これは再会といえるのか
俺が目を覚ました所はベッドだった
……なんでベッドで寝てんだ? 俺は確かボートで眠っちまったと思ったんだけどな……まあ超速理解という事で、多分眠っている間に捜索隊とかに発見されて生存確認、緊急搬送といったことでもあったんだろう……いやラッキー過ぎないか?
これはアレか、餞別に貰ったタブレットの御利益か。
御守りみたいなモノなのかもしれないな。
……でけえお守りだ。
手でも合わせておこう。
ベッドに座りしばらくボーッとしていると部屋のドアが開いて白衣の女性が現れた。
やはりここは病院だろう……っていうか人だ、人間がいる。
「えっ!もう起きて⁉︎……ってダメです、寝ていなさい!」
女性看護師であろう人間に怒られてしまい素直に横になる。
「今先生を呼んできます、ジッとしてるのよ」
そう言って看護師さんは部屋を出ていく……おお、どうやら俺はちゃんと帰ってこれた様だ。
その後はお医者さんにいろんな質問をされ、お役所や警察っぽい人達に聴取されたりしたが、無難にこなせたと思う。
異世界行ってましたとは言わない、当たり前だ。
いろんな質問に受け答えをしながら、ちゃんと記憶が戻っている事も確認できた。
一応自分の状況で分かった事は、未明にイカ釣り漁船に発見され通報を受けた海上保安庁に保護されてこの病院に搬送されたのが今朝の事で今はもう夕方だ。
この時期の海に一ヶ月もの間漂流しておいて無傷な上に栄養状態も異常なし、脳波も正常だそうだ。
驚かれたけどしょうがない、“頑丈な身体で良かったです”で押し通した。
それから、もうじき家族が来るらしい。
父さん母さん、弟達。
なんか照れ臭い様なくすぐったい様な……顔を見たら笑っちゃいそうだ。
「なんだかオラドキドキしてきたぞ」
と、意味もなく独り言でおどけてみたり、ソワソワフワフワと落ち着かない。
待つ事しばし、その時はやってきた。
「ハル君!」
「兄ちゃん!」
「兄貴ィ!」
「兄者っ!」
……うん……聞き覚えのない声で聞き慣れない呼び方をする見覚えのない女の子達。
……うん?
母さんは分かる……分かるがハル君呼びが分からない。
で? この女の子達は?…… 知らない子達ですねえ……。
「……心配かけてごめん、母さん」
「良かった……ホントに……またハル君の顔が見れるなんて……うう」
「うわああ兄ちゃ〜ん」
「絶ってええ生きてると思ったぜ!」
「兄者が無事で……ホントに……う、嬉しく……うわああん」
いや待ってくれよ、このさいハル君はどうでもいい。
俺に弟はいるけど妹なんていないぞ? やべえ、なんだコレ……どうするのが正解だ?
『誰だお前ら』 コレは言ってはいけない気がする。
『どちら様でしょう』 同じ意味だし今さら記憶喪失の振りは無理がある。
『俺に妹っていなくね?』 『お前ら女だったの?』 『弟はどこ行った!』……。
いやなにコレ……どれもヤバい匂いがする。
「お前らにも心配かけて悪かったな」
こう言う以外に言葉は無かった。
「パパは仕事場から直接車で向かってるみたいだけど、渋滞で遅くなるみたい」
パパって言った。
「お父さんってば間が悪いよねえ」
「親父はホントそういうとこある」
「父上はどうしょうもないね」
お前らホントに兄弟……姉妹か?バラバラすぎんだろ。
ぬおお、コレまさか世界への影響ってヤツか? 予想外が過ぎる。
なんで弟が全員妹になってんだよ。
母さんが父さんになってないだけマシと思うべきなのか? ランダムなのか?友だちはどうなってるのかすごい不安。
「兄貴なんだか静かじゃね?」
「……疲れてるんだよ、いろいろ衝撃でな」
「まあハル君、大丈夫? 無理しないでね……」
「いやまあ体は大丈夫なんだけどね……はは」
「でも兄ちゃんの顔が見れて安心した」
「アタシもそう、兄者はゆっくり休んでて」
自分の事はアタシって言うんだ。
なんだよお前のキャラ、お前の人生に何があったんだよ。
「まあミツにもキョウにもココにも心配させちまったからな、このくらいは無理でもねえよ」
おや?なんか今スラッと名前が出てきたぞ?
なにコレこわい。
「まあ父さんが来るまで待合所でなんか飲んで待ってれば?」
「そうね、ハル君の無事な姿も見れたしなんだか喉がカラカラだわ」
「安心して喉が渇くとか、そゆことあるう?」
「まっ、確かにガッコ出てからなんも飲んでねえしな」
「アタシもキョウちゃんと一緒、なんも飲んでない」
キョウちゃんはキョウちゃんと呼ぶのか。
病室を出ていく四人を見送ってから俺も頭の中を整理する。
瑆玖……俺のニコ下で中一。 璟珂……俺の四つ下で小五。 瑚琥那……俺の七つ下で小ニ……いやここちゃんおかしくない? 小二で兄者、父上ってなんの影響だよ。
あと全体的に読みにくい、とくに瑆玖。 ホントにみつきって読むの?
しかしまあ……弟達にはもう会えないのだろうか。
…………けど面影は……ある様な気もする、か? 名前もヌルッと出てきたし……名前か……俺の弟名前なんだっけ? くそう、モヤる。
けれどもこういった事も覚悟の上で戻ってきたはずだ。
性別は変われども大事な……妹達だ。
でも母さん、ハル君呼びはやめて欲しいなあ。
その後父さんも合流し、晴れて一家が無事に揃った。
俺の生存を泣いて喜んでくれた父さんは俺の知ってる父さんそのままだったのは今日一番の朗報だった。
俺が退院したのはそれから三日後だった。
期末試験始まってんな……高校ヤバいどころか卒業も危ういのでは?
「ねえ、ホントにもう学校に行くの? ママ心配だわ……もう何日か休んでてもいいのに」
「……学校のみんなにも早いとこ元気な姿を見せたいし、別に怪我してるわけでもないからね」
「でも……昨日退院したばかりなのに……」
俺が休むと妹達も看護と称して学校休みそうな勢いだったし、まだ彼女らには慣れない。
大体さして広くもない部屋で女の子三人がワーワー言ってるとやかましい、声が高いしデカい……姦しいとはよく言ったもんだ。
ちなみにウチは3LDKで俺とココ、ミツとキョウ、父母という部屋分けだが昨日はリビングに来客用布団を敷いて寝た。
一人で落ち着いて休んでくれという配慮らしいが、結局みんな夜遅くまで俺の周りから離れなかった。
心配してくれるのはありがたいから悪いとは思うが、学校には避難しに行く様な気分になる。
しかしこうなっては学校も安息地足り得なさそうな気がするな。
性別の変更というのはもう覚悟がついた。
けれども何やら不穏なワードがこれまでに目についた。
例えばリビングに置かれていた雑誌。
それには“ダンジョンマガジン”なる文字が書かれていた。
まあそれだけで考えるなら俺の知らないマンガ雑誌が刊行されているだけとも考えられるが、表紙には鎧姿の女騎士のような人物。
実写である、絵ではない。
もちろんグラビアアイドルを表紙にするマンガ雑誌もあるが、【一線級で活躍する女性冒険者特集】 なるアオリ文がつけられていた。
……どうにも中身を確認するのが躊躇われその雑誌の中身は見ていない。
また、今朝のテレビのニュースで『行方不明男子中学生生徒奇跡の生還』というニュースが流れていたのはともかく、その後で『昨日の全国各地のダンジョンでの死者は四名、重症者は二十二名』……
などと不穏当な言葉が聞こえてきた。
余談だが、取材の申し入れなんかも結構あったそうだが、未成年である事などを勘案して、俺の個人情報などは警察その他各所でストップしてくれている様だ。
ともあれ、何かの勘違いや聞き間違い、見間違いの類だと思いたい。
覚悟を決めての帰還ではあったがせめて許容できる範囲での影響であって欲しい。
すでに許容範囲を超えてる気もするけど、これ以上はない事を祈る。
徒歩十五分、微妙に遠い学校にたどり着き正門前に立つ。
守衛がいる様な立派な学校でもなくただの市立中学だ。
周りに他の生徒の姿はない。
入院明けでもある事、おまけに母さんとの押し問答もあって重役登校となったからだ。
なーんか足が重いなあ。
別に悪い事したわけじゃないけど敷居が高く感じる。
……ビビっているのか? いや別にビビってねーし。
そうだ、この俺が何を尻込みする必要がある!
堂々とみんなに元気な姿を見せてやればいい。
……ヨシ、行くか。
校舎に入るも人影はない。
当然だ。 今は三時間目の授業中だ。
俺のクラス三年五組の教室では教師の声が響くのみ。
なんかタイミング間違えたかな?
授業中の教室のドアを開けるのは勇気がいるなあ……でも授業終わるまでここで待つのも所在ない。
大丈夫だ、俺、勇気凛々。
……いざ……。
《ガラッ》
ドアを引いた俺に集まる注目
「おはようございます、遅くなりました」
軽く頭を下げ、すぐに身を起こす。
無言でこちらを見ているみんなの中にカナタの姿を見つけホッとしたのも一瞬。
「おおおお!藤堂じゃん、マジで生きてた!」
その声を皮切りに他のみんなも声をあげる。
「うっそ!? もう学校これんの?」
「すっげ、マジでホンモンのハルじゃん!」
「ええ!? ありえないぐらい元気そうなんだけど⁉︎」
一斉に投げかけられる歓声。
その声を聞いてか他の教室のドアが開き何人もの生徒がまろび出てくる。
その中の一人の女子が俺に駆け寄ってくる。
……ウソだろ、まさか……。
「ハルゥゥゥ‼︎」
俺に飛び込んで抱きついてくるこの女子は……まさか。
「……せ……な?」
「なんで疑問形なのよっ!」
ゼロ距離で腹パンをきめてくる。
……いややっぱそうなのかよ。
ええ〜、そっか〜、セナ女になっちゃったのか〜……。
次の話までは書いてあるので今晩か明日には更新します




