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4話 深まる軋轢

東隊の一行を包み込んだ沈黙を破ったのはエルザリエットだった。


「そういえばニニカ、あなたは神職者じゃないの?さっきクローディアと話してた時、そんな話しぶりだったわ。」

エルザリエットは、先刻のニニカの話し方から、自身のことは神職者ではないと言っているような印象を受けていた。


「ああ、そうだぞ。あたいは神職者じゃない。神職者は神に祈って力を借りるわけだけど、あたいは精霊に力を借りているからな。いうなれば『精霊術師』だ。」

エルザリエットの推察通り、ニニカは神職者ではないと答え、自身を精霊術師だと話す。


「この辺りだと聞き馴染みが無いな。君の出身地では、その精霊術師というのが祈祷師に当たるのか?」

「いいや、あんたらのとこで言う魔法使いの方が近いかもな。あたいが癒やしの力を借りるのが得意なだけだ。人によって精霊との相性があるからな。」

ニニカは、精霊術師について知らないらしいアンドリューの疑問に答えつつ、ついでに軽く説明する。


エルザリエットは、ニニカが精霊術師だと答えてからずっと黙っていた。


「なぁ、エリー?あたい、なんか良くなかったか?」

「え?あぁ、ごめんなさい。あなたは何も悪くないの。ただ、精霊術と聞くと思うところもあっただけだから。」

先刻の部隊内の不和もあり、不安そうに尋ねてくるニニカに対し、自身の態度が誤解させてしまったことをエルザリエットは謝る。


「思うところ?えっと…聞いてもいいやつか?」

「平気だけど、別に面白い話じゃないわよ?愚痴みたいなものだからね。」

「ぐ、愚痴?やっぱり精霊術師には悪い印象があんのか…?」

ニニカの質問に答えたエルザリエットは、この答えでまたニニカを誤解させてしまったことに自戒の念を抱くと同時に、部隊内の不和が誤解しやすい雰囲気を作っていると明確に感じる。


「あぁ…もう本当にごめんなさい。あなたたち精霊術師に対してじゃないの。」

「もしかして…『ディルフェス』か?」

「ええ、そうよ。」

エルザリエットの真意を察したニニカは、それが正しいか確認するために質問すると、エルザリエットはそれを肯定した。


「ごめん、エリー…。早とちりばっかして…。」

「ちょっと誤解が連続しただけでしょう?私も言うべきことを省き過ぎてたし、気にしないで、ニニカ。」

エルザリエットは、自身の発言も情報が欠けていたと言って、早合点したことで謝ってくるニニカを弁護する。


「ディルフェスと言うと、ここから南の方にある『ミレディン森林』で暮らしていて…確かルフェスに似ているんだったか?」

ディルフェスについて、アンドリューが少し聞きづらそうにしながらエルザリエットに質問する。


「似てるんじゃなくて、元々一緒だったの。でも、奴らは被害妄想で勝手に怒り狂った挙句、先祖代々の遺産を私たち同胞から奪って行った。忌まわしい裏切り者共よ。どうやら調査団にも参加してたみたいね。同じ部隊にならなくて本当に良かったわ。」

ここまでには見せていなかったエルザリエットの強い負の感情を前に、アンドリューとニニカは、この話題は避けようと目線でお互いに合図を送り合う。


「そ…そうだったんだな、浅はかな質問をしてしまった、すまん…。」

「もう…大丈夫だから…別に構わないわ。私が不快に感じているのはディルフェスだけよ。誰しも知らないことなんて山程あるでしょう?自分に関係してることを少しくらい知らない程度で腹を立てるようなら、その人の方がよっぽど問題を抱えてるわ。」

エルザリエットは、あくまでも感情の矛先はディルフェスに向いていることを強調し、アンドリューの質問に問題意識を持っていないと伝える。それと同時に、アンドリューとニニカが話題を変えたがっているのも察していた。


「知らないこと自体は罪ではないわ。罪があるとすれば、それは"無知の上に何を積み重ねたか"で問われるべきだと私は思っているの。」

「何を積み重ねたか…?」

エルザリエットは、ディルフェスの話題から逸らしてあげるために自身の価値観について語ると、ニニカは関心を向けてくる。


「そうよ。例えば、[法律を微塵も知らない人]がいたとしても、この人が生涯、法律に反する行いを1つもしていなかったら、何も問題無いでしょう?それが仮に"偶然だった"としてもね。」

エルザリエットは、興味深そうに聴いているニニカに例え話をする。


すると、突然ニコラスが会話に参加してきた。




「いいや、無知は罪だな。その良い例が直前にあったばかりだろ。あの素人が無知だった故に戦闘が長引いた。今回はモンスターの合流、挟撃も無く大きな問題にはならなかったが、それも"偶然"だ。」

ニコラスは、クローディアの方を示しながら先刻のスケルトン戦を軸に嫌味ったらしくエルザリエットに反論する。


「戦闘に関してはあなたの言う通りね。クローディアに十分な知識があったらすぐに終わったでしょう。大きな問題に繋がらなかったのも偶然、それらは事実だわ。」

「ふん、そら見たことか。偉そうに講釈を垂れてる暇があるのか?」

「ただ、あなたの主張は私への反論として成立してないわ。あなたが言っていることはまさに、私が言った"無知の上に積み重ねた"ことよ。」

エルザリエットは、スケルトン戦に関するニコラスの評価は事実だと認め、自身もそれに同意しつつも、自身の主張への反論としては論点がズレていると指摘する。


「話を聴いていたなら思い出してちょうだい。"知らないこと自体は罪ではない、罪があるとすれば、それは無知の上に何を積み重ねたかで問われるべきだ"、私は確かにこう言ったわね?」

「……だったらなんだ?」

「……仕方ないわね…少し表現を変えてあげる。私の主張はあくまでも"無知であること自体に罪を問うのではなく、無知の上に起こした行動にこそ罪を問うべきだ"と言っているのよ。理解できたかしら?」

エルザリエットは、表現を変えることで自身の主張がニコラスに正しく伝わっているか訊ねる。


「何が違う?詭弁を並べて言葉遊びをしてるのか?往生際が悪いぞ。」

「あら?自覚も無く論点をズラした詭弁でいきなり反論しておいてよく言うわね?畢竟、あなたの主張は私の主張の軸である"知らないこと自体は罪ではない"を否定できていないと言ってるのよ。まだわからないかしら?」

エルザリエットは、ニコラスとお互いに挑発し合っていて、この場の誰もが止められなくなっていた。


「反論も相手を見てすることよ。相手の主張を正しく理解できているか、論点は合っているか、それこそ冗談よりもちゃんと状況を見極めるべきだわ。それができないなら、あなたも口を噤んでいなさい。」

エルザリエットがそう言うと、ニコラスは黙って背を向ける。




そんなやり取りの裏で、クローディアとフリオは、それぞれが一行の険悪な現状を自分のせいだと思い詰めていた。

ディルフェス≒ダークエルフです。

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