古の鬼
「ゔおおおおおぉぉぉぉ!!」
大鬼は一吠えするとまれな達を一瞥し、踵を返し犠牲者達の亡骸に近寄り一人の女性探索者の亡骸を抱え上げる。
そしてさらに他の犠牲者を見渡し、
「なるほどな、コレが供物と言うわけか」
そう言ったかと思うと、その女性を食べ始めた。
「や、やめなさい!」
それまであまりの事に呆気に取られていたまれなが声を上げる。
だがそれでも動けずにいた。
それは斑鳩達も同じで、自分達の仲間が突然鬼に変貌し、あろう事か言葉を話し、人肉を食らい始めたのだ。
明確な敵対行為をするわけでもなく、ただ犠牲者を貪り続けている。
その様が、まるで死者を悼み供養するかの様な厳かさだったのも大きい。
「お前……三奈桐じゃ、ないのか」
「我は四方の鬼、そうよのう、阿久羅童子とでも名乗るとするか」
自らを阿久羅童子と名乗った鬼にまれな達に対する敵意はない様だった。
「宿主の記憶は多少残っておる、お主らは我の邪魔をしなければ手を出さんでおいてやる」
「邪魔ですって?一体何を企んでいるの!」
気勢を取り戻したまれなが、詰問する様に阿久羅童子を問い詰める。
「領域の拡大、と言えば分かるであろう」
「な!?それってまさか……」
「これは何の騒ぎだ」
まれなが言葉を続ける前にそれを制止する者が現れた。
霊洞内だと言うのにキチっとしたブランドのスーツを着込み眼鏡をかけた30台に入ったばかりの長身の男を先頭に男女が五人。
協会の者達だ。ずいぶんと早い到着に思える。
「何だこの有様は、遺体が無いぞ!一体何をやっている」
「何だそこの大男は、現場を荒らしたのはお前か!」
口々に苦情を申し立てる協会の監察員達。
この大鬼を前にして“そこの大男”とは恐れ入る。
だがそれも無理はないだろう、見た目は確かに大男そのものだ。
ツノがある訳でもなく、異形要素のまるで見られない阿久羅童子は何も知らない者が見れば、本当にただの大男なのだ。
では、何故まれな達は阿久羅童子を鬼と見破ったのか。
それは探索者としての察知能力に他ならない。
探索者は様々な魔物と相対する為、相手の魔力を人間かそうでないかは、肌で感じ取れるものなのだ。
つまり、協会の者達はそれすら感じ取れない素人の集まりという事になる。
そもそも、鬼とは元来人間と変わらぬ姿をしており、ツノだの何だのは後世の鬼と呼ばれる魔物達の特徴である。
海外の小鬼や、食人鬼などがツノを生やしているのを鬼の特徴だと世間が勘違いしているせいでもある。
もっとも、日本でも古くからツノの生えた鬼の伝承はあるので、そうなるのも仕方ない事だろう。
つまりこの鬼はそれ以前の、最も古き鬼の一体であると言える。
元々鬼という魔物自体、朝廷に仇なす人間だった者を“まつろわぬ者”として迫害し、陰に隠れ住む隠と呼ぶ様になり、いつしか本当に魔物になったとされている。
と、ここでまれなは一つの噂を思い出す……“人が魔物になった”。
(元は人から魔物になったとされる鬼……この比良坂霊洞の噂、関係があるの?)
さらにたった今、どう言った理屈かはともかく目の前で仲間が鬼に変貌したのだ。
まれなの混乱は深まる。
「何とか言ったらどうかね!まさか何か隠蔽工作でも図ろうというのか!」
「これだから田舎ウナギは!」
稲城家の蔑称である。様々な追求をヌルヌル躱す様と音を掛けただけのくだらない嘲り。
「ほう、原家……源の末裔か」
阿久羅童子が憎々しげに言葉を吐く。
「何い?何だ貴様……何処でそれを」
犬歯を剥き出しにして阿久羅童子は笑った。
どう考えても面白くて笑った訳ではない、その獰猛な笑みは仇を見つけたかの様だった。
だいぶ短いですが、第三者視点での話は一旦ここで切りです。
次回からまた玻琉綺の一人語りで進めていきます。
結構分かりにくい話かもしれませんが、ここで出ているものはフレーバー的なものと思って頂いても大丈夫です。
本筋ではないのですが、上手いタイミングがあれば掘り下げる事もあるかもしれません。
今回も読んで頂きありがとうございます。




