総代の仕事
それ以降は特に危ない事もなくヴァーチャル探索を終えた。
魔物も出てきたが、大した強さでは無かった。ゴブリンとか出てきた。
魔力ではなくデータなので、ナルの影響は流石にないようだな。
「そろそろ昼休みだ、今日は時間を延長する。13時15分に集合する事」
おお、30分延長とは流石にわかってらっしゃる。
脳に直接投影を行っているのか、指先一つ動かすのに結構意識しないと動かない。
無意識な動きというのが出来ないし、例えば脚気の様な脊髄反射もない。
全ての動きを意識しながら確実に行うと言うのは、それだけでいい訓練になると思うが、その分脳の疲れはえげつない。
「おおもう昼かあ、霊洞のクオリティー高くて興奮したぜえ」
タツのテンションが上がって顔も紅潮している。
なるほど、顔色の変化は状態以上のシグナルにもなるから敢えて演出しているのか、余計な事を……。
「えー、やっとじゃない?なんか甘いもの食べたーい」
さすが女子、言う事がカワイイ。疲れた脳に糖分は必須だしな。
ナルも元々少ない口数がさらに減って、ほぼ無口だ。
それは俺が狙ってたポジションなんだけどなあ、嫌われてる訳じゃないと分かった途端に俺も現金なもんだ。
「んじゃ、みんなで学食行こうぜ」
寮の各部屋にキッチンなど付いてないから弁当を作ってくる奴なんていない。
学食か購買になるのでめちゃくちゃ混む。
ましてや今日は一年の探索科500名が全員腹ペコだ。
昼時間延長はそれも考えての事なんだろう。
「うん、早くお昼食べたいしね」
けどみんな考える事は同じだな。学食は大混雑だった。
でもみんな、マジでトイレどうしてんの?殆ど行ってない気がする……不思議だ。
後に聞いたところ、便意を調整する薬があるそうで、コレは魔法薬でも何でもない普通の医薬品らしいが、探索者には必須らしい。
学院の医務室にあるし、寮にも常備薬として置いてあるらしい。
霊洞にトイレはないし、簡易トイレだって荷物になるし、そもそもトイレどころじゃない状況も多いだろうから、言われてみれば当然なんだけど俺は知らなかったな。
そして午後の訓練は探索の時間など無かった。
勝ち負けの評価は付けないからと言う条件で、俺と二クラス全員との実践形式の戦闘訓練が始まってしまった。
何その百人組み手。
俺にとっては今後の為に慣れておけって事で、みんなにとっては一度は経験しておけって事らしい。
マジで総代いい事ない……訳でも無かった。
学食にVIPルームみたいなのがあって、総代とそのチームメンバーはそこを利用できた。
おかげで大混雑の学食を待たずに利用出来たからチームのみんなは喜んでたけど、俺は何だか申し訳ない気持ちで一杯になった。
コレが総代の力なのか……ふふふ、ふう、セコい。
ともあれ百人組み手だけど、こういうのって実力云々より、体力と精神力だよな。
もちろんその全て、心技体を鍛えるって事だけど、俺別に格闘家になりたい訳じゃないんだよなあ。
当然軽くあしらえはする。
いくら普通の人間に戻れたとは言え、流石に経験があまりに違う。
学生相手に本気でやる訳にはいかない。
だからと言って手を抜くってのは失礼だしエリートの矜持が許さないだろう。
多分ステータスも測定時より上がってる気もするし、みんなは霊洞には入ってないのだから、上がってるはずもない。
この不公平さは数で埋めるつもりのこの百人組み手なんだろうけど、どうしたもんかなあ。
そうだな……武器なしの無手でやればなんとか均衡は取れるか?
でもまあ、無意識の動きが出来ないって制限もあるし、案外俺の方が疲れてギブアップとかもあるかも知れないから、過信し過ぎかも。
それを計る上でもいい機会と捉えて、真面目に取り組むか。ムキにならない程度には……。
思った通り四十人抜きした辺りから、結構脳に負担が掛かってだいぶ疲れてきた。
気疲れ、と言うと意味が変わりそうだが、気力がゴッソリ削られている。
みんな武器持ってるから、当たると痛いのは変わらないので避けるけど、その動きの度にいちいち身体の全ての部位を意識して動かさないといけない。
どれだけ無意識の動きでやってきたのかと思い知らされる。
みんなエリートだけあって普通に強いので、結構危ない場面もあったりしてかなりいい訓練になるのは確かだけど、俺は格闘家になるつもりは無いと何度も……。
「なんだよアレ、化けもんじゃねえか……」
そんな呟きが聞こえてくる。
目の前の相手を合気的な技で投げ落としたところで残りを見ると、あと十人程になっていた。
いくらヴァーチャルと言えども、流石にトドメを刺す様な攻撃をする訳にもいかないので、一応有効打で一本みたいなルールでやっている。
ここまでの所要時間は今丁度一時間が経ったところだった。
「アイツ疲れねえのかよ……」 「素手だし、意味わからん技使うし……」
……ちょっとは疲れてるよ?頭の中の後ろの方とか痒いし。
目の奥の方とかもちょっとズキっとするし……。
残った人の中にはタツ、ヨミ、ナルの他にガミ、サジ、沙河楽君がいる。
うわー、ヨミとかナルとかどうしよう……。
触っちゃまずいよな?痛くするのもヤだな、
「あー、チームメンバーとの対戦は希望があれば免除しよう。それと沙嶋、剣ヶ峰、お前らはダメだ、すでに今日は対戦済みだ」
お、コレで一気に半分くらい減ったな。
でもメンバーは希望制か、タツは対戦済みだしヨミやナルはどうだろう。
「ふう。仕方ないな、どうやらまだ力には開きがある様だし」
「クソ、今度こそ一泡吹かせるチャンスだったのに……納得いかん」
ガミは意外と素直に引いたが、サジは納得していない……俺が疲れた所を狙うんじゃない。
まあ授業だ、納得なんかどうでもいい、先生の指示が全てにおいて優先される。
「俺たちも辞退でいいよな?」
タツが二人に問いかける。
「そうだね、流石に戦いたくないなあ」 「ア、アタシも辞退で」
ヨミもナルも引いてくれた。よかった。
「あ〜、俺も元チームメンバーなんで辞退で〜」
沙河楽君も辞退か、構わないんだけど元メンバーってありなの?
「認めよう、では残りの者との対戦が終わり次第今日の授業は終わりだ」
先生が話してる間に少し回復できた。これは助け舟か?いい先生だ。
「じゃあ俺から行くぜ!」
クラスメイトの桧山 陽介君か、今まで絡みはなかったけどどんな人なんだろう。
彼でうちのクラスは最後だ。
特に何もなく突っ込んできた所を足払い、首に腕を回してその場で一回転して背中から床に叩きつける。そのままだと顔から倒れちゃうからな。
「いっったあああ」
桧山君を秒殺した後は9組の人達だけど、二人を丁寧に畳んだ。
残るは……。
「トリを真打ちが務めるってのは、物語の基本ね」
稲城 まれなさんか……自信ありありだけど彼女は何かやってるのかな。
「華四魔神流稲城派皆伝稲城 まれな!
藤堂 玻琉綺に尋常の勝負を挑む……武器を取りなさい!」
何か凄そうな肩書きを持ち出してきた。
稲城さんは薙刀を持っている。俺も何か得物を持つなら長物がいいだろう。
「承知!その挑戦確と受けよう、いざ参られよ!」
真剣に正式に誠実に堂々とした勝負を挑まれたなら受けて立つのが礼儀であり、年長者の務め……同い年だけど、そこはまあ生きてきた経験が俺の場合はちょっと特殊だし。
武器としてさっき使った棍棒を取り出す。
スキルの使用は禁じられてはいないが、それでは味気ない。
稲城さんの技を受け切って、その上で捩じ伏せる事こそ礼儀だろう。
「さすが、伊達に総代は名乗ってないわね」
名乗ってません。
「貴方の力量が相応しいかは、これまでの勝負を見て納得したわ。それに私がどれだけ迫れるか……試金石とさせてもらうわ」
口上が長い。
「うおおまれなちゃーん!」 「稲城さん負けるなああ!」 「まれなさん頑張ってええ!」
声援が凄いな、人気の高さが窺える。
……俺?さてね。
「ハルー!負けんなあ!」 「藤堂玻琉綺ぃ!負けたらゆるさんぞお!」 「ハルなら絶対勝てるよお!」 「藤堂、俺のライバルとして無様を晒すなよ!」
うわ、俺にも声援が⁉︎うう、みんなありがとう。
ナルも『頑張ってねハル君』と小さい声で声援をくれる……わあ、嬉しい。よし俺頑張る。
稲城さんの実力は確かだった。皆伝と言うのも頷ける。
初手に牽制の払い、そこからの切り上げに切り下ろし。
技の継ぎ目に無駄がなく、このヴァーチャル空間でこの繊細な動きが出来る事からも、これまで鍛錬を欠かさず続けてきたのであろう事が窺える。
けれどもやはり若い、勝負を急ぐきらいがある。
そしてそこが隙になる……敢えて薙刀を棍棒で受け流すと、それを狙ったかの様な動きで手首を使って薙刀を回転させ、脳天からの唐竹割りを繰り出す。
けれどもそれは俺の誘いだ。
受け流せばそうくると思っていた、こちらは棍棒を地面に立て、垂直に降ろされる薙刀の刃の根本付近の柄を受ける。
必殺の勢いのそれを縦に受けられた衝撃は大きく、流石の稲城さんも反動を抑えられずに顔を顰める。
俺は棍棒を蹴り上げ、その喉元に突きを見舞う……寸止めだ。
「……参りました」
顔色を失った稲城さんの潔さによって勝敗は決した。
みなさん、今日も読んで頂きありがとうございます。
今日も無事投稿出来ました。
ブックマークしてくださった本当にありがとうございます。
ご期待に添える様これからも頑張りますので応援よろしくお願いします。




