちに段々治ってきた気がする。
それにしてもクマやイノシシは分かるけど、シカとかウサギもまあ分かる。でもオオカミとかまだ絶滅してなかったんだなあ、定番と言えば定番だけど……ゴリラとかゾウとか出てきた事に突っ込むのはダメなんだろうなあ。
ともかく何とか一晩で魔物100体は倒せたな。虫も入れたら200近いけど。
なんせ装備が高性能だから、無傷で済んだ。
初使用の光の槍もいい性能だった。この辺の魔物にはオーバースペックな威力だったけど、誤射もないし、周りへの被害も皆無な使い勝手の実にいい魔法だった。
結構MP稼げたし、上手くいけば宮藤さんの妹さんを完治させる事ができるかもしれない。
大きなお世話かもしれないけど、聞いちゃった以上同じお兄ちゃんとしては見過ごせないし、中途半端に期待持たせてそれっきりって言うのも人情がない。それくらいは面倒見させてもらってもいいでしょ。
朝早くに病室に戻ると、ちょうど看護師さんと鉢合わせになった。
どうやら夜間の巡回とかはなかったのか、特に咎められる事はなかったけど、歩き回っている事には驚いていた。
駅前霊洞騒ぎの時に、俺が治癒手段を持っているって事自体は既に知られているから、その辺の説明をして何とか納得してもらった。
それよりも、どうも隣室の宮藤妹さんの病症が劇的に改善されたって事の方が騒ぎになってて、俺への興味はあまり無さそうだったのが少々解せない。死にかけの大怪我ですよ?
その辺の説明まではしないでおくとしよう。それこそ騒ぎになるし、あまり根掘り葉掘り聞かれるのはまれなで懲りた。
妹さんの方にも飛び火しかねないから、不思議なこともあるんですねって事でどうか一つ。
「おはようございます、隣の者ですけどドア開けても大丈夫ですか」
少し時間を置いてから宮藤さんの病室のドアをノックする。
「あ、ははい……だ、大丈夫です!」
少し慌てた様に元気な声が返ってきた。
「失礼します」
ドアを開けるとベッドに座る中学生ぐらいの女の子がいた。
少し上気した様に顔を赤らめてる様子を見るに、ついさっきお風呂にでも入っていたのだろう。
四肢が石化していると言う事だったので、久しぶりにお風呂に入れて良かったね。
「お風呂上がりに邪魔しちゃってごめんね、俺は隣の病室の藤堂玻琉綺って言うんだ」
「お、お兄ちゃんから聞いてます!あ、あの、ありがとうございます!ホントになんてお礼を言ったらいいか……す、すごくありがとうございます、わたしもう死んじゃうのかと思ってました……」
瑆玖と同じぐらいか?こんなに若くして不幸にならずに済んで良かった。
いや、まだ安心できない、根本治療をしないとな。
「取り敢えず症状が治って良かった。ああ、大丈夫、ベッドに入ったままでいいよ」
妹さんは桃花ちゃんって言ったかな、ベッドから出てお礼を言おうとしているので、それを留める。
『セトちゃん、何かわかる?』
《情報不足です、この石板に触れさせて下さい》
そうか、なんか呪力っぽい気持ち悪さを感じるけど、昨日少し治してしまった分その呪力が薄まって直接触れないと解析出来ないか。
穴堕ちって事はイレギュラー霊洞……異世界魔法使いの潤葱総士郎被害者の会の同志だな。
「俺は医者じゃないけど、ちょっとした治癒魔法を使えるんだ。この……タブレットに触ってみてくれないか」
「はい!」
いい返事だ、部屋を訪ねた時の返事といい、元気にはなっている様だ。
『どう?』
《呪の残滓を感知。鬼毒の杯[呪]と同種の呪力です。異世界の魔力の影響を受けている様です》
やっぱ呪いなのか、石化ってメドューサがこっちでは有名だけど、潤葱総士郎の行った世界にもそう言う魔物や魔法と言うか呪いと言うかそんなのもあったのか。
《完全に解呪するには白石の使用が薦められます。MP15の併用で完治出来ます》
あっぶね、シャスティフォルなんかに使わなくて良かった。魔王とかの意識なんかよりも、この子の呪いを解く方が余程大事だ。
『じゃあ白石とMP15で解呪アイテムの作成をお願いするよ』
《要請を受諾しました……【白光祝鐘】あらゆる呪いを解呪。鐘の音の聞こえる範囲まで有効。三回使用ごとにMP10が必要》
なんと、初めて使用コストがかかるアイテムが出来た。
確かに天翼の角杖の状態異常回復ですら治しきれない異世界呪だし、そのくらいは必要か。
「じゃあこれから君の病気を治療させてもらってもいいかな?痛くはないと思うんだけど」
呪いと言うものは本人の魔力と混じり合って、魔力抵抗値を上げている場合がある。
受け入れ態勢を整えておいてもらった方がすんなりと解呪しやすい。
「え、な治せるんですか……お医者さんは石化が治っただけで治ったわけじゃないって言ってましたけど」
そうなのだ、現状はあくまで石化を治めただけで、呪いが解けない限りまたいずれ石化は起こってしまうだろう。
「まあ試してみてよ、それでまた医者に診てもらうと良い」
「わ、わかりました……お願いします」
「じゃあいくよ、ホワイトブレス!」
“コァ〜〜ン”
なんとも締まりのない静かな鐘の音が響き、それほど光量の強く無い光が病室を埋める。
「あたたかい……」
桃花ちゃんが呟く。非常に安らいだ表情だ。
「うっ!」
だがすぐに苦悶の表情を浮かべ、苦しみ出す……どうなっている!?
「オェ……」
“ゴトリ”と、桃花ちゃんの小さな口から出てきたとは思えない程大きな禍々しい黒い石の様なものが出てくる。
なんだコレ、呪の本体なのか?こんな物が体内に……と、その瞬間に黒い粒子となって石板に吸い込まれていく。
「桃花ちゃん!大丈夫かい!?」
一先ずコレは後で考えよう、それより桃花ちゃんの容態だ。
痛くはないと思うなんて言っちゃったけど、痛かっただろうか。
「おほっ、えほっ、けふけふ……だ、大、丈夫、です」
「そう……具合の方はどうだい?何か良くなった感じはある?」
「え……あ!凄いです!」
ベッドから飛び跳ね、病室内で前回り受け身や、前転側転バック転を繰り返す桃花ちゃん。
いや暴れ過ぎ、もう一生回ってるじゃん。とか思い始めた頃になってやっと止まる。
「わあい!なんですコレ!凄い、身体軽い!ウッソみたい!一生回ってられる!」
回らんでよろしい!何故回る。
「凄い!藤堂さんって……神様か何かですか!」
俺の胸に飛び込んで抱きついてくる桃花ちゃんが、下から顔を覗き込む。
……おう、近いな物理的にも答え的にも。
「いや別に……それより良かった。元気になったみたいだね」
元気すぎる。さっきも元気になったとは思ってたけど、まださらに元気を残していたか。
後二回くらいは元気を残してそうだ。
「ハイ!メッチャ元気です!うわあ凄い凄い!」
ああ、また回り出した……なんか別の呪いかかってない?
本日二話目なので少々短めです。
今回も読んで頂きありがとうございます。
ブクマしてくれた方にも感謝申し上げます。
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