ベッドの上の鳴瀬さん
応接室に入ると中には見た事のある大人がいた。
「お久しぶりです藤堂君」
加納崎さんだ。この学院に入学出来た恩人と言ってもいい。
一体何の用事だろう?高校生から各種ギルドに所属出来るらしい。
探索者ギルド、魔導ギルド、素材系ギルドなどがあって、何をやっているのか詳しくは知らない。
そもそも公益社団法人の様なものか第三セクター的なものなのかも理解していないが、霊洞はその資源への依存性から社会インフラみたいなものだし、単なる民間企業という事はないんだろう。そんな所のお偉いさんが入学したばかりの俺に勧誘に来ると言うのも考えにくい。
「こちらこそ。すいません、そう言えばまだお礼も言ってませんでした。学院への推挙ありがとうございました」
「いやいや、この学院を気に入ってくれた様で何よりです。……まあ挨拶はこの辺にしてどうぞお座り下さい」
勧められるままソファに腰を下ろす。
マンツーマンじゃ無口でいくのは無理があるな、生粋の無口キャラはこんな時どうするんだろう。
ホントに何も喋らないっての感じ悪いし、はもはや社会不適合者じゃない?
「では、ご用件を伺っても?」
感じ悪い奴だと思われない様に喋らない事にしたんだから、ここはこのまま普通に話すとしよう。相手は大人だし多少の粗相は見逃してくれると期待しよう。
「そうですね、では早速。藤堂君のクラスに鳴瀬 才華と言う子がいるだろう」
「はい、隣の席です」
鳴瀬さん絡みの話?彼女が休んでる事と関係があるのか。
加納崎さんと鳴瀬さんになんの関係が……。
「彼女は私の姪でね、正確にはもうちょっと遠いがその様な関係だ。その才華だけど昨日から近くの総合病院に入院しているんだ」
なに、鳴瀬さんが……加納崎さんと血縁なのも驚いたが、やはり何か重い病気なのだろうか。
昨日の朝の段階ではそんな素振りはなかった気がするけど、俺の目はポンコツだからな、人の機微などわからないのも当然か……この無能め。
「それは……大丈夫なんですか?」
こんな言葉しか出てこない。
「ちょっと言葉では言いにくいんだが……お願いだ藤堂君!」
急に語気を強める加納崎さん。
「どうか彼女を助けて欲しい」
「分かりました」
ノータイム二つ返事で反射的に応えてしまった。
鳴瀬さん個人が気になるし好意もある、何よりこれから三年間は付き合っていく学校の仲間だ。
それに加納崎さんには恩もあれば義理もある。
俺の癖というか習性と言うか、頼られれば応えたいし、願われれば断り辛い。
単にお人好しと言うよりも気が小さいだけとも思えるが。
「そ、そうか、助かる……説明をさせてもらうと、才華は特に難病という訳ではない。ただ普通の病気と違い魔力が大きく関わっている。その為近く、一応はここの敷地内なのだが、その病院で治療を受けている」
どうも詳しく聞くと、魔力が関係している為学院外では今まで何の症状も出なかったが、この間の人工霊洞での実習から自覚症状が出たらしい。
それが昨日の昼食後だった様で、時差があった事からも今すぐ命に関わる程では無いはずだとの事。
ともかく一度病院まで来て欲しいとのこと。
どうやら話の流れ的に、俺が駅前霊洞事故の時に怪我人を治した魔道具に期待している風だ。
《癒回な角杯 使用効果:対象者に簡易治癒 回復度30% 角杯に溜まっている瘉水を外傷は患部にかけ、毒物などや病は内服で使用》
セトちゃんが必要な情報を示してくれる。
最近セトちゃんとの交流が増えたせいか、脳内表示が可能になった。
アッちゃんの補助なんかもあるのかも知れないが、仲良くなった感があって嬉しい。俺の友達脳内ばっか。
いや、じ、地元には友達いるし。
「取り敢えず一緒に病院まで着て欲しい……今からでも大丈夫ですか?」
加納崎さんもギルド職員のしがらみから、業務上知り得た情報を個人利用する事は問題になる様で、俺の魔道具に頼るとは明言できない様だ。社会人て大変だなあ。
「問題ありません、すぐに行きましょう」
鳴瀬さんは俺にとって大事な話し(挨拶)相手だ。
苦しんでいる様子は加納崎さんからは感じ取れなかったが、俺の感性はクソザコだから信用できない。
急ぐに越した事はないだろう。
加納崎運転の車に揺られる事約十五分。鳴瀬さんの待つ病院に着く。
当然、車内は無言で別に鳴瀬さんは待ってるわけではない。
うっかり安請け合いしたけど、大丈夫かな?あの角杯で治せる類の病気なんだろうか。
今の世界なら病院だって回復魔法とか使える人も居るだろうし、魔力が関係した事なら現代の魔法技術なら原因も治療法も確立していると思うんだけど、それでも手に負えないという事なのだったら果たして……。
加納崎さんも俺みたいなガキにそこまで過度な期待を持ってはいないと思うけど、それでもガッカリさせちゃうのは申し訳ない。
「この部屋です」
受付を通し、看護師の付き添いのもと病室の前まできた。
この先に鳴瀬さんがいるのか、ちょっと緊張してきたな。考えてみたら学校以外で女子に会う事なんか今まで無かった。
セナとか妹たちは別口だ、やっと元は男だったと言う先入観が薄れたとは言え、無くなった訳じゃないし、異性と意識も出来ない。
「あれ、何で?どうして藤堂君がここに?」
なんか割と元気そうな鳴瀬さんがそこにいた。
確かに加納崎さんもそこまで深刻そうな感じじゃ無かったけど、それでも俺なんかにお願いしにわざわざ学院まで訪ねて来たのだから、それなりに身構えていたんだけど。
「わ、こんな格好で恥ずかしい、もうユウおじさん何で!」
嫌がってる?恥ずかしがってる?それとも嫌がってる?
“何でそんなナンパ野郎連れて来た!こんなのに寝起き姿みられた、最悪”
まで意訳した。泣くよ?
いや違う、鳴瀬さんはそんな事言わない。もっと優しい。
どうでもいいけど「わ」が可愛かった。好き。
「彼に才華の事を診てもらおうと思ってね、お前も早く学院に復帰したいだろう」
ん?何だろう、何か期待が大きいんじゃないかって感じる言葉だな。
病院の医者を差し置いて“診てもらおう”とは言い過ぎではないか。
ほら、鳴瀬さんも“え?”みたいな顔してるし。可愛い。
普通に考えて病院で医者を通さずに診察と言うか治療と言うか部外者がなんかしていいとは思えないんですけど?
「あの、差し出口かも知れないですけど……俺なんかしても大丈夫なんですか?」
普通に疑問が口から出るが、なんかいやらしい感じの言葉だな。だから嫌われるのか、やっぱ喋っちゃダメなんだな。
「大丈夫、話は通してあるしこの看護師さんが付き添っていれば問題ない」
なにこの看護師さん、そんな凄い人なのか。まだお若く美人なのに。
まあ見かける人全部美形だけど。
ならば、とおもむろに『癒回な角杯』と声を出す……普通に恥ずかしい。
まあ鳴瀬さんも恥ずかしがってたからおあいこだ。
「これを……」
一応まず看護師に見せる……毒じゃないよ。
看護師は角杯に溜まった液体をじっと見る。あ、これ鑑定か。
魔力の動きが鑑定眼の時のものに似てる。
今俺はまだ使えないけど、そりゃあるよな鑑定スキル。
「大丈夫です、飲ませても問題ないでしょう」
ちょっと引き攣り気味にそう言う看護師さん。
問題ないならその表情は何ですか?心配になってくるじゃん。
でもそう言うので、そのまま鳴瀬さんに角杯を差し出す。
「え、う、うーん?」
不思議そうに俺や加納崎さんを見渡す鳴瀬さん。
無理もない、急に押しかけて来た得体の知れない隣の席ってだけの同級生が、病に苦しむ(?)自分に対して謎のツノに入った不気味な液体を飲めと押し付けて、それを看護師さんも認めている。
鳴瀬さんじゃ無かったらキレてるね。
「良く分からないかもしれないけど飲んでみなさい、ひょっとしたら何か効果があるかも知れない」
「そ、そうなの?じゃあ……飲んでみる」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
病室のベッドは退屈だった。
昨日の昼食を食べてすぐに足が動かなくなって、そのままこの病院に入院する事になった。
お医者さんの話では、アタシの魔力に霊洞の力場の魔力が過反応を起こして混ざり合って、それを体内に取り込んだ結果下半身不随の様な状態になったとの事だった。
自身の身体から漏れた魔力は普通は霧散するものだけど、何故かアタシの魔力はそうならず霊洞内の魔力と混ざり合い性質が変わってしまい、再取込みされてアタシに悪影響を与えているらしい。
再取込み自体が珍しいらしく、魔力漏洩が起きた際にそれを取り戻そうとする作用で、体表上のものしか再取込みは出来ない。ただ普通は魔力同士が混ざり合う事なんてないし、あったとしても再取込み時に自身の魔力として身体が認識しないので体内に入り込む事など無い筈だ。……と言われてもなあ。
一応は命に別状も無いし、体内で魔力が馴染んでくれば足も動く様にはなるらしいけど、いつになるかはお医者さんでも分からないみたいだ。
入学したばっかりなのに困ったなあ。
藤堂君にも謝らないといけないのにな。
初日の散策を断って、探索後のチーム作りも拒絶しちゃった。
散策の方は仕方なかったにしてもチームの方は悪い事したかなあ、でもあんな実力見せられたらとてもじゃ無いけど一緒のチームなんて組めないよ。
先生は幻術って言ってたけど、とてもそうは思えなかったしクラスで見破ったの藤堂君ぐらいだよ。
しかもその上で倒しちゃってるし……みんなで力を合わせて一定のダメージを与えると消えるって事は、それ以上の力でゴリ押ししたって事じゃない?
剣ヶ峰君の……アレは従魔かにかなのかな?にもビックリしたけど、掻き消すほどの衝撃だった。
あんなに力の差を見せつけられたら誰もチームなんて組めないし、何なら怖がっちゃうまであるよ。
直接見てなくても最後のアレはみんな違う種類の魔物だったみたいだけど、全員コテンパンにやられちゃったみたいだし。
幻術だったからか、怪我もしてなかったみたいだけど、痛みは感じてたみたい。
そんなのを一人で倒すとか……。
でもアタシは藤堂君の事そんなに怖くはないんだよね、
確かに顔はちょっと怖いけど、別に怒ってる訳でもないしそう言う顔ってだけ。
なんか喋りやすいのよねえ、不思議と。
みんなと話す時は大体どもったり、小声になったり、そもそも声が出なかったりでまともにあんまり話せないんだけど……なんか藤堂君とは普通に話せる。
それなのに傷つけちゃったかな。
昨日は挨拶以外で誰とも喋って無かった。
怒ってる訳でもなさそうだったけど、落ち込んでいる様には見えた。
やっぱりちゃんと謝りたいな。
なーんてベッドでそんなこと考えてたら、本人登場。
え、何で?ゆうおじさんが呼んだ、何で?
さらに藤堂君が何か不思議な飲み物……飲み薬?を突きつけて来た。
うー、わかったよう、飲めばいいんでしょ飲めば。
一話で書きたいとこまで行けなかったのでこの辺で切っときます。
思ったより文字数使ってしまいましたが、あまり考えず書きたいように書こうと思います。
今回も読んで頂きありがとうございます。
読んでくださっているみなさんに喜んでもらえるものを書ける様頑張りますので
応援よろしくお願いします。




