この伏線、回収する気あんの?
『ヴォオオオオオ!」
石動さんの身体が膨張して裂けると、中から一体の大鬼が現れた。
これがまれなの言ってたやつか……でも、なんか違うな、魔物特有の魔導元素で作られている感じがしない。
三メートルはあろうかと言う巨体に赤い肌に赤い前掛け、ザンバラな髪を頭頂で結んだ雑なちょんまげ。
ツノのない鬼だ。
「はわわわわ、い、石動さん?」
人間が魔導元素を取り込んで、無理矢理魔物になったとでも言うか……カエデとも違うしな。
鬼にも種類があるのか、それともこれが人工魔物というモノの特徴なのか。
「あーあ、やりやがったよ。まったくコイツらはすぐに鬼に成りたがりやがる」
「兄様はこれが何か知っているの?」
「ああ、あれは……呑気に話してる場合じゃねえな」
どうやら鬼はお兄さんに狙いを付けたらしく、大きな犬歯を剥き出しにする。
「おうおう、オメエ稲城華樹臣だなぁ。俺っちの同胞を随分と可愛がってくれたなあ」
鬼の事か、それとも神薙の仲間の事か。
「また随分派手な奴のお出ましだ。オメエ公時だろ」
え、それって金太郎の事だよな。
え、金太郎って鬼だったの?むしろ退治側ではないだろうか。
「ふん!ちげえなあ、今の俺っちは……えーっと。か、かい……そうだ!怪童丸だ……あー、俺っちは怪童丸!明日香良山の鬼女八重桐が子、怪童丸たあ俺の事よ!」
何回言うんだよ。もういいじゃん金太郎で。
なんか見た事ある前掛けに金とか書いてあるし、そんな裸前掛け金太郎でしか見た事ないよ。
地元の名物だよ。もはやクマがまたがるレベルだよ。
「はっ、こんなのとまともにやり合う気はねえ」
あ、逃げようとしてる。
そうはいかないですよお兄さん。一度まれなとちゃんと話して下さい。
まれなもとっ捕まえたいって言ってたし。
それに、どうもまれなの様子がおかしい。
この男とか、あの男とか言ってる割には兄様とか呼んでるし、同門を殺したとか言いながらあまり憎んでる様子は無いし、潤葱の事も“殺人を犯してる”などと、まるでお兄さんは人殺しなどしていないかの様な言い方だ。
何か誤解と言うか齟齬と言うか、すれ違いがありそうだ。
二度同じ手は食わない。
潤葱と同じ魔法なら阻止できる。
『セトちゃん!阻害術式転写お願い』
潤葱の転移術の魔力痕跡から術式を解析、そこから反転移力場を生成、展開して転移阻害を行う。
ほとんどセトちゃんがやりました。
俺はただの魔法発動用デバイスでしか無い……早く言語覚えないと。
「っと、何だ?術が発動しない……」
よし、成功したな。やっぱり同じ系統の魔法だった様だ。
「お兄さんの転移は阻止させてもらいましたよ、聞きたい事あるんで」
「でかしたわ玻琉綺!さあ兄様、大人しくお縄について頂戴」
しかしこのまれなノリノリである。
よし、お兄さんは妹さんに任せて、俺は金太郎の相手をするか。
……大分やべえ相手ではあるけど。
「さあて、金太……怪童丸よ、まずは俺が相手になるぜ」
「何だあ童、俺っちに挑むにゃあちいと貧弱だあな」
く、これでも身長180はあるんだぞ、そっちがデカすぎるんだよ。
「そっちも得意の鉞が無いじゃん、俺はこの通り完全武装だ」
「ふうん……オメエ、知らねえのか?」
何をだ。
「鬼ってなあな、こんな事もできんだあ」
両の手がモコモコ動き始め、変形していく。
そして巨大な鉞になったかと思うと、それを力任せに振り下ろしてきた……両手共にだ。
「おりゃああ!」
“ドゴオオオオ”
凄まじい音と共に霊洞の地面が陥没する。鉞ってそう言う道具じゃない。
「何だよ、鬼ってただの力自慢なのか?」
俺は楽々懐に侵入している。
あんな間合いの長い武器を両手で振り回したら、近接戦に対応できないだろ。
「へえ、す速ええな」
掻い潜った腕の至る所から棘のような物が飛んで来る。
腕毛か?気色悪いなあもう。ま、そりゃそう言う事もできるよな、知ってた。
俺は懐に入った勢いのまま金太郎の股下を素通りして背中に周り、一太刀入れてすぐに離れる。
「うおおっ!やるなあ、痛えじゃねえかあ」
うう、変な所を潜らせやがって……パンツも履いてねえし。
鬼なら虎パンツでも履いとけよ。
「おりゃあああ!!」
今度は腕を鞭の様にしならせて鉞を振るう。
相変わらず両腕を使ってだ。わざとか?それとも天然なのか?
両腕を使うって相当な技量が要求されるんだぞ、ただの力任せで振り回しても腰から下が全然入ってない。
そんなバランスの悪さじゃ上手く狙えないだろ。
とか思ってたら、急に腕の軌道が変わる。
関節とかを無視する様なその動き、しかもそれが二本。
これには俺もびっくりした。そこまでは予想して無かった。
さらに腕毛ミサイルまで追加で発射してくる。
これはちよっと堪らない。流石に被弾して、かち上げてくる鉞を避けられない。
「うおお、何だそりゃあああ!」
避けられないから、鉞の刃のくびれ部分に足を乗せ、その勢いで飛び上がり屈伸後方三回宙返りで着地。
今度は怪童丸がびっくりだ。
「オメエ、何なんだ……俺っちの攻撃をそこまで捌くなんてよお」
腕毛は鎧のない部分にも刺さってる、痛ってええ。
何とか凌いだけど、さすがは昔話に出てくる豪傑だな。
「なんて奴だ、公時を相手にああも遇らうなんて……」
お兄さんが、まれなにのし掛かられて縛り上げられながら驚きの声を上げる。
なんだかほのぼのする光景だ。実に兄妹っぽい。
「怪童丸、悪いけど引いてくれないか?俺も昔話の英雄をこれ以上相手にしたくない」
阿久羅童子は霊洞の奥に消えていったと言う。
奥で何するかは知らないけど、とにかく一回引いてくれないかな。
こっちはお兄さんに用事があるんだ。
「禍津大瓊……荒ノ王……」
何だって?
「オメエ、いや、アンタまさか……分かった、ここは引こう」
物分かりがいいな、なんか不穏な言葉が出てきたけど。
「おいそこのふん縛られた櫛稲田の小僧、この人に免じてこの場は見逃す。精々首を洗って待ってろい」
なんかさっきから色んな単語が出て来てるけどさ、別にもう設定とか要らないからね?余計なもん生やさないで。
「アンタ、名前を聞かせてくんねえか?」
金太郎に名前を聞かれるとは……地元の人間としては嬉しいのか何なのか。
「藤堂 玻琉綺だ」
「藤堂……東洞か」
違う!東洞とかじゃ無い。何だよ、まだ変な設定俺につける気かよ。
マジでこの世界は俺に何させようっての?後出しでそんなん言われても面倒見切れないぞ、キリがない。
「じゃあこれで失礼する。アンタとはまた会いてえなぁ」
やめろや、去り際のフラグ立てとか要らねえっつってんだろ!
大人しく穴ぐら閉じ籠って出てくんな。
「藤堂君?……君って一体」
ほら陸堂さん引いてる。こう言う反応本当傷つく。
俺は普通じゃないけど普通の高校生だっての!もうわかんねえなこれ。
「鬼に……言う事を聞かせた、だと」
お兄さんもヤメテ下さい。そんなみの虫みたいな姿で言っても格好つきませんよ?
しかし……まれな、やり過ぎじゃない?そこまで縛んなくても……やっぱなんか恨みでもあるのかなぁ。
しばしの休憩の後に話は紛糾している。
「ですから僕に任せて下さい、悪い様にはしませんて!」
「信用できないわ、それにそもそも兄様をひきわたすなんて事自体論外です!」
「はっ、どうでもいいさ、好きにしろ」
指名手配犯であるお兄さんを陸堂さんがギルド側に引き渡せと要求し、まれなが突っぱね。お兄さんは不貞腐れてる。
元々探索ギルドと討伐ギルドは仲が悪い。
詳しい確執は分からないけど、随分前からそうだと言う。
元々まれなの同行に許可が出たのは、俺に原因がある。
どうやら俺の所属に関して相当に揉めているらしいのだ。
このバクレイオン霊洞の探索が進まなかったため、踏破者である俺を呼び寄せ、情報を得ようと言う話にはなったみたいだけど、主導権を握っているのが探索ギルドであるため、そのままなし崩しに所属してしまう可能性に討伐ギルドと軍が難色を示した。
だから加納崎さんあんなこと言ってたんだ……俺の知らないとこで話を変な風に進めないで。
そこへのこのこやって来た俺。
まれなが同行すれば討伐ギルドには言い訳が立つし、軍は今霊洞の出口で張っている。
探索ギルドも、この場でそうそう迂闊な行動には出れないだろうと言う思惑の中、今回の探索に許可が出たのだ。
つまり、結構危ういバランスで今俺たちはここにいる。
そんな中、トラブルの原因となった杯をアイテムボックスに入れた指名手配犯であるお兄さんの身柄は、探索ギルドとしても見逃せない。
「そちらに兄様を所有する正当な理由はないわ」
所有て。
「指名手配犯を身内に引き渡すよりは正当性があります!」
もっともなんだよな。
「こちらには尋問の後当局に引き渡す準備があります」
「まれな!?」
まれなも厳しいな。皆連寺方式か?お兄さんもうっかり素になってるじゃん。
「それこそ信用出来ません、こっちも成果が必要です。譲れません」
陸堂さん、本音出てますよ。
この話長くなりそうだな……でもお兄さんから話を聞くには今がチャンスかな。
「お兄さん、ちょっと話があるんですけど」
「君にお兄さんと呼ばれる筋合いはない!」
ですよね。
「えっと、じゃあ華樹臣さん。さっきも聞いたんですけど緋奈津比売って知ってますよね?」
「はっ、俺が友を売る男に見えるのか?侮るなよ」
あ、知ってるんですね。って事はやっぱり誘拐犯は潤葱か。
いやあなんか色々出し過ぎちゃいました。
本当はもっと小出しでゆっくりやりたかったんですけど、一向に行きたいところに届かなくてつい。
これを上手くまとめるのは骨です。
何とか頑張りますので応援よろしくお願いします。
今回も読んで頂きありがとうございます。




