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2話 東隊、突入

西暦1997年、7月21日、夜明けが来た。


前線拠点の開けた場所で、既に3つの調査隊がオーランドの前で集合している。


「時間だ。皆の健闘と無事を祈っている。これより、ブラックフォールの調査を開始する!全部隊、突入地点に向かってくれ!」

オーランドが高らかに号令をかけると、各調査隊がそれぞれの突入地点へと移動していく。


前線拠点から突入地点まで最も近い東隊は、他の2部隊よりも先にブラックフォールへと突入した。




内部には光源となるものが少なく、調査をするのに十分な明るさではなかった。


「皆様、わたくしにお任せください。」

ブロンドの長い髪を三つ編みに結い、神職の衣装を身に纏った女が小さく祈ると、光の球体が召喚されて辺りの暗闇を照らす。


「少々明るすぎるかもしれんな。モンスターを引き寄せてもマズい、もう少し調節できないか?」

甲冑を身に付けた背の高い男が、神職者の女に明るさの調節を要求する。


「ハハっ、アンタのその甲冑も、中々良い音がしてるぜ?」

甲冑の男の言葉に対し、浅黒い色のケープを羽織り、目深にフードをかぶっている細身の男が、神職者の女よりも先に返事をした。


「そ、そうか?すまん…。」

「おっと冗談だよ、気にすんなって。アンタ、真面目なんだな。」

ケープの男は、素直に謝ってきた甲冑の男に面食らいながらも、小さく笑って発言の弁明をする。


そんな会話の裏で、神職者の女は召喚した光の球体の明るさを調節していた。


「このくらいで…えっと…。」

神職者の女は、甲冑の男に光の加減はどうか尋ねるため呼びかけようとしたが、先日聞いたはずの彼の名前を思い出せず、申し訳なさそうな表情で当惑していた。


「『アンドリュー』よ、『クローディア』。」

長く尖った耳が特徴的なヒト種『ルフェス』の女が、神職者の女に甲冑の男の名前を教える。


「すみません、ありがとうございます。昨日はたくさんお名前を聞きましたから、皆様のお名前とお顔がまだ一致しなくて…。」

ルフェスの女に礼を言いつつ、クローディアはまだ申し訳なさそうな表情をしている。


「『エルザリエットイウライア』よ。長いし適当に省いてくれていいから。普段もエルザリエットまでしか呼ばれないしね。」

エルザリエットは、クローディアの考えを察して自己紹介し、同時に自身の名前は省略してくれて良いと慣れた様子で伝えた。


「はい、わかりました。じゃあ…エリーさん。」

クローディアは、エルザリエットに向かって微笑みながら小さく頭を下げて礼を言うと、今度こそアンドリューに声をかける。


「アンドリューさん、明るさはいかがしょうか?」

「ああ、これくらいが良いと思う。すまん、俺のせいで手間をかけさせてしまったな。」

声をかけられたアンドリューは、クローディアが調節してくれた明かりの加減に満足したことを伝えつつ、クローディアにも謝る。


「みんなの安全のためだろ?あんたの意図はみんなわかってるさ。だからもう気にするな。あぁ、ちなみにあたいは『ニニカ』だ。覚えといてくれよ?」

最も多いヒト種である『ヒュムン』の身長を低くしたような見た目が特徴的なヒト種『ボッチフ』のニニカが、アンドリューを励ましながらついでに名乗る。


「そうだぜ。気にすんなよ、旦那。それと、オレは『フリオ』だ。みんなよろしくな。」

フリオは、アンドリューを旦那と呼び、ニニカと一緒に励ましながら会話の流れに便乗して名乗る。


「元はと言えばあんたの所為じゃないのか?あんたの冗談で気にしちまってるだろ。」

ニニカは、フリオの冗談の影響ではないかと指摘する。


「おいおい、待ってくれよ。オレの冗談の意図はわかってくれないのか?」

「雰囲気を和ませようってんだろ?わかってっけどよ、あんま上手くいってねえんじゃねえか?」

ニニカは、フリオが言いたそうなことを察しつつも、怪訝な表情でその成否に疑問を呈する。


「そんなことねえさ。こんだけ会話が交わされて、ちっとは親睦が深められただろ?そこの、ダンマリな兄貴を除いてな。」

フリオは、自身の冗談は良い方に働いたと主張しながら、この間ずっと黙り続けていた右目に眼帯を付けている銀髪の男に話を投げる。


「"仲良しごっこ"がしたいなら、お前たちだけで勝手にやってろ。」

眼帯の男は、目線を合わせることもなく冷たくあしらう。


「それは違うな。俺たちは、この未知なるダンジョンを"共に進んでいく仲間"だ。困難にぶつかれば連携して突破することになる。連携には最低限の信頼関係が必要だ。無論、お前もな。」

眼帯の男の言葉に真剣な面持ちになったアンドリューは、信頼関係の必要性を説く。


「調査団に参加しておきながら、一匹狼を気取っているのははっきり言うが邪魔だ。募集の時も集団行動になることは明記されてただろう?それとも、ラインベルドの出身だから俺みたいなエレメインの人間と関わりたくないだけか?傭兵の『ニコラス』殿。」

アンドリューは、集団行動に於いて利己主義的な姿勢は邪魔だと一蹴しつつ、既に把握していたニコラスの素性から、お互いの国が緊張関係なのが理由かと問い質す。


「そんなことは関係ない。俺は傭兵だからな、報酬が全てだ。だが、そんなに必要だと言うなら、その"最低限の信頼関係"くらいは持ってやってもいい。"最低限"ならな。」

ニコラスは、国の関係性が理由ではないと否定はしつつも、必要以上に交流する気は無く、利己主義的な振る舞いを改めるつもりは無いことを強調した。


「お…お二方とも、落ち着いてください…。」

クローディアが、険悪な雰囲気が漂うアンドリューとニコラスの間に入り、おずおずと仲裁しようとする。


クローディアの困った表情を見て、アンドリューはばつが悪そうにしながら口を開いた。


「む…確かに少し感情的だったかもしれん。悪かった…。だが、信頼関係が必要だと思ってるのは改めて言っておきたい。お前が国のことは関係ないと言うなら、俺もそれは気にしないようにする。」

アンドリューは、感情的になって言い方が良くなかったとニコラスに謝りつつ、主張の方向性は変わらないこと、自身も国の関係性は考慮しないと伝える。


ニコラスは、アンドリューの話を聞いている最中にクローディアと目が合い、少し瞳孔が開くとすぐに視線を外す。


「チッ…考えといてやる。」

ニコラスは、舌打ちしながらも検討はするとそっけなく答えて、もう言い返すのは止める。


その時、エルザリエットが一方向をじっと見つめながら、真剣な表情になって発言する。


「話は一旦そこまで。強くはないけど近くにモンスターの魔力を感じる。あっちからよ、みんな警戒して。」

エルザリエットは、近くにモンスターがいるのを察知し、その方向を仲間たちに伝えて警戒を促す。




一行は、エルザリエットの報告を受け、まだ姿の見えないモンスターに向けて身構えた。

ヒュムン=人間、ルフェス≒エルフ、ボッチフ≒ハーフリングです。


ヒト種の呼称を別で用意したのは、モチーフにした種族と設定に結構差異があると自分で思ったので、同義ではないことを表す必要があると判断したためです。今後も別のヒト種が出てきますが、全て同様の理由です。


ヒュムンだけはついでに考えただけです。

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