意識しない様にしてたのに
まれなの挑発にも殺人犯の男からは殺意を感じない。
挑発だよな?まさか本気で素直に応じるなんて思ってないよな。
「悪いが相手にしてられん、やる事があるんでな。邪魔者は排除したのでこれで退散させてもらう」
あ、これ転移かなんか使う気だ。
『セトちゃん!』
《鑑定結果を表示します》 《トレースを開始します》
画面系の魔法ならセトちゃんを通じて使える。
おかげで鑑定魔法をまだ覚えてないけど使えるし、鑑定によって解析した魔力の性質をある程度は追跡できる。
あくまでこっちの世界での魔法を覚えてないってだけで、向こうでは使えたんだ。
「何をする気?抵抗は無駄よ!」
「じゃあなお嬢さん、デートならもっと場所を選んでやれ」
「な!?誰が、誰と……」
煽り返されとるやんけ、あ、消えた。
粒子とかじゃなく、僅かな魔力の残滓を残して。
今この人詠唱しなかったよな?おかしい、この世界で魔法は詠唱必須では?
スキルで転移とか詠唱破棄とかがあるのか?それとも……魔道具か。
「まさか!?そんな、転移したと言うの……詠唱もなしに魔法を?はっ、まさか魔道具?でもそんな物……」
まれなも俺と同じ結論に至った様だ。いやそれが正しいのかまだ分かんないけど。
「まれな、取り敢えずこの人達はどうしたらいいんだ?」
俺は死体と化した人達、いや人達だったものと言うべきか?恐らくは探索者パーティーだと思われるそれを眺めながらまれなに問う。
ギルドに報告を入れて放置で構わないのか、それとも現場検証とか目撃証言に立ち会わないといけないのか。
「……そうね、玻琉綺が冷静で助かるわ。一度霊洞を出て報告よ」
まあそうなるよな、どの道一旦出ようと言う話にはなっていたからそれは構わないけど、時間を取られるのはちょっと嫌だな。
探索初日はまれなに弱みを握られて人死にを出したって結果か。
けどあの怪しい殺人犯の情報はセトちゃんが握ってるはずだ。
ちょっと思いついたこともあるし、今日はビジネスホテルかなんかに宿をとって解析結果を調べてみるか。
ここで見てたら、またまれなに何を言われるか分かんないし。
「玻琉綺、貴方はどこかホテルでも泊まってて頂戴」
霊洞から出るなりまれながそう言い出した。何だろう、俺はいなくてもいいって事か?
「玻琉綺はポーターとしてここにいる事になってるわ、流石に高校生のポーターを殺人の検分だのに付き合わせる訳にもいかないわ」
まれなだって高校生じゃん。
「……貴方を高校生扱いとかするのは納得行かないけど、社会的にはそうなっちゃうからね。それに迂闊な事も言いそうだし、フォロー出来る自信がないわ」
言葉も無いな。
「分かったよ、俺も余計な事を言わない自信が無いからな」
「もうじき斑鳩達が来るわ、私の事なら大丈夫だから」
そういやこの近くにヘリ停めて待機してたっけ。
ここ結構山奥で、断崖絶壁の麓にあるからな……ここから街に行くの?歩きで?
「また明日の朝ここで落ち合いましょ」
またここまで来るの?歩きで?
「なあ、ものは相談なんだけど……寝袋貸してくんない?」
元々借りたかった物だ。
自身の魔力を外に逃さず、内側に反射させるって事は寝袋内部に魔力が充満すると言う事。
そうなればアッちゃんやセトちゃんと会話も出来るかもしれない。
「……貴方まさか野宿でもする気?」
「いや、だって……」
逆にここから徒歩で町まで帰れると何故思った。
「はあ、ま、そうね町まで結構あるし……何か玻琉綺ならそのくらい普通にやりそうな気がして」
まれなも、周りを見渡しながら少しだけ申し訳なさそうにしてる。もっと申し訳無く思って欲しい。
できない事は無いけど普通に嫌だ。
「分かったわ、貸してあげる。ヘリに斑鳩達のテントがあるからそれも使っていいわ」
テントか、どこに張るかな……まあヘリの傍とかでもいいか。
「どうせ私達今晩は聴取なんかで帰れないだろうから、適当に寝ちゃってて」
ん?じゃあまれなは寝ないで明日の探索に出る気か?
「そんな顔しないで、五年も霊洞に入ってたら二徹三徹当たり前の事よ」
まれなは本当に頼りになる、さすが先輩探索者。
……もう俺の顔の事はいいや。
全部任せてしまうのも気が引けるけど、実際俺が役に立つ事な無い。
その上、せっかくまれなが黙っててくれるって約束してくれてるのに、自分からバラして台無しにしかねない。
……アイテムボックスがバレた時の事を想像すると震えがくる。
「そうか、じゃあ悪いけど俺はヘリの傍で一晩過ごすとするよ。ごめんな、面倒事を押し付けたみたいで」
「何よ、随分殊勝じゃない。いいのよ別に、私は一応は探索者なんだから」
そうか、探索者って事は要はプロってことだもんな。
俺みたいな素人はお呼びじゃ無いのも当然だ。
そして何故か急にモジモジとし始めるまれな。何だトイレか?俺はとっとと席を外した方が良いのだろうか、でもまだ斑鳩さん達来てないしな。
「あ、あの男の言った事……き、気にしちゃダメだからね」
「……と言うと?」
なんの話だ?
「だから!……その、デートがどう……とか」
ああ、何か言ってたな。
何で思い出させるかな。せっかく頭の片隅に押し込んでたのに。
「それはアレだろ、まれなが大人しくお縄に付けとか言うから単なる意趣返しで言ったんだろ、まあ実際似た様なもんだと思うけどそっちこそ気にすんな」
取り敢えずこう言っとくしかない。
デートなんかした事ないから分かんないけど、男女が二人で出かけるってならそう言う事だろ。
確かにデートって言うほど色気はないけど、あってたまるか。
そもそも俺には好きな子が……。
「あ、貴方ねえ……もういいわ」
よし、追求は諦めてくれた様だ。
俺とて一瞬はドキッとした。まれなを意識したことなど無かったのだから。
だからスルーしてたのに。
まあいい、どっちにしろ俺にそんなロマンスが訪れるとは思っていない。
そう言うのはこちらから訪ねるものだ。
……よく考えたらGWって好きな子を遊びに誘うにはもってこいだったのでは?
でも断られた死にたくなりそう。
「玻琉綺、今別の子の事考えてなかった?」
「……何か不味かったですか」
おっと、つい敬語に。だって何か怒ってそうだし。
「もう、まあ別に私は気にしないけど、普通は女の子といる時に他の子の事を考えるのは失礼なのよ。私は気にしないけど」
そうですか、二回言いましたね。
気にしないなら良いじゃないかとか言ったら怒るんだろうな。
「悪かったよ、配慮に欠けた。今はまれなの事だけ考えるよ」
これで良いんだろ?……いや、なんか良くない気がするぞ。
「玻琉綺……あ、あ、貴方」
凄い顔真っ赤。これは怒ってるの?それとも……
「お嬢、イチャつくのはその辺にしといてくれ」
うお!斑鳩さん……脅かさないで下さい。
力場のない場所じゃ俺の気配察知はポンコツなんですから。
「い、斑鳩!遅いのよ、協会支部には連絡したんでしょうね!さっさと移動するわよ!」
「いや、どこに行こうってんだ?」
「ど、どこって……げ、現場の保全よ!」
それってコッチの仕事か?などと愚痴を言う斑鳩さん達を連れてまれなは行ってしまった。
やれやれ、この話を広げるとヤバそうな雰囲気だったから助かった。
ま、じゃあ俺はヘリんとこまで戻るか。
殺人犯の事もあるし、気持ちを切り替えなきゃな。
と言う事で、ヘリまで戻って来たはいいけどテントってどこ?
「おーい、君が藤堂君だろ?」
三十代ぐらいの小太りのオジサンがこちらに声をかけて来た。
誰か残ってたんだな、そりゃそうか。
「話は聞いてるよ、テントはもうそこの陰に張ってあるから好きに使ってくれて良いよ」
この辺りは森の中にポッカリと開けた場所だ。輸送ヘリを優に停められるくらいには広い。
その開けた場所の外縁部、大きな木の陰に張ってあった。
何故こんなとこ?
「この辺は地面が緩くてペグが刺さんなくてさあ、吊り下げ式のをあそこに張ったってわけさ」
何故俺の疑問はすぐにバレるのか?
まあ便利で良い事だとでも思っておくか。
でもなあ……このテントなあ……。
いつも読んで頂きありがとうございます。
少しずつブックマークなども増えていき、大変ありがたく思ってます。
書く意欲も湧いてきますので、どうぞ変わらぬ応援を今後もよろしくお願いします。




