こう言うのでいいんだよ
日付は変わり今日は火曜日。
そう、俺は普通に休日返上で課題をこなしていた。
しかも通常授業は九時から十五時でそれ以降が放課後となるため、土日は十五時から課題の時間となる。
何でだよ、休みならちゃんと休みたいし、休日登校なら普通に朝から行かせてくれよ。
中途半端が一番だるい……からなのか?気持ちの切り替えも課題のうちなの?
エグい、高一に与える課題にしては重すぎる。
まあそれだけ個人での探索は厳しいものなんだって事か、ソロ探索だってやる事だしな。
それに日曜が入学式だった事を考えてもちょっと普通じゃない。
町の方も普通にスーツ姿の働く人がいたし、ここはブラックだなあ。
などと考えながら教室に入る。
「藤堂君、おはよう!」
「おはよう、鳴瀬さん」
おお、鳴瀬さん今日から登校か、これはめでたい。
「この間はホントにありがとう、なんて言うか……凄いね藤堂君は」
角杯の事は内緒だからここでは言えないよな。
もう身体は大丈夫そうだな、だから登校したんだろうけど。
「そりゃどうも、あ、これ食う?退院祝い」
「え、飴?ありがと」
例の薬を飴玉の包みに包んだ物を用意していた。
それをさりげなく渡す。おもむろに俺も飴玉を口に放り込み、鳴瀬さんに向いて顎をクイっと上げるジェスチャーを取る。
決して成瀬さんに顎クイした訳ではない。そんな勇者じゃないし、教室で朝からそんな事をするのはもはや愚者だ。
俺の意を汲んでくれた鳴瀬さんは、飴玉に偽装した薬をなんの疑いもなく口に入れる。
その信頼が嬉しい。……まあ普通はクラスメイトが飴玉を偽装して渡してくるなんて考えないわな。
ゴメンよ鳴瀬さん信頼を裏切って、でも君のためなんだ。
「今日霊洞探索あるじゃない?藤堂君はロール決めた?」
「俺はタンク職をやるつもり、いい壁になりそうだろ?」
「え!藤堂君タンクやるの?アタシ前衛剣士やりたいの!今日あたしと組んでよ!」
鳴瀬さんとは逆隣の席の女子、詠坂 深優璃さんだ。
え、俺に話しかけてんの?何で?
「あ、ズリい!俺も剣士やりてえ、藤堂組もうぜ」
なにい、今度はちょっと離れた席の男子登川 龍彦だとお!
どうなってる?何故急に話しかける。
俺は無口な嫌われ者のズルい裏切り者だぞ?みんな大丈夫か、誰かに騙されてないか?
『落ち着けハルキ』
『お、おうそうだな、ゴメンよアッちゃん騒がしくして』
「いや、この前の実習の後から俺感じ悪かったなあって、ちょっと思ってさ。勝手に気後れして顔背けたりさ、ゴメンな、藤堂は何も悪くないのに」
「そうね、ゴメンなさい。ステータスとかでちょっと怖くなっちゃって……でもここんとこ藤堂君落ち込んでたし、悪い事したなって」
二人に続いて何人かが俺に謝ってくる。え、俺落ち込んでた様に見えたの?
なんかそれ恥ずかしい。
……怖くなっちゃってか、そうか……俺の顔ってそんな怖いか。
『ステータスとかでって言ってたぞ』
嫌われていると言うのは俺の思い込みだったか、良かった。
じゃあ俺はズルい裏切り者の軽薄ナンパ野郎じゃなかったんだ。
『それはどうであろうか?』
俺は確かに人間だけど人間じゃない、化け物かもしれない。
『それはそう』
でもみんなと一緒にいてもいいんだ!
『あとアッちゃんうるさい』
「じゃあみんな俺のこと嫌ってたわけじゃないんだ」
「けっ、だーれがなんだってえ?オメーみたいなスカしたヤロー嫌いに決まってんだろが」
一番後ろの廊下側の席の牧浦 康太君が顔を歪ませながら俺を睨みつける。
多分俺より怖い顔してる。本物の不良顔だ。
でもこの学院にいるからには、顔と関係なくエリートではあるんだろう。
「テメ、ちょーし乗んなよ、暗いヤツがいるとクラス内がウゼー空気になるから、きーつかってんだけだろが、黙って座っとけや」
なんて酷い事を言うんだ、あまり本当のこと言うと傷つく人だっているんだぞ。
「ああ、悪かったよ。みんなゴメンな、気を使わせて」
クラスに重い沈黙が流れる。やはり俺は調子に乗るべきじゃないな。
でも気を遣ってもらえるレベルにはあるのなら、思っているよりかは嫌われてないって事だな。一応牧浦君の諫言には感謝しておこう。
その微妙な感じのままホームルームに入る。
さて、今日の実習も午後からだけど、そう言えば鳴瀬さんは実習に出るのだろうか?
人工霊洞ならもう大丈夫なんだけど、そうとは告げず偽の飴を渡した訳だから当然鳴瀬さんにはそれが分からない。
「鳴瀬さん、霊洞実習は大丈夫なの?」
ホームルームが終わり、次の授業が始まるまでの準備時間に聞いてみる。
「うーん、一応お医者さんからはしばらく控えた方がいいとは言われたけど……実習終わったらすぐに病院に行くって条件で認めてはもらえたんだ」
そうか、確かに症状が出るまでに時間がかかってたな。
あの鑑定持ちの看護師さんがいる病院だったら、再取込みの症状が出ても迅速に対応できるって事か
「そうなんだ、でもそれだと……」
「うん、また一日二日は入院だね」
ノートを広げて鳴瀬さんに見せる。
「授業の遅れは気にしないでいい、これは前回のノート。あげるから、時間あまり無いけど見ておくといいよ」
俺が大丈夫って言っても何の保証にもならない、今回は病院に行って様子見入院して、もう大丈夫な事を確認してもらわないと。
通常霊洞に入るのは早くても二学期になってからだから、夏休みの間には何とかしないとな。
「え、そんな取っておいてくれたの?ありがとう」
鳴瀬さんの感謝が心地いい。
何としても病気、と言うよりも体質だな、治してあげたい。
「藤堂 玻琉綺!貴様組む相手はいるのか」
実習が始まる前の昼休みにサジが俺にそんな事を聞いてきた。
心配してくれての事だろうか、それともボッチだと思ってからかいに来たのか。
「ああ、両隣の鳴瀬さんと詠坂さん、それと登川君と組む事になったよ」
「ぐ、む、そ、そうか……ならばいい、ふん!精々足を引っ張らない事だな」
「あれでも心配してるつもりなんだよなあ、まあ許してやって〜」
沙河楽君がフォローしてくる。
そうか心配してくれてる方だったか……アレでか?もっとこう、分かりやすく……。
「藤堂、勝負だ!今日は負けないぞ」
ガミよぉ、レプリカ宝珠とって帰ってくるだけだぞ、そんな気張んなよ。
「そうか、まあほどほどにな」
何でみんな今日突然話しかけてきたの?今まで顔も合わそうとしなかったのに。
俺の無口キャラが崩壊してんじゃん。
『それはアレだな、あの娘が戻ってきてハルキの空気が和らいだせいだろう』
『え、そんなに俺張り詰めてた?落ち込んでるとかも言われたけど、自覚なかったな……アッちゃん今日は随分喋るね』
いつもは、学校にいる時はあんま話しかけてこないのに。
『べ、別に他の者と話してるのが悔しいとかでは無いぞ断じて、お前が突っ込み待ちみたいな事を言うからだ』
言ってないわ。
今回の実習は前回よりも霊洞の探索範囲を大きくして行われた。
霊洞そのものは変わらない、ただ宝珠の取得場所が遠くになったと言うだけだ。
そして人工霊洞へ。
「こっちは引き受けた!ヨミ、タツそっちを片付けろ!」
「まっかせろお!」 「オッケー!」
二人は大型のマグロ……マグロ!?……に手脚を生やした半魚人に斬りかかる。
俺は空飛ぶカツオ三匹を引き受けてる……カツオかあ、そこはせめてトビウオだろ。
「鳴瀬さんのお昼って魚?」
「え、何急に……そうだけど」
そうなのか、やっぱ鳴瀬さんの思考と言うか嗜好が影響してるんだな。
これとんでもない事じゃないか?下手したら出てくる魔物を自分で決められるって事だよな。
魔物って何の影響で種類が決まるんだろうか。
そんな鳴瀬さんは魔法師だ。
何と入院中の自習だけで一つ魔法を覚えたみたいだ。
さすがに病室で実際に発動する訳にはいかないが、発動の感覚を掴んでぶっつけでさっき撃ってた。雷撃だ。
なんでも、周りへの被害が一番少なくて、一番狙いをつけやすそうだったから、との事。
天才だな、さすが漏れるほどの魔力持ちだ。
二人でトドメを刺し損ねたマグロ魚人に鳴瀬さんがトドメの雷撃。
ヨミとタツも時間差で斬り掛かるなど、コンビネーションも取れてる。
いいチームワーク。俺のタンクも今日に備えてヘイト魔法のプロボと言うものを必死に覚えた。最下級の効果しか無いけど効いてるしいいだろう。
何事も段階を踏んで覚えてくのが正統と言うものだ。
セトちゃんありがとう。
さすが鳴瀬さん、魔物の出現率が高い。みんな疲れてきたとこにボス登場。
「うお、これボスか……いくら幻術ってわかってても強そうだな」
ボスはサメの魚人だ。確かに凶悪な雰囲気を出している。
「ヒェ!」 「きゃっ」
女子達は小さく悲鳴をあげるが、すぐに持ち直す。
みんなメンタル強えな。元の世界で考えると怖くて動けなくなりそうなモンだけど、今はこれがスタンダードか。
「なんだこのクソ雑魚は、ちっとこっち来いやこの◯◯野郎!」
的な事を魔法言語で言う、いや唱える。
「プロボ!」
さすが低レベル魔法、挑発文句がとても低レベルだ。
でもこのボスには効いたようで、俺に向かってシャアアアとか言いながら突進してくる。手には三叉の矛みたいな武器。
今回俺はタンクなので備品の皮の部分鎧と木の盾、ショートソードを装備している。
剣や盾でその三叉の矛をいなしながら剣士の二人が攻撃位置に回り込める様立ち回る。
よし攻撃体制ができたな。
それを見計らって矛の攻撃を敢えて盾に受け、刃を食い込ませ動きを止める。
「今だ!」
俺が声を発する前に二人は二方向からサメに斬り掛かる。
シャギャアア‼︎
サメが悲鳴みたいなのをあげるがまだ生きてる。
そして鳴瀬さんが“ピヨピヨ、ペペロンチーノ”みたいな魔導呪言語の呪文を唱える。
『フィヨ・フィーオン・フェデオン・ディオーン』だ。とアッちゃんがおしえてくれる。
いや分からん、人間の発音とは思えない。
俺のヘイト魔法は何とか言えそうなのを選んだ。より高位の魔法はもっと発声しづらい。
「雷撃!」
初級とは思えない威力。何度か撃って慣れたのか今日一のクリティカルだ。
サメ魚人もあっという間に粒子になる。
「うおお!スッゲーな鳴瀬さん、何だ今の攻撃!めっちゃ強え」
「鳴瀬さんも凄かったけど、やっぱ藤堂君ヤバいわ。マジやりやすかった」
「おう、それな!タンク完璧じゃん。ヘイト管理エグっ」
「藤堂君凄い」
ヨミ、タツ、鳴瀬さんからの称賛。素直に嬉しい。
これだよ、こう言うのがやりたかったんだよ。
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