人工魔物発生装置〜
魔物を人の手で作り出すって事なのか……。
そんな話聞いた事もない、ウチの学院でも授業であれなんであれそんな事が話題に登った事はない。
最新の技術ってやつなのか、それってどう……あのテントの力場、もしかして俺が休んでる所を魔物に襲わせるつもりだったんじゃないだろうな。
まさか妙に多かったゴブ、コボは……流石に考えすぎか?
それにここは別に力場は発生して無いよな、そんなとこでも魔物って出せるもんなのか。それとも人工魔物は普通の魔物とは性質が違うんだろうか。
まあいい、この装置は回収してセトちゃんにでも吸ってもらおう。
取り敢えずはこの小太りをどうにかするか。
俺は小太りの襟首を掴んでテントまで運ぶ、重いな。
「ぐああ、いでで、何すんだ!」
あ、不味いか。
一度運んだ小太りをまた離れた所に持っていく。
「ぎゃああ!」
煩いな、いい大人なんだから叫ぶなよ、別にそれで治るわけでもないのに。
単なるアピールにしかならないし、俺だって痛いってのは分かるよ。
まあ逃げはしないと思いたいけど念のためだ。
「イッグアアアアアア!」
一応足首を踏み抜いて歩けない様にだけしておくか。
『セトちゃん、ちょっと聞きたいと言うか相談なんだけど」
テント内でセトちゃんに話しかける。
《御用件を承ります》
返事が来た。ちゃんと繋がるな、このテント凄え……欲しいな。
『セトちゃんに入ってる物って、取り出さずに効果だけ抜き取れない?』
ちょっと都合が良いけど、これが出来たらアイテムボックスとかを誤魔化せると思う、まあ何か魔法とかスキルと勘違いされるのは避けられないけど。
《現状では武器や防具などの装備品以外であれば可能です》
おお、出来るんだ。でも現状って事はいずれは……
『その為にはセティネストの成長が必要だな』
『わ、アッちゃん。成長って……どうするのさ』
『以前も言った通り、とにかく使う事だ。MPをより稼ぐと良いぞ』
MPを?
『もしかしてMPってセトちゃんの食事、結構使っちゃってるけどまずかった?』
『問題ない、取得MPはすでにその分を引いた物だ。まあ成長するほどに食費は嵩むがな』
通りで最近MPの入りが悪いと思った。
『それと、効果だけの使用の場合はルビの部分を言う様にしろ』
『ルビって言うなよ』
さっき霊洞で装備をルビ呼びしたけど、普通に出てきたからまだ装備品では出来ないって事だったんだろう。
まあじゃあ小太りを念入りに縛ってから治療するか。
お誂え向きにロープも用意してあるし……コレ俺に使う気だったんじゃ……。
「エンピリオンギャラルホルン!」
脂汗塗れで真っ青だった顔に血色が戻っていく。
「こ、これは……お前、回復術師だったのか!?」
別に何でも良いよ。色々聞き出したい事はあるけど、どこまで信用できるか分からないし。
そんな事よりまれなとの合流を急いだ方が良さそうだ。
さっきの人工魔物装置はもうセトちゃんに吸わせてある。
鑑定結果もまだ見れてないし、どっかで時間取れると良いんだけど。
さっきはついああ言ったけど別に現場の保全など自分達がやる事じゃない。
稲城まれなはそう思いながらも霊洞の中を進んでいく。
(そもそも玻琉綺が変な事言うからよ、何が“まれなの事だけ考える”よ!)
「お嬢、顔がまだ赤いぞ、何を言ったか知らんけどいい加減藤堂君の事許してやれ」
「別に怒ってないわよ!」
じゃあ何だよなどと思いながらも、斑鳩勇治は理解している。
まれなが藤堂に惹かれつつある事に。
(自分より強い男に初めて会ったとかって随分はしゃいでたよなあ)
無論、それだけで惚れてしまう程の単純なお嬢様では無い事ぐらい承知している。
全てはこれからだろうと、斑鳩はこれ以上の口を挟まない。
どうせ、稲城家当主としての立場は惚れた腫れたでどうこう出来るものでは無い。
学生時代の淡い思い出で終わらせるのが最良だが、どうなる事やら……斑鳩はそんな事を思いながらまれなの後をついていく。
「あそこよ」
まれな達一行は事件現場に着いた。不可解な事にここまで一体も魔物に出くわさなかった。
さっきはあれほどの数が襲ってきたと言うのに。
まれなはそこに何か人為的な、作為的な思惑が働いている様な不快さを感じた。
「お嬢、下手人はどんなヤツでしたかね」
斑鳩の横に並ぶ男、三奈桐 玲央がまれなに質問する。
斑鳩よりも少し背が低いが、筋肉質でいかにも頑丈そうな身体つきだ。
まれなはその三奈桐を見ながら、こういう人がタンクをやるべきで、玻琉綺は自分と並んで先頭で剣を振るのが似合ってるわ、などと考える。
「そうね、これと言った特徴は無いけど、20代で背が高くて痩せ気味の男ってぐらいかしら?あとは……皮肉っぽい事を言うヤツだったわね」
三奈桐はそうですか、と消え入る様な小さな声で応える。
犠牲者に顔見知りでもいたかの様に落ち込んでいる様に見える。
「どうした三奈桐、大丈夫か」
斑鳩が心配そうに声をかける。
「ああ、はい……まあ大丈夫です。ちょっと昔の知り合いに似てまして、まさかな、と思ってただけです」
「ならいいが、身元は協会の者がくれば確認できるだろう」
まれなの父は討伐ギルドを立ち上げている。
“威薙会”と言うそれ程大きなギルドでは無いが、門下生や会社関係の繋がりで探索者を選んだ者達が所属していて、総勢は30名程だ。
その威薙会の上部組織である“全日本討伐隊連合協力会”と言うものがあり、そこを協会とだけ呼んでいる。
討隊連と略すのが通例であり、会合などではそう呼ぶが、威薙会の面々はみな協会呼びだ。
そこの代表である兵藤院家に隔意があっての事だ。
「協会……か、なあお嬢、斑鳩さん、正直どう思います……協会って」
声を荒げるわけでもなく、無感情に淡々とまるで普通の事の様に言う。
実際威薙会では普通の事だ。協会を良く思っている者などいない。
だがここは霊洞で、今はその協会の手の者を待っている最中だ。どの様にして協会側に話が漏れるか分かったものでは無い。
「おい、滅多な事を言うな」
斑鳩の叱責も当然である。
内心はどうあれ威薙会は協会の下部組織に過ぎない。
そしてそれは故あっての事だ。何も好き好んでその立場に甘んじているわけでは無い。
であれば尚の事言動には気をつけねばならないからだ。
「三奈桐、貴方の言いたい事は分かるつもりよ。でも我慢して、私達だって今に……」
「お嬢!やめろ!」
まれなが失言しそうになる所を斑鳩が制止する。
稲城家は先祖を辿れば天皇の系譜にあたる。景行天皇の息子である大碓命がその祖先だ。
あの倭建命の双子の兄であるとされている。
その後の激動の中で子孫達は散り散りになるが、稲城家は室町時代に再興している。
だがその後の道のりも苦難続きであった。
三奈桐家はその頃からの家臣で、今は家臣などと言うものでは無いが、忠義を尽くしてくれている。
まれなは今の協会が籐家の末裔に乗っ取られているのが我慢ならないのだろうと考えていた。
藤原家は平安の世からこの国を陰から牛耳っているのだ。
天皇家の末裔の一派として忸怩たる思いがあるに違いないと。
もっとも二千年近く前の話を何時迄も……とする向きもあるだろうが、家紋に誇りを感じているのは何も貴族家に限った話ではない。
「違う!違うんだお嬢……」
力無く項垂れていた三奈桐が急に生気を取り戻し、何やら懐から小さい鉄パイプの様な物を取り出す。
それを首に押し当て悲しそうな、申し訳なさそうな顔をまれな達に向ける。
「すまない斑鳩さん、お嬢。俺にはもう無理なんだ」
「おい!やめろ三奈桐、何をする気だ!」
「斑鳩さん……俺たち神薙は、今の探索者って奴のあり様に耐えられないんだ」
そう言うと三奈桐はその鉄パイプの様な物についたスイッチを押す。
(すまなかったな……詩織……俺もそっちにいく)
三奈桐の身体が膨張し、顔から裂け始め、その体の中から一体の大鬼が現れた。
こんばんは焼小麦です。
今回は趣向を変えて第三者視点で、別行動グループの話を書いてみました。
分かりにくかったですかね?
でも書きやすかったので、苦情が出るまではこれをやってみようと思います。
話が進んでいる様で進んでない様な感じですが、頑張って書いていきますので応援よろしくお願いします。
今回も読んで頂きありがとうございます。




