アイツほんとそういうとこクソザコ
ハルと別れた後私はカナタと歩いてる。
交わす言葉はない、ただジッと前だけを見て歩いてる。
このまま真っ直ぐ30メートルほど先の突き当たりを右に行けばウチで、左に行けばカナタの家だ。
最近カナタから結構なアプローチをかけられているのを感じる。
最初は自意識過剰かな、とも思ったけど。
ハルがいない時を狙ったように声をかけてきたり、ボディタッチも増えたりしてる。
別に気持ち悪いとか思う事はないけど、え、どうしたの? と思う場面が夏休み明けあたりから増えた。
このところは事故の事でそれどころじゃなかったし、私の落ち込み方も尋常じゃなかったので、こうしてるとちょっと気まずい。
極力明るくしているけど、たぶんカナタには無理してるのがバレてると思う。
いくらハルが無事だったとはいえ、やっぱり後悔や罪悪感は拭えないし、行方のわからなかった一ヵ月間は取り戻せない。
たぶん進路の話も期末試験が上手くいかなかったからだと思う。
そういったトラブルで、カナタの気持ちもこのままなんとなくなあなあな感じでうやむやになる事を期待していたけど、やっぱりそれは都合良すぎるかな。
別にカナタの事は好きだし、一緒にいるのも楽しいから正直嬉しい気持ちもあるし、事故の後もそっとしておいてくれた事にも感謝している。
けど恋愛的な事として考えると話が違う。
仲のいい小学校以来の友達という括りから逸脱してしまう事に、ちょっと臆病になっているだけかもしれないけど、今のところはまだ三人で気の置けない関係のままでいたい。
だからハルが霊奧を受けるかもしれないというのは大歓迎、素直に嬉しい。
カナタには悪いと思うけどハルが居なくて二人同じ高校というのは結構心理的負担を感じていた。
ハルといえば、さっきの何?
私の事可愛いとかアイツそんなこと言うの?
足の事も結構コンプレックスなんだけど……ふーんそうかあ、好みなんだ。
いやそうじゃなくて、今まで私の事絶対女としてなんか見てなかったくせに、いや見てないどころか私が女だって知らないんじゃない? って感じるくらいなのに……カナタとだったらそんな話するんだ。
まあ別に悪い気はしないけど……え待って、私もしかしてモテてんの?
いやこまるなー、二人はいい友達だと思うけどー、どっちか選ぶとかー、別にー、他に好きな人がいるわけじゃないけどー……
やめよ……ハルに限ってはそんな事ないか。
アイツってばデリカシークソザコだし、私がいないと思ってテキトーな事言っただけに違いないんだよ、そうに決まってる。
アイツホントそういうとこある。
もおお、ハルが変な事言うからなんかモヤモヤするじゃんよ。
大体アイツは顔がちょっと怖いのよ、優しいけど。
あと悪口とか言うし、フォローはしてくれるけど。
でもってなんか一言多いし、えっと……あとは……そうだ、バレンタインのチョコねだってくるし、四角い部屋を丸く掃くし、なんでも醤油かけて食べるし、口やかましく注意してくるし……いざとなったら、命懸けで助けて、くれる……し。
あー、困ったなあ……ひょっとして私……。
今オレの隣にはセナが歩いている。
手を伸ばせば触れられる程度の距離だけど……遠い。
オレからセナが離れていくのを感じる。
勝手にオレが感じているだけの、ただの思い込みだとはわかってる。
オレがこの気持ちに気づいたのはいつだったろうか。
気がついたら友達に感じる以上の想いを持っていたような気がする。
ここ最近ちょっと露骨にアピールしていた。
ハルは全然気付いてないようだったな、アイツ人の心に関してはクソザコだからな。
でもセナにはちゃんと届いてた。
さすがセナ、中々敏感だぜ。
けど逆にそのせいでセナが微妙にオレと距離を取ろうとしていくのも感じた。
ハルはまったく気付いてない、アイツ繊細な事に関してはクソザコだからな。
ハルがライバルにならないとすればオレにもまだチャンスはある。
事故が起きたのはそんな時だ。
修学旅行というのは絶好のタイミングだと思った。
なんとか気分の上がる最高にロマンチックなロケーションはないものかとタイミングを伺っているうちに帰りの船に乗る事になってしまった。
クラスが違うというのはやりにくいぜ。
ふと甲板に目をやるとセナが自撮りをしようとしているのが目に入った。
“なんか危ねえな” と、そう思ったが邪魔するのもどうかと思い、撮り終わるタイミングで『何撮ってんだ』みたいに声をかけようと思っていた。
しかしハルが空気を読まずセナに注意しながら近づいて行った。
“アイツホントそういうところある”そう思った直後あの事故があった。
いまだに原因もわからなければ、一体何がどうなった事故なのか不明なままの意味分からん事故だったが、とにかくその時ハルは自分の身を顧みずにセナを助けた。
負けた。
そう思った。
オレにあんな真似ができるだろうか? このままハルが戻らなければオレは春に負けたまま、セナも心を取り戻せないままになっていただろう。
でもヤツは帰ってきた。
アレで無傷とか人間じゃねえ。
セナを巡るアレコレはあれど大事な親友だ。
生きていた事がとにかく嬉しい……が、セナは渡さん。
霊奧に誘ったのもセナの警戒を少しでも解くためだ。
幸いというか何というか、ハルからはセナとどうこうという気配が皆無だ。
故に……俺は油断していた。
「セナってば可愛いくなりすぎじゃね」
ちょうど俺の視界にセナが入った瞬間だった。
「急にどうした」
今の話はセナに聞こえていただろうか? 内心の焦りを隠して努めて平静に会話を続ける。
「あの若干太い足首も好みなんだが」
わかる。
じゃねーよ、やーめーろーやー。
何だよ、気付いてないふりして口説いてんのか? あ、ほら、完全にセナにきこえてら。
まあハルに限って絶対口説いてるつもりはないんだろうけど、セナが意識しちゃうかもだろ。
あーもうー、こりゃ致命傷だろ。
自分のことを命懸けで守ってくれた男に可愛いだの好みだの言われたら惚れてまうやろが。
だがオレは諦めん、あんな朴念仁に負けるもんか。
程なく突き当たりに差し掛かる。
俺とセナは一瞬目を合わせ、『じゃあまた明日』と言って別れる。
セナの足取りは心なしか軽やかでオレの足取りは殊の外重かった。




