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第49話 リディアとルーク





「ユーリさんが地下牢に閉じ込められているですって……⁈」


 ユーリさんの従者から突然告げられ、動揺する。だけど、それが本当ならば、一刻も早く彼を助けに行った方がよさそうだ。


「それなら、今すぐ行ってくるわね!」

「わ、分かった!」

「気をつけてね!」

「絶対に帰ってくるのよー!」


 みんなに見送られて、リーナと共に馬車を置いてある場所に向かう。しかし、私たちの前に一つの影が立ち塞がった。


「待ってください。話は聞きましたよ」

「ルーク……」


 ルークだった。彼は厳しい表情で、私たちの行手を阻むように手を広げていた。


「このタイミングで牢に閉じ込められたことを伝えられるなんて、おかしいです。向こうの罠の可能性があります。行かせませんから」


 彼の意思は固く、彼を説得するのは骨が折れそうだ。


 私は勢いよく頭を下げた。


「ルーク、あなたの気持ちには応えられないわ。ごめんなさい!!!」

「ぐはっ……! そんな急に振りますか⁉︎ しかも今⁈ もっと情緒とか葛藤とか……」

「本当にごめんなさい」


 ルークが胸を抑えて、ダメージを受けている。申し訳ない気持ちになりながら、私は口を開いた。


「私はユーリさんのことが好きなの。だから、助けに行きたい。行かせてください。お願いします」

「……」


 ルークは「あーもー」と言って、頭を掻いた。そして。


「……ちょっと待ってて下さい」


 そう言って、彼はその場から立ち去る。しばらくして、彼は現れた。一頭の馬の上に乗って。


「リディア様、後ろに乗って下さい。馬車よりこっちの方が速いです」

「あなた馬に乗れたのね……⁈」

「これでも騎士ですからね。一通り学ぶんですよ」


 彼は「ほら」と言って、私に手を伸ばす。


「でも、いいの?」


 私はあなたを振ったのに、と。そこまでは言えなかったけれど、ルークは言葉の先を察したらしい。彼は笑って首を振った。


「いいんですよ。主人のお願いを聞くのが従者の役目ですからね。……そもそもあの人に借りがあるから、俺だって助けたいとは思ってますし」

「ああ、酔っ払って家に送り届けてもらったことね」

「それは忘れたいことなんで、言わないでもらえます? ……ほら、早く手を取って下さい」


 おずおずと彼の手を取ると、ひょいとルークの後ろに乗せられた。


 ルークは馬の足元にいるリーナに声をかける。


「リーナ! 馬に乗せられるのは二人までだからリーナは行けないけど、大丈夫か?」

「構わない。リディア様のことをお願い」

「分かった」


 二人は頷き合う。私たちが留守の間は、リーナが風呂カフェを守ってくれるだろう。


 ルークが馬の手綱を引くと、すぐに馬は走り始めた。


 馬は街を抜け、森を駆け、ビュンビュン進んでいく。しばらくは何も話さなかった私たちだけど、私の方から口を開いた。


「あのね。私、ルークのことが好きよ」

「……」

「でも、それは友達とか家族に対する親愛の気持ちなの。そして、それは、これからもずっと変わらないと思うわ」


 私がそう言うと、彼はふっと笑った。


「分かりましたよ。だから、泣かないで下さい。リディア様には泣いて欲しくないです」


 ずずっと鼻を啜る。そして、私はルークの肩を叩いた。


「泣いてないわよ、ばーか!」

「いって!!」





⭐︎⭐︎⭐︎






「ようやく着きましたね」

「そうね」


 私とルークは馬から降りる。すると、王都の景色が広く目に飛び込んできた。


 広い煉瓦道に、賑わいを見せる店の数々、活気のある人々……。


 王都だ。王都に帰ってきたのだ。


 王都からユードレイスに行く時は、馬車で向かったので数日かかった。しかし、馬に乗って休まずに、ここまで来たので、大体一日でたどり着くことができた。


 これもルークが馬に乗せて送ってくれたおかげだ。


「ルーク、ありがとう」

「いーえ。貸し一つで」


 ルークはニヤッと笑う。いつもの彼の調子にホッとしつつ、周りを見渡す。


 王城は、視線の先……目に見える場所にあった。そして、公爵家の王都における別邸はここから少し離れたところにある。


「ねえ、ルーク。あなたは公爵家に行ってもらえない?」

「なんでですか?」

「もしもの時のためにお父様に状況を伝えておきたいわ」

「いいですけど……。リディア様はどうするんですか? まさか一人で王城に乗り込むとか言いませんよね?」

「そのまさかよ。一人で乗り込むわ」


 私がそう言うと、ルークは私の肩を掴んで揺さぶった。


「流石に危ないですって! 正面から王城に入ったら、兵士に捕えられて終わりですよ」

「大丈夫よ。私が王城の抜け道や、兵士が配置されていない場所を知らないとでも思った?」

「は?」

「王子の婚約者である間、王城を何も調べずに終わっているとでも?」

「まさか……」


 ルークがフラリと後ろに下がる。私は「ふっふっふっ」と不敵に笑った。


「そうよ! 王城にお風呂を設置できる場所はないか探っていたら、王城の中に詳しくなっていたのよ!」

「王城でも風呂バカを発揮していたなんて……っ」


 セドリック様の婚約者時代のことだ。彼と結婚することになった時のために、王城にお風呂を設置できないかと検討していた時期がある。


 王妃教育の合間に王城を探索して、どこかにお風呂を設置出来ないかな〜と考えていたのだ。

 すると、たちまち王城の構造に詳しくなっていった。今では、王城にあるすべての部屋の位置のみならず、兵士の位置や交代時間、王城への抜け道まで知っている始末だ。


「まずは人質にされないためにも、ユーリさんの安全を確保したいの。彼を解放してから、国王を説得しに行く。だから、私はこっそり王城に入りたい」

「……」

「二人で行動すると目立つし、一人で行きたいわ。ルークはもしもの時のために備えておいてちょうだい」

「はぁ〜。分かりましたよ、風呂バカ主人」

「後で覚えておきなさいよ、ルーク」


 そう言って、私たちは二手に分かれた。

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