お前だって兄様とか呼んでんじゃん
「あったわ玻琉綺、あそこじゃない?」
まれなが指を指し示す場所は、確かに壁の両側が削れている部分とそうで無い所との境目が見える。
およそ50mほど歩いただろうか?やるなまれな、いち早く気付いたな。
「貴方のあのスキル、こんな所まで届くなんて異常よ。しかも壁を壊しながら、Uターンまでして来たし」
「アレは壁を走らせる様に打ったからな、そのくらいは行ってもらわないと役に立たない。それに壁破壊に特化した魔力を乗せたからな、アレじゃスライムくらいしか倒せない」
まあもちろん謙遜だ、ゴブコボくらいならいけるかな?
「スキルに任意の属性乗せるとか何なの?そもそも霊洞の壁破壊属性とか意味わかんない」
スキルとかがある弊害だな。
スキルって固定化されてるから使いやすい反面、そう言った応用が効かないんだよなあ。
壁破壊は今作っただけで別に属性として認知されているもんじゃないし、厳密には違うものだ。
「今のは別にスキルじゃないから自由は効くんだ」
「そう言う事を言ってるんじゃないの」
そうなの?まあいいや、それよりこれからが本番だ。
「そんな事よりこの辺だ。何かおかしな物がないかみんなで探してくれ」
魔導製品って以前は魔導書を拾った。
まさかそんな危なっかしい物ばっかじゃないと思うけど、こんな事態を引き起こした物だから危険が無いとも限らない。
やっぱり俺が回収しとくのがいいんじゃないかって思うんだけど。
魔力異常か、いや普通に分かるんだよな、こんな面倒くさい事しなくても。
敢えてこんな事したのは無理なく原因を突き止めたって言うアリバイ作りのためだったんだけど……。
「あ!コレなんでしょう?藤堂君、壊れた壁の中にありました!」
大体この辺にあると思ってたけど壁の中だったかあ〜。
地面に埋めてあるとかだと思ってたけど壁かあ。壁に埋めんなよ、トリッキーだなあ。
陸堂さんに先に見つけられちゃった。
《鑑定発動:鬼毒の杯・・・反転の呪がかけられた杯、呪力暴走により従来の効果を歪めて発動・周囲の通路に作用》
なるほど、反転の呪いってのが何を反転させるのか知らないけど、それが暴走してUターン効果を生み出してたって事か。
壁内にあるとは思っても無かったけど、壁だけ壊す様な斬撃にして正解だった。
この通路は三つあるうちの真ん中だ、左右の通路にも影響してどの通路も先に進めなかったんだな。
まあ、手にしたぐらいでどうこうなる様な呪いじゃなくて良かった。
「やっぱり不快な気配がしますね、恐らくそれがこの現象の原因です。回収してどこかに厳重に保管しときましょう」
解呪するには一回石板に吸収させなきゃいけないし、そんなの無理そうだからしっかり管理しておいてもらおう。
「じゃあこれで調査を進められるんですね!」
ただ、それを持ったまま歩いても大丈夫なんだろうか?
反転の呪自体はそのまま掛かってる訳だから、下手したらそのまま一歩も進めないってこともありうる。
「それを持ったままだとUターンしちゃって進めないかも知れないので、投げ渡しながら引き返しましょう」
「そうね、持ったまま一歩でも歩くとどうなるか予想がつかないわ、最悪身体が裂けちゃうとか……」
「ヒ、ヒイィィ!」
そうなのだ、その可能性を危惧して俺は、陸堂さんが杯を見つけてすぐに近くに来た。
「わ、わ、わ、ど、どうすればばば!」
「落ち着いて下さい、これを持ったまま一歩も動かずに霊洞を出れば大丈夫です」
投げ渡しながらって言ったけど、ぶっちゃけぶん投げて、拾ってまたぶん投げてってやりながら帰れば行けるだろ。
でも一応は霊洞の産物だし、丁寧に扱う姿勢は見せておこう。
「わわわ!」
あ、まだ早いですよ。まだ誰も受け取る準備をしてない。
と言うかみんな杯から逃げてしまい、受け止めようとする人はいなかった。
“カーン……カラカラカラ……”
乾いた金属音が霊洞内に響く。
「ちょ、ちょっとみんな、何で逃げるんですかー!」
そんなもん受けられるか!とか、無茶言うな!とか、何だよ身体が裂けるって!とかの苦情が飛び交う。
そりゃそうだ、いくら歩かなければいいって言っても、そんな物騒な物、最初から触らなければいいだけだ。
「まれな、脅かし過ぎじゃないか?」
「さ、最悪はそうなるかもって話じゃない!」
まあね、確かに反転の力がもし両方に働いたら身体が引きちぎれるかも知れないけど、歩くってだけの力で身体は千切れないだろ。
かく言う俺も万が一を考えて側に居るんだけどさ。
「仕方ない、乱暴だけどぶん投げながら引き返しましょうか」
誰も触りたくないならしょうがないよね。
「それは大事な物なんでね、もっと大切に扱って貰いたいな」
何!?誰だ全く察知できなかった。
……杯の反転の力のせいか、ここに届く気配や魔力まで反転させてるのか。
「貴方、何者!」
ギルドの人やまれなもすぐに臨戦態勢だ。
今こいつは奥の方から現れやがった。それはつまりギルドの人じゃないって事で、さらにはここの仕掛けに関わっている奴って事だ、杯の事も大事って言ってるし。
体の半分は影がかかっててよく見えない。でも結構若い男みたいだ。
「何だまれな、俺の事もう忘れちまったのか?薄情なやつめ」
え、まれなの知り合いなのか?
「嘘、そんな、まさか……に、兄様!?」
え、兄?まれなって跡取りじゃ無かったっけ、てっきり一人っ子とか思ってた。
「何だ覚えてたか、まあ死んだ事になってんだからそりゃ驚くか」
どう言う事だ、お家騒動?
「潤葱から聞いた時はもしやと思ったけどな、本当に関わってたとは」
潤葱だって!?それ殺人犯で、異世界帰還者容疑の筆頭じゃないか。
「兄様……潤葱を知っているの?あの男は殺人を犯してるわ!」
「何だアイツ、身バレしてんのかよ」
まあ、情報は共有したからね。
まれなとこの男……兄か、お兄さんに何があったか知らないけど、アレと友人だってなら敵なのか?
「お兄さんはこの杯で何をする気ですか?潤葱とは仲間なんですか?」
「玻琉綺、この男に言葉遣いなんか気にしないでもいいわ!」
え、そうなの?お兄さんそんな事言われて悲しくならない?
この男呼ばわりって一体何したのさ、俺もお兄ちゃんとして興味ある。
「お兄さんと何かあったのか?」
「……ええ、あの男は……」
「し、し、指名手配の、稲城 華樹臣!同門を殺して稲城家家宝の生穂奈留太刀を盗み出した極悪人!」
陸堂さん解説ありがとうございます。でもまれなが言おうとしてたのか口をパクパクさせてる。
殺人を犯した人に殺人犯を非難してもしょうがなくない?
「なあに、必要だったんでな。神殺しの太刀がな」
誘拐犯が潤葱かどうかわまだ疑惑の段階だったけど、確定に近づいたな。
「まれなのお兄さん、緋奈津比売って神様に聞き覚えあります?」
潤葱が誘拐犯だろうがなかろうが、華樹臣さんが仲間だろうがどうだろうが、俺がカエデから依頼されたのはヒメの救出だ。
彼らの目的の阻止じゃない、何をしようが構わないけどヒメは返してもらう。
「お前、藤堂だったな……どこまで知ってる……この霊洞の踏破者だったな、何者だ!」
この口ぶりはやっぱり誘拐犯本人、もしくは仲間で確定でいいな。
「まさか……まれなの彼氏なのかっ!!」
ごふっ
「ちょ、兄さん!何言ってんのよっ!だだ誰がこんな、こ、こんなのと……」
あの、急に空気変えないでもらえますか?今そんな場合じゃないんですよ。
まれなもムキになって否定してないでさあ、ちゃんと注意してやって?こんなので悪うござんした。
「おのれええ!稲城華樹臣いい!」
唐突にギルド員の一人が声を上げる。
「はっ、隙を見せればそうくると思ったぜ」
え、わざとだったの?
「お前神薙の奴だな、やっぱギルド内にもいたか」
「神をも畏れぬ叛逆者め!天誅をくれてやる!」
「ちょっと、石動さん!どうしたんですか急に!?」
「はっ、オメエらこそ鬼集めてどうしようってんだ!」
鬼を集める?件の阿久羅童子もそうなのか?
石動って人とお兄さんが切り結び始める。何だ?どうする、神薙と誘拐犯、潰し合いって言って見物してるのは不味いか?
お兄さん側の情報は欲しい。
「まれな、お兄さんに助太刀とかしたほうがいい?」
石動って人も結構強い。
「必要ないわ、むしろとっ捕まえたいくらいよ!……あ、玻琉綺いけない」
「どうした!」
お兄さんの方見ると、戦いながら杯に近いている。
確かにあんなに動きながらアレに触れたら危ない事が起こりそうだ。
「兄様はアイテムボックス持ちよ!」
何い!あの危険なアイテムボックス持ちだってえ!
「もう遅いぜ、物は頂いた!」
そこに転がってたはずの杯がもう無くなっている。
アイテムボックスに収納したって事か。いや別に要らないけど。
「おのれえ、させるかあ!」
石動さんが小さい鉄パイプの様な物を取り出す。
……アレって。
「あ、あれは三奈桐が使った!」
石動さんは躊躇う事なくそれを首に押し当てた。
文章表現がなかなか上手くいかなくて苦労します。
本当はもっと進めたかったのですがやはり簡単にはいかないですね。
まだ駅前霊洞編は続きそうです。
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