やだこの人最低
「お兄さん、俺はまれなとチームを組んでるんですよ、勝手に決める事は出来ません」
決してまれなが怖い訳じゃない、弱みを握られてるだけだ。
「玻琉綺君!そんな悠長な事を言っている場合じゃ……」
「お兄さん、嘘……吐いてますよね」
嘘と言うよりも、言ってない事と言った方が正しいかな。
例えば同門に扮した盗人の同士討ち、それってシャスティフォルの能力じゃないか?
例えばイレギュラー霊洞、誤解と言いながらそこの釈明はせずにバクレイオン霊洞の話にずらしている。
そして鏡だ。うっかりポロッと言っちゃったのかも知れないけど、それって多分反転の力の素ですよね。
疑問問はまだある。
何故魔王の意識を上書きしたと思われるシャスティフォルは実家に置いてきたのか。
何故そのシャスティフォルだけ洋風なのか?
「そんな事はない、どうか信じて欲しい」
「どうも様子がおかしいんですよ、死んだと思っていたお兄さんが生きていたと知った時のまれなの反応の薄さと言い、ガバガバな指名手配と言い、俺に会いやすい様なこの場所に軟禁されてる事と言い、まれなのチームメンバーである俺に脱走の手引きを頼む事と言い……」
どうやら俺もすっかり誘導されてた様だな。
アッちゃんはこう言った類のものは俺に通じないとか言ってたけど、石板に入れっぱなしだったのが不味かったか?
アッちゃんやセトちゃんを信じる様に、石板内のシャスティフォルの意識誘導をそれと同じ様に受け入れていたのかも知れない。
「なら、別に俺を信じる必要はない、けどヒナツヒメはどうなる。彼女はもう限界だ」
「それなんですよね、わざわざ拐っておいて、命?だか存在だかが危ないから引き渡す……しかも話を聞くにあなた方の目的はまだ達成されてない」
バクレイオン霊洞はエラーを起こしていると言っていた。
それって限界なんじゃ無くヒメの精一杯の抵抗だったんじゃないか?
「どうあっても一緒に来てはくれないのか」
ここまでの話が全部嘘だとは俺も思わない。真実も織り交ぜている事だろう。
むしろ、真実のみを都合のいい様に話しているだけなのかも知れない。
「君の探しているヒナツヒメの居場所がわからないままで良いと?」
探していると言った覚えはない、知っているかと聞いただけだ。
もちろん探しているし、そうは言ってなかったとしてもそう思うのは別に不自然じゃないけど、俺を関係者だと思ってる節があるな。
「居場所なら大体分かりましたよ」
「何だって……?」
「結構迂闊ですね、まれなから俺が何も聞いてないとでも?」
そう、コイツが行方をくらました場所、そしてポロッとこぼした言葉。
「鬼面山の岩屋洞ですね。そこでシャスティフォルの意識誘導を解除した」
ただ、魔導力場のない場所でシャスティフォルはどうやって能力を発揮しているのだろう。
まさかとは思うけど、異世界魔法は此方の制約を受けないとかじゃないだろうな。
そうか!ピンと来た。
神薙の目的が鬼と同じだとすると、力場領域の拡大を目指している事になる。
そうなると、逆説的にコッチも魔法とかが霊洞以外でも使える様になる為、鬼達が支配するなどと言う未来は想像し難いし、鬼達もそう望んでる訳でも無さそうな雰囲気だった。
では、そうなって誰が困るか。
もちろん、魔法など使えない人達や、戦う術の無い一般の人たちもだけど、コイツらが普通の場所で魔法を使えるなら、そのアドバンテージがなくなる。
それ故に神薙とは敵対関係にあり、比良坂霊洞で殺されたのは神薙のメンバーで、鬼童丸もコイツを敵認定した訳か、それにしても鬼をも欺くとはね……いや、欺かれたのは素体になった石動さんかな?
ただコレは推論を前提に推論を重ねただけだ。
俺はなんかこう言うのが好きなんだな、やっぱ小説家になりたいと実は思ってるのかも。
そしてその推論を正しいとするなら、コイツの正体って……。
「何故、シャスティフォルの能力を……」
まあセトちゃんはチートアイテムだし、そんな事コイツが知る訳もないか。
「話す必要はないな、それにしても上手く化けてるじゃ無いか……潤葱総士郎」
「ふん、フルネームまで知られてるとはな、本当に何者なんだお前は。ただの学生じゃあるまい」
「だから話す必要などない」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(ちっ、事を性急に運びすぎたか)
潤葱 総士郎は内心で舌打ちを打つ。
計画が大幅に狂ったのは、全てこの目の前にいる学生一人のせいだと今更ながら気付いたのだ。
バクレイオン霊洞が予想外に早期攻略をされ、あろう事か魔導書まで奪われ、霊剣シャスティフォルも玻琉綺の手の中だ。
総士郎は異世界から戻ってきた時、自分が力場のない所でも魔法が使えた事に驚いた。
と同時に高揚感が湧いてきた。この世界で自分だけが何の制約もなしに魔法が使える。
普通の魔法使いと呼ばれる連中は、所詮魔導力場の中でしか魔法を使えない。
異世界に続き、元の世界でも最強に至れる。
そう考えた時、気になる存在があった。
女神アルセティオだ。自分に魔法の力を授けた女神である。
アルセティオは言った。
『貴方のその力は世界を豊かにする為にこそあるのです』と。
冗談じゃない、俺の力は俺の為にこそあるに決まっている。
そう考え、憤った……そしてまた恐怖した。
力を与えると言う事は、奪う事も出来るのでは……と。
そんな事は許されない、この力はもう自分のものだ、与えたものを返せなど神の言う事じゃない。もう二度とあんな惨めな自分に戻りたくは無い。
……神を、殺すしかない……
全ては俺から奪おうとする女神が悪いのだ、俺は自分の権利を守る為の正当防衛をするまでだ。俺は悪くない。
そう考えた総士郎は、異世界の神を殺す計画を立てる事にした。
もちろんアルセティオはそんな事は言っていない、全ては総士郎の被害妄想だった。
しかし、厄介な事に総士郎は強かった。伊達に異世界で魔王を封印したわけではない。
元の世界では無能、腰抜け、卑怯者、自意識過剰の勘違いナルシストなどと罵詈雑言を浴びせられていた総士郎は、異世界で特別な力を与えられ、人々を歓喜させ、女性を魅了し、世界中から敬われていた。
そんな世界から放逐された総士郎は、自分の力は当然の慰謝料だと思っていた。
こんな世界に未練などなかったが、自分だけの特別な力があるなら話は別だ。
(俺はこの世界でも女を侍らせ、人々から尊敬され、称賛され、俺を馬鹿にした奴等を八つ裂きにする)
その想いに囚われ、自分の中に封印した魔王を適当な古本に封印し直し、海外で見つけてきた霊剣シャスティフォルに魔王の意識を上書きした。
魔導書は縛霊怨と名付けられ、魔王の呪いの書となったのだ。
魔王には別の名があったが、この世界にそう定義づけられた。総士郎は当然のように気にしなかった。
名前などどうでも良いと、ただ然るべき時に魔王として現れて、自分に討伐されるだけの存在に名などいらないと。
その自分の計画を台無しにした者が目の前にいる。
総士郎は目の前が真っ赤に染まるのを感じた。……そして……
《獄炎雷破弾》
自身の最大級の攻撃魔法を唱えていた。
ちょっと急展開です。話を締めにかかってます。
上手くまとめられるかはどうぞこの後も読んで頂いて確認して下さい。
今回も読んで下さってありがとうございます。




