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9話 和解

エルザリエットの言う仮説について、当然気になったフリオはその内容を尋ねる。


「その仮説って…いったいどういうことなんだ…?」

「ブラックフォールの奈落に落ちたものは、"何処かに転移させられているんじゃないか"と思ってね。あの大穴は、"大きな次元的力場なんじゃないか"という仮説よ。」

「その…次元的力場ってのは…?」

エルザリエットが、ブラックフォールの中央にある奈落は、実は大きな次元的力場なのではないかという仮説をフリオに話すと、フリオから次元的力場について問われる。


「支給されてる帰還用の道具で説明するのが丁度良さそうね。あの道具は、発動に必要な分の魔力が注がれると、小さな次元的力場を生成して、予め定められている地点、つまり、リンザスの前線拠点に周囲のヒトを転移させるように調整されてる。この時、次元的力場こそが、現在地点と目標地点を直接繋ぐように作用しているのよ。」

「じゃあ、転移魔法とかも次元的力場を発生させてるってことか…?」

「そう。まぁ、一部例外もあるけどね。」

エルザリエットが、各部隊に支給されている帰還用の道具について、その作用機序を軽く説明することで、フリオは次元的力場について簡単にだが理解することができた。


「話を戻すけど、私の仮説はまだ多くの謎が残るわ。まず、あんな大きな力場を発生させるほどの魔力を何が齎したのか。それは今も維持されているのか。されているならばどのように維持されているのか。そして、転移地点はいったい何処なのか。これらを説明できる根拠を、今私は持ち合わせてない。だから仮説というわけね。」

エルザリエットは、自身の仮説を立証するには、まだまだ根拠が足りていないと話す。


「一応、私も可能性として考えられるものについて考察はしてるけど、現段階ではどれも確信的なところはないわ。ダンジョンの調査を進めていく中で、何か見つかってくれれば良いんだけど…。」

「何か手がかりになりそうなものがあるなら、オレにも言っといてくれよな。そしたら、オレも探しておくからさ。」

「ありがとう、フリオ。探してほしいものがあったら、その時はお願いするわね。」

エルザリエットが、調査の中で手がかりが見つかることを希望していると、フリオは助力を申し出た。




そこへ、ニコラスが歩み寄って来る。


「エルザリエット…少しいいか…?」

「ええ、平気よ。」

ニコラスは、遠慮がちにエルザリエットに声をかけると、エルザリエットは平然と受け入れてくれる。


「あの時は悪かった…。俺は意地になっていたんだ…。本当は、お前の言っていることは理解していた…。」

「わかってるわ。それを認めたら、許したくない過去の自分を許すことになると思っていたんでしょう?それに、私も売り言葉に買い言葉だった。ごめんなさい、ニコラス。」

「…!お前も、ニニカも、なんでもお見通しなんだな…。」

「まさか、ちょうどフリオとわからないことだらけねって話してたばかりよ。」

ニコラスが、エルザリエットと口論になった時は自分が意地になっていたと謝罪すると、エルザリエットは自身にも非があったと謝罪で返した。


その後、フリオが緊張した様子でニコラスに話しかける。


「あのさ…兄貴…オレもちょっといいかな…?」

「ああ、平気だ。」

フリオに声をかけられたニコラスは、これを冷静に受け入れる。


「その…ごめん!オレ…もうあんな冗談は言わない…だから許してくれ!」

「…もういい。ただ、今後はもっと笑える冗談にしろよ。」

「…兄貴…!」

フリオにもう軽率な冗談は言わないと謝罪され、ニコラスは、笑える冗談なら言ってもいいと返した。


「なぁ、良い感じじゃねえか?アンドリュー。」

「そうだな。まぁ、俺はとっくに信じていた。」

「ははっ、本当かよ?」

「本当だ。半分はな。」

ニニカとアンドリューは、部隊の雰囲気が良い方向に向かっている実感を、冗談を交えながらお互いに確認し合う。


「ニコラスは、部隊のための提案には素直に応じてくれていたからな。」

「確かに、そういやそうだな。」

「まぁ、エルザリエットと口論になった時は、流石にもう無理かと思ったが。」

アンドリューは、信じていた根拠として、ニコラスが部隊行動には素直に応じてくれていたことを挙げるが、エルザリエットと口論になった時は厳しいと思っていたと話す。


「あとは、君がフリオに激怒した時か。あの時も終わりかと思ったよ。」

「はは…それについてはごめん。」

「だが、あれがあったから今があるのも事実だな。君のおかげだ、ニニカ。」

「…っ!な…なんだよ急に…ったく…。」

ニニカは、フリオに対して激昂した時のことをアンドリューに言及されて謝るが、直後に礼も言われて照れる。


「今心配事があるとすれば、クローディアだな。あたいが見た感じ、あいつも過去に何か抱えてる気がする。皆そうかもしれないが、あいつは気持ちの整理がついてなさそうだ。あんたも気にかけてやってくれ。」

「君がそう言うなら俺も信じよう。俺も気にかけておく。」

ゾンビとして動いていたリンザスの墓地の遺体に、順番に祈りを捧げているクローディアの方を見ながら、アンドリューとニニカは、クローディアを気にかけておいた方がいいかもしれないと認識を共有した。


祈りを終えたクローディアにニコラスが歩み寄ると、それに気付いたクローディアは、ゆっくりと立ち上がって今度は驚くこともなく口を開く。


「ニコラスさん、どうされましたか?」

「クローディア、強く当たってすまなかった…。」

「大丈夫です。わたくしも、ニコラスさんのご指摘は仰る通りだと思っています。」

ニコラスに謝罪されたクローディアは、自身もニコラスの指摘は正当だったと思っていると返す。


「クラリスさんのご病気が治ること、わたくしも祈っています。もちろん、ニコラスさんも。」

「クラリスの分も礼を言う、ありがとう。」

続けて、クローディアは微笑みながらクラリスとニコラスの結晶性魔堰症が治ることを望んでいると伝えた。


「よし、皆、そろそろ調査を再開しよう。何も問題はないか?」

アンドリューが、折を見て仲間たちに呼びかける。




結束が生まれた東隊の一行は、ダンジョンの調査を再開するのだった。

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