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番外編 風呂カフェの幸せな日常(最後にお知らせあり)



 私の名前はリディア・ハミルトン。ハミルトン公爵家の一人娘だ。元々は王太子の婚約者だったけど、「理想の金髪碧眼美少女じゃない」という理由(なんて理不尽)で婚約破棄された。


 そこでお風呂大好きな日本人だった記憶のある私は、お風呂の文化がないこの世界でお風呂を広めるため、ユードレイスという辺境の地で風呂カフェを経営することにした。


 ユードレイスに来たばかりの頃は「婚約破棄された悪女が変な店を開いている」と遠巻きにされていた。しかし、街に出現したスライムを倒したことで誤解が解け、徐々にお客さんが来てくれるようになっていった。


 風呂カフェを経営する中で、さまざまな人との出会いがあった。


 まずはユーリさん。彼は、ユードレイスで騎士団長を務めていて、とても真面目な優しい人だ。彼はひょんなことをきっかけに風呂カフェに通ってくれるようになり、彼の部下達を風呂カフェに連れてきてくれるようになった。

 また、彼とは一緒に魔物討伐に行き、魔法道具に必要な材料を採取しに行ったりもした。その結果、お風呂に役立つ魔法道具として「ドライヤー」を開発することに成功した。


 それから、エレンさん。彼女は最初私を敵視していたけれど、彼女のダイエットを手伝っているうちに和解。最終的にはユードレイスを観光地として打ち出すために、社交界で影響力のある貴婦人をもてなす企画を一緒に進めたりしたわね。


 そんな感じで穏やかな日常を送っていたんだけど……その生活は私の元婚約者である王太子の登場で暗雲が立ち込めることになる。


 王太子は私とよりを戻すためにと営業の妨害を始めた。その上、彼の父親である国王が2属性の魔法を使える私を取り戻したいと躍起になり、店の営業停止命令を下してきた。更に、実は国王の隠し子だったユーリさんを王宮に連れ戻そうとするなど、ユードレイスに大混乱がもたらされた。


 しかし、風呂カフェで紡いできた縁が花開き、風呂カフェ存続とユーリさん騎士団長存続の署名が集められた。その他にも色々な人が助けてくれて……結果的に私とユーリさんはユードレイスに戻ることが決まった。


 そして、現在。


 寒いユードレイスの地に春の気配が近づいている中、無事にユードレイスに戻ってきた私は今日も今日とて風呂カフェの営業に邁進していた。


「よし。そろそろ店仕舞いするかしらねー」

「そうですね。お客さんも途切れましたし、店仕舞いしましょう」


 私の言葉に頷いたのは、従者のリーナ。幼い頃から私に仕えてくれていて、風呂カフェを始める際にユードレイスについて来てくれた従者の一人だ。いつも冷静でツッコミ気質な彼女のことを私は姉のように思っている。


「じゃあ、俺はホールの掃除をしますねー」


 そう言ったのは、ルーク。彼もリーナと同じくユードレイスについて来てくれた従者だ。実はリーナの双子の弟だったりする。いつも憎まれ口を叩き合いながらも、何かあった時は誰よりも心配してくれる、私にとって兄みたいな存在だ。


「じゃあ、私は店の外を掃除してくるわね」

「はーい」


 外に出て、店の扉にかけてある看板をクローズに変える。箒で掃き掃除をしていると、店の前に誰かがやって来た。


「リディアさん。お疲れ様」

「ユーリさん! もしかして、仕事帰り?」

「そうだ。さっきやっと仕事が片付いたところで……っ」

「あらあら、お疲れ様」


 店前にやって来たのは、ユーリさんだった。社畜気質の彼は、今日も働きすぎているようだった。


「疲れてるでしょう? 少し店の中でゆっくりしていって」

「だが、もう店仕舞いをしてるところじゃないのか?」

「ユーリさんは特別よ」

「なぜ」

「だって、私たち恋人同士じゃない」


 私が微笑むと、ユーリさんは目を見開いて、少し顔を赤くした。そして、優しく笑って「そうだな」と頷いた。


 様々な困難を乗り越えた私たちは、恋人同士になっていた。まあ、ユーリさんは常に仕事が忙しくて、私も私でお風呂で忙しいから、なかなか恋人らしいことは出来ていないんだけどね。


 私がユーリさんと共に店に入ると、ちょうど扉前にいたルークがげっという顔をした。


「本日の営業は終了してるんですけど」

「ユーリさんは私に会いに来てくれただけだから、お客さんじゃないわよ」

「後片付けがあるから、あんまり長居はしないで欲しいんですけど」

「ああ、早めに帰るよ」

「そうして下さい」


 ルークはやさぐれた様子でその辺のテーブルを拭いている。文句を言いつつも、あくまで私たちのそばからは離れないつもりみたいだ……。


 私とユーリさんは店のテーブルで向かい合わせで座る。すると、すぐにユーリさんが口を開いた。


「そうだ。リディアさんにこれを渡そうと思って買ってきたんだ」

「え、なになに?」


 ユーリさんは手のひらに収まるくらいの小さな薔薇の花束を差し出した。


「いつもお疲れ様」

「わぁぁぁ、ありがとう!」


 ユーリさんはすごくマメな人だ。時間が空いたら絶対に私に会いに来てくれるし、こうして何気ないプレゼントを渡してくれることも多い。だから、私はいつもユーリさんが店に来たら料理とお風呂で全力でおもてなしをしている。


 渡された花束を見て、ふふっと微笑む。赤やピンクで彩られた花束は可愛い。それに何より……


「さっそくお風呂で使えそうだわ! 本当にありがとう!」


 私の言葉に一瞬の沈黙が訪れた。その後すぐに、私たちの会話を無言で聞いていたルークが大きく息を吸って、私を指さした。


「そこは“飾る”って言うところでしょうが!!!! お風呂に使うって、何を言ってるんですかリディア様は?!」

「だってお風呂に使えるんだもの」

「恋人からのプレゼントなら、飾って、眺めて、相手を思い出すものでしょうが! この風呂バカ!」

「なによ、失礼ね! バカ従者」


 私たちが子供みたいな言い合いをしていると、ユーリさんが「まあまあ」と割って入った。


「俺はリディアさんが好きなように使って喜んでくれたら、それで嬉しいから」

「ユーリさん……」

「リディアさん……」

「え、ここで二人の世界に入ります?」


 ルークは「もうやってらんない。リーナ、ツッコミ役不足だから助けて」と店の奥に引っ込んでしまった。


「それじゃあ、ユーリさん。お風呂から入っていく? それともご飯を先に食べていく?」

「それじゃあ、お風呂から入らせてもらう」

「分かったわ。それじゃあ、これ使わせてもらうわね」


 私がユーリさんからもらったばかりの花束をかかげると、彼は苦笑しながら頷いた。


「お風呂に使うと言うかと思って、念のため花屋に確認したんだが、農薬は使われてないみたいだ。だから、安心して使って欲しい」

「ユーリさん、そこまで考えてくれていたのね……っ! ありがとうっ!」


 私はユーリさんの気遣いにキュンキュンしながら、お風呂場へと向かった。


 薔薇の茎の部分を切って、軽く洗う。それをお風呂に浮かべれば、かのクレオパトラも愛したという薔薇風呂の完成だ。


「ユーリさん、お風呂入って大丈夫よー。リーナ、ルーク。私も入ってきちゃうわねー」


 するとルークが慌てて顔を出してきた。


「男湯、女湯で分けますよね? 分けますよね??」

「何か当たり前のこと聞いてるの。当然じゃない」

「それならいいです。ゆっくりしてきて下さい」


 もう、何を心配しているんだか。


 さっそく体を洗って温かいお風呂に浸かると、全身の筋肉が弛んでいくのを感じた。温かいお湯に包まれて、「ほぉっ」と息を吐く。


 お湯に浮かべた薔薇をかき集めて、体に寄せる。すると、ふわっと薔薇の華やかな香りに包まれた。薔薇は何個かしか入れていないけれど、これでも充分薔薇の香りを感じられる。いい香りに体がリラックスしていく。幸せだわぁ。


「ふぅー、いいお湯だったわ」


 お風呂から上がり、さっそく髪を乾かす。もちろん私が開発したドライヤーを使う。


 それからユーリさんのためにシチューを温め直して……せっかくだから私も一緒に食べちゃおうっと。


 私は二人分のシチューを用意して、ユーリさんがお風呂から出てくるのを待った。そんな私を見て、リーナがクスッと笑う。


「リディア様、幸せそうですね」

「ええ、幸せよ。お風呂に入れて、大好きな人と会えて。これが幸せだと言えなかったら、バチが当たるわ!」


 私たちは顔を見合わせて笑い合う。しばらくすると、ユーリさんがお風呂から上がってきた音がした。

 さっそく男湯前に出迎えに行くと、そこにはフラフラした足取りのユーリさんと……なぜかルークも一緒にいた。


 二人とも顔が真っ赤で、足元がフラフラしている。


「二人ともどうしたの?!」

「いや、風呂で男同士の話をしようと……」

「意地になって最終的に耐久戦に入っただけで、のぼせてませんから……」

「のぼせてるんじゃないの」


 私は「も〜」と言いながら、リーナと協力して二人を椅子まで誘導。冷たい水を飲ませた。


「ほら、涼しくしなさい」

「すまない……」

「すみません」


 まったく落ち着いてユーリさんと話すこともできないわ。


 そんなこんなでユーリさんとの甘い日々はなかなか送れていない。けれど、こんな日々も悪くはないと思っている。


 今日も今日とて、私のお風呂ライフは幸せである。





この度小説家になろう様で開催された「ネット小説大賞」にて早期受賞が決定しました!

皆さまの応援のおかげで物語を完成させることができ、受賞させていただくことができました。本当にありがとうございます!


そして、大変ありがたいことに書籍化も決定しております!

再び動き出すリディアたちの物語をお楽しみにして下さると幸いです。

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