05【探索の末】
翌日、源次郎は駕籠を呼び一関藩の江戸屋敷に戻って行った。
切られた傷は完全に塞がってはいないが、
「自分だけ寝ている訳にはいかない」と言い、無理を承知で帰っていった。
親分から知らせがあれば、うちの女中を使ってツナギをつける手配をして。
普段なら昼間っから呑み歩く彩雲だったが、今日は家に籠もり長煙管を燻らせながら温燗をチビチビ呑んでいる。
広げられた江戸の切図には、静香を追い詰めた場所や関連する事柄が書き込まれている。
日に二、三度、親分が訪れ、彩雲と短く言葉を交わしては去っていった。
そんな時を過ごしていた彩雲の口から、ふと
「……憑かれているな」
と、ぽつりと言葉が漏れた。
それきり遠くを見つめるような目をし、庭木で囀る鶯をただ眺めていた。
……
源次郎からの伝言が届いた。
「国元より剣術指南役の大畑様一行が今夜夜半に藩邸に到着する」
一関藩では今回の事件を一気に解決させるつもりのようだ。
「馬鹿なことをするもんだ。ほっときゃいいのにさ。
静香が祟る先はもうないのにね。
大事な藩士に死人や怪我人を大勢出して、奥様も馬鹿だねぇ。
やっぱり人間には、おつむの足りない奴がいるもんだよ」
呆れた口調を取りながらも、
「乗りかかった舟だ、知らぬ存ぜぬもできないね」
とつぶやき、手紙をしたためると、女中のお梅を呼び、源二郎への返事を託した。
……日が傾く頃——。
息を切らせた親分が、彩雲のもとへ駆け込んできた。
「姉さん! 見つけやしたぜ!
やっこさん、芝の使っていない漁師小屋におりやす!」
「でかしたね。
近づいちゃいないだろうね?」
「へい、仰せのとおり、遠巻きに見張っておりやす」
「いいね。奴はあんたらの百倍は感働きが良いから、絶対気づかれるんじゃないよ!で、どの辺だい?」
芝辺りの切図を数枚差し出す彩雲。
「へい、ここでございやす」
親分が指し示したのは《高輪》の図だった。
ここは東海道が通っており、行き交う人々が多い地域。
「近くに増上寺もあって人が多いのに、なんでこんな所にいるんだろうね」
「それは分かりませんが、この砂浜沿いにある漁師小屋に隠れておりやす」
彩雲は親分が示した場所をじっくりと見つめ、再び源二郎に手紙をしたためた。