表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/59

第44話 王子の願いは打ち砕かれる





「いいから早く俺と婚約し直せ! そして、俺が理想の女と結婚できるようにさせろ!」


 彼は私の手を掴み、もう片方の腕を振り上げた。


 殴られる。


 そう思って咄嗟に目を瞑った次の瞬間、パシンと音がした。


 しかし、頬に衝撃はなかった。恐る恐る目を開けると、セドリック様の手を止める二つの影があった。


「……ルークと……ユーリさん?」


 セドリック様の手を止めていたのは、ルークとユーリさんだった。

 元々店にいたルークは分かるけど、ユーリさんはなんでここにいるのかしら?


 私が疑問に思っていると、それを読み取ったかのようにユーリさんは口を開いた。


「風呂カフェにいた客が呼んでくれたんだ。対応できるのは、貴族である俺しかいないだろうって」

「そ、そうだったのね」


 リーナが避難させたお客さんの一人が機転を効かせて、彼を連れて来てくれたらしい。私一人では話にならなかったので、ここで伯爵家の彼が来てくれるのはありがたかった。


 ユーリさんは私を後ろに下がらせ、ルークに預ける。私たちを庇うように一歩前に出た彼は、懐から一通の手紙を取り出した。


「大変申し上げにくいのですが……殿下の言う“理想の女性”からお手紙を預かっております」

「手紙? なんでお前が……?」

「王家の方に少々伝手がありまして。今回、ユードレイスの観光の要である風呂カフェが殿下から迷惑を被っていると伝えたんです。その時にあなたの愛人にも話がいったそうで、こちらに手紙を送ってきました」


 彼は「どうぞ」と言って手紙を差し出す。セドリック様は受け取った手紙を開き、しばらくして目を開いた。


「は⁈ 嘘だろう⁈」


 彼は血走った目で何度も手紙を読み返し、それでも内容が変わらないことを確認すると、ユーリさんに詰め寄った。


「これはどういうことなんだ?!」

「こちらは手紙の内容を存じ上げません」

「嘘だ! お前が何か手引きをしたんだろう! 彼女が……わ、別れると言うなんて!!」


 彼が掲げる手紙を見る。そこには、「リディア様を本気で正妃になさるつもりなのですね。王妃になるためにセドリック様に近づいたのに、がっかりです。王妃にならないなら意味がないので、私と別れて下さい」と書かれていた。


 要するに、セドリック様は振られてしまったということだ。


「本人であることは筆跡で分かると思いますが」


 ユーリさんの指摘に、セドリック様がギリ……と歯を食いしばる。


「こんなこと父上が許すはずがない……! こんな風に俺を侮辱するようなことを!」

「国王陛下は、あなた達の関係を良しとはしておられませんでした。あなた達が別れたら、むしろお喜びになると思います」

「……っ!」


 ユーリさんの言葉に思い当たる節があったのだろう。彼は青ざめた顔で口を閉ざす。


 しかし、すぐに彼は私の方にフラフラと歩み寄ってきた。


「リ、リディア! お前は俺を見捨てないよな⁈ 俺と一緒に王都に来てくれるよな?」

「何度も申し上げている通り、セドリック様と婚約し直すつもりはありません」

「そんな……! 俺は父上から君を王妃にしろと言われているんだぞ!」

「それなら最初から婚約破棄しなければよかったんです。今更縋られても、知ったことじゃないですね」

「でも、でも……!」

「前にも申し上げましたが、こっちは最初からセドリック様のこと好きでも何でもないんですから、もうやめて下さい。いい加減しつこいですよ」


 私に「しつこい」と言われたことがショックだったらしい。彼は足をフラつかせる。


 ユーリさんは、HPがほぼゼロのセドリック様の肩に手を置いて話しかける。もはやセドリック様は涙目になっている。


「セドリック様、帰りの馬車を用意しております。こちらへ……」


 そう話しかけられて、セドリック様はユーリさんを初めてまともに見たらしい。彼は涙を滲ませた目を大きく見開いた。


「お前……」


 セドリック様はがっとユーリさんの顔を両手で掴む。そして、彼の左目元のほくろを触って、衝撃のまま口を開いた。


「お前、もしかしてあの時の……!」

「は、はい?」

「お前! 幼い頃に女の格好で王城で迷子になったことはないか⁈」


 ん? 王城で迷子になった?


 そういえば、さっきセドリック様が「迷子になっていた初恋の金髪美少女」について語っていたけれど……。


 あれ? ユーリさんは金髪だな?


「金髪碧眼に目元のほくろ! あの時の金髪美少女じゃないのか⁈」

「……確かに幼少期は王城におりました。そこでは髪を伸ばしておりましたし、女の子と間違われることがしばしばありましたが……」


 ユーリさんは若干気まずそうな顔をしている。一方のセドリック様は大きくショックを受けているようだった。しばらく口をパクパクしてから、恐る恐る確認するように言葉を発した。


「お、男だったのか……」

「はい。すみません」

「お、俺の初恋がああああああああああああ」


 そう言って、彼は崩れ落ちてしまった。


 もしかしてだけど、今の彼って同時に3人にフラれた……?


 本命(男爵令嬢)、都合のいい女(私)、初恋の人(ユーリさん?)からのトリプルコンボ。流石にちょっとだけ可哀想ね……。


 ユーリさんも流石に戸惑っているようだ。まあ、まさか自分がセドリック様の初恋相手になっているとは思わないわよね。


 彼は床に崩れ落ちて、涙を流している。流石に哀れに思って、私は彼に歩み寄った。


「大丈夫ですか?」

「お、俺は……理想の金髪碧眼美少女と結婚したかっただけなのに……」

「他に理想の人が見つかりますよ」

「出来れば、お姉さん系がいい」

「この期に及んで条件増やしてんじゃないですよ」


 図々しいな。これだけ元気があれば、私が励ます必要なかったわね。


 何はともあれ、今回のことで彼は色々なダメージを受けたようだし、王都に帰ってくれそうね。とりあえず一件落着かしら。


 そう思ったんだけど……。


 ユーリさんの従者らしき人が店の中に入ってきた。そして、ユーリさんに一通の手紙を渡した。


「ユーリ様。追加で国王陛下からお手紙が届いております。ユーリ様……いいえ。ユリウス様宛に」


 国王からの手紙。私の力を欲している相手の名前に、嫌な予感がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ