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6話 激昂

フリオは、部屋に入ってきた東隊の一行に気付くと驚きの表情を浮かべて固まる。


「フリオさん!ご無事でよかった…。」

クローディアは、駆け寄ってフリオの手を両手で優しく包み込むように握りながら、純粋に無事を喜んでいる。


しかし、他の面々がそうではないことはフリオもわかっていた。


「あんた、急にいなくなりやがって!どういうつもりだよ!?」

「いや……ごめん…。」

突然いなくなったことに憤るニニカに対し、今のフリオは軽い笑顔を作る余裕もなくただ謝る。


「ふむ、特に怪我もなさそうで本当によかった。だが、それとこれとは別問題なのは、わかってくれるな?」

「…ああ、わかってるよ…。」

アンドリューは、フリオの肩を軽く叩きながら無事な様子に安堵して喜んでくれるが、勝手な単独行動について追求する気があるのを示すと、フリオも素直に受け入れる態度を見せた。


「先に謝っておくわね、ごめんなさい。私がニコラスと言い争いなんてしたから、自分が発端で部隊が険悪になったって、あなたを不安にさせたんでしょう?」

「い…いや…そんなことないって…。」

「確かに、あなたに非があったところもあると思うわ。でも、だからといって全ての責任をあなたに負わせるつもりなんかないのよ。」

エルザリエットは、自身の行いがフリオに影響したと謝り、それを否定するフリオに、必要以上に責任を負わなくていいと話す。


「えっ…?フリオさんが…?わたくしの所為でしたのに…。」

「ふむ…確かに深刻に考えててもおかしくない状況ではあったか。気が付かなくてすまん…。」

フリオがそこまで思い詰めていたと気付いていなかったクローディアとアンドリューが驚きを口にする。


「……。」

ニコラスは、その間も部屋の外を警戒し続け、左手で右手を摩りながら黙ったままでいる。


「でも、どうして単独行動をしたの?気まずいからってまだ危険度も定まってないダンジョンを1人で歩き回るのは、どうにも腑に落ちないわ。」

エルザリエットは、フリオが単独行動をしたのは単に肩身が狭いからではなく、別の思惑があると推察していた。


「旦那が言ってただろ…?困難にぶつかれば連携することになる、連携には最低限の信頼関係が必要だって…。その"最低限の信頼関係"を…オレが壊しちまったと思ったんだ…。」

「それで、先行して連携する必要があるような大きい危険が無いか、1人で確認してしまおうとしたのね?」

フリオは、アンドリューがニコラスと最初に口論になった時に重要視していた"最低限の信頼関係"が、自身のせいで失われてしまったと思ったと話し、その罪悪感から先行したのかとエルザリエットに問われると、これに頷いて肯定した。


「そうだとして!そんな危険があった時、あんたはどうなるんだよ!?」

「その時は、オレが死ぬだけで済むだろ…?オレに何かあったら、皆にも伝わるように細工はしといたんだ…。オレも…少しだけ精霊術使えるからさ…。」

エルザリエットの問いに肯定で返したフリオに対し、ニニカがエルザリエットの言うような危険に対面していた場合のことをさらに問い質すと、自身の死も想定していたとフリオは答える。


「おまえ…!?ふざけんな!そんなの蘇生が間に合わなくなっちまうかもしれねえだろうが!いつでも蘇生してやれるわけじゃねえんだぞ!時間が経ち過ぎちまったらどうしようもねえんだよ!」

ニニカは、そんなフリオの回答に激昂し、これまでとは種類の違う強い怒りの感情を言葉に乗せていた。


「ニニカ、少し落ち着くんだ。大きな声を出すとモンスターを引き寄せてしまうかもしれん。それに、ついさっきまではフリオを評価していただろう?」

アンドリューは、フリオと合流してから大きく様子が変わったニニカに困惑しつつも、落ち着くように宥める。


「あっ…うっ…ごめん…。でも!あたいは気に入らないんだよ!こういう…自分は死んでもいいみてえなのは!」

ニニカは、アンドリューに宥められて少し落ち着きを取り戻すが、声量は落としても語気は弱めない。




「アンドリュー、この際だからあんたにも言っておきたいことがある。ニコラス、あんたもだ。」

ニニカが前衛の2人に言いたいことがあると切り出すと、アンドリューは、体をニニカの方へ向けて視線の高さを合わせるように片膝をつき、話を聴く姿勢を見せる。ニコラスは、自身も名指しされたことを意外そうにしながら視線だけニニカに向け、部屋の外の警戒を続ける。


「自分が死ぬのを前提にすんのはやめろ。特にアンドリュー、あんたはそれが役割だとか言って平気でやりそうだからな。」

「ふむ…だがニニカ、俺たちにはそれぞれの役割が確かに存在していて、それが必要な瞬間もあるんじゃないか?」

アンドリューは、ニニカの要求に対して冷静に反論する。


「あたいが言いたいのはそういうことじゃない。死ぬのを覚悟すんのも、結果的に死んじまうことがあんのも理解してやる。そん時には、あたいも全力で助けようとしてやる。ただ、あたいは…クローディアだって、絶対蘇生してやれるわけじゃないんだぞ。だから、できる限り生き残ろうとしろ…。」

ニニカは、絶対に蘇生できる保証は無いから、簡単に自身が死ぬことを計画に織り込むなと訴える。アンドリューがクローディアの方に視線を向けると、ニニカの言うことを肯定するように静かに頷く。


「ニニカ…君の気持ちはよくわかった。君の言うようにすると約束する。だが、咄嗟の判断が必要な時は、難しいかもしれないことも理解してくれるか?」

「…ああ…あたいも、そこまで物分かりが悪いわけじゃないからな…。」

アンドリューは、ニニカの訴えを受け入れて善処すると約束するが、同時に考慮できない状況もあると伝えると、ニニカも理解を示す。


「フリオさん、わたくしから貴方にもお願いします。今後は、こういったことは控えていただけますか?」

「ああ…わかったよ…。」

クローディアが、フリオに今回のような勝手な単独行動は控えてほしいと伝えると、フリオは素直に受け入れる。


「ニコラス、お前はどうだ?」

「俺は報酬が全てだと言っただろ?そんな利己主義な人間が、自己を犠牲にするなんてありえないと思わないのか?」

ニコラスは、アンドリューにニニカの訴えを受け入れるか尋ねられ、ニニカの言うような自己犠牲的な判断を自分がすると思えるのかと逆に質問する。


「いいや、ニコラス、あんたは利己主義なんかじゃないだろ。」

「……なんだと…?」

ニコラスの質問に答えたのはニニカであり、意外な回答者とその内容にニコラスは視線を逸らした。




ニニカの言葉により、その場の全員が驚きに包まれている中、ニニカの視線はまっすぐにニコラスに向けられていた。

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