第42話 営業妨害への作戦
セドリック様からの思わぬ営業妨害。どう対処するか考えを巡らす前に、とりあえず営業を再開するために店の前の掃除を始めた。
雨が降っているから、散らばっているゴミを片付けるのも一苦労である。
私とリーナは重い気分で黙々とゴミを拾った。
何とか掃除を終えて営業を再開すると、何人かの常連さんが顔を見せてくれた。しかし、いつもの風呂カフェのように大盛況とまではいかなかった。
その日の営業を終えて、最後のお客さんを見送る。すると、すぐにリーナが口を開いた。
「さて。セドリック様をどう処刑……、対処しますか?」
「今、処刑って言ったわよね」
私の言葉にリーナは肩をすくめる。口が滑ったとでも言いたげだ。ダメだから。王族に処刑とか言っちゃったら不敬だから。
「とりあえず状況を見守るしかないわね。お店に来てくれた人には事情を伝えて、相手にしないように伝えていけば、通常営業に戻れるだろうし」
「いいえ。違います」
リーナが冷たい目をしている。警戒しながら「何がよ」と聞き返すと、彼女は怒りに燃えて机を叩いた。
「こんな嫌がらせをする不届な輩は血祭りにあげないと気が済まないって言ってるんですよ!!」
「うん。血祭りにあげたら反逆罪になるからやめましょうね」
リーナの血の気が多すぎる。これは彼女が罪に問われることがないように、気をつけておかないとね……。
「じゃあ、リディア様はどうするつもりなんですか。このまま黙ってるつもりなんですか?」
「まさか。やられっぱなしは性に合わないわ。妨害するアイツを逆に利用してやるのよ!」
大切なお店の邪魔をされて黙っているほどお人よしじゃないわ。目にものを見せてやるんだから。
⭐︎⭐︎⭐︎
数日後。風呂カフェは大盛況。元いたお客さんでに加えて、新たなお客さんも増えて賑わっていた。
風呂カフェの中は家族層で訪れる人が増えており、小さなお子様連れのお客さんが姿を見せているのだ。
「ふふふ。私の作戦は成功ね」
「まさか、逆にお客さんを増やしてしまうとは……感服です」
「まあね。ここまで上手くいくとは思わなかったけれど」
営業妨害に対抗するための作戦は、簡単なものである。
イベントと銘打って、とある企画を宣伝したのだ。名付けて『風呂カフェ営業を妨害する人間の正体を暴け!』。
「風呂カフェ・ほっと」のチラシにいくつかの「謎」を記載しておいた。謎を解いて、「風呂カフェは閉店した」と言いふらして営業を妨害している人物を暴け、という大人から子供まで楽しめるイベントである。
そして、謎を解けた人には風呂カフェへの無料招待券を配布する、と書いておいたのだ。
「謎解き」という文化が浸透していないこの世界において、このイベントは珍しいものだったらしく、街中にチラシを配り終えると、多くの人が喜んで参加してくれた。
特に子供には好評で、結果的に家族連れのお客さんが増えたのである。
ちなみに無料招待券を配布する営業妨害役には、ルークを配置しておいた。
全ての謎を解いた人は、変装をしたルークの見た目にたどり着くようになっており、合言葉を言った人だけ無料招待券が貰えるようになっている。
一方で、「本当に営業妨害している」セドリック様は、イベントを盛り上げるダミー役となってくれた。
彼が「風呂カフェが閉店している」と嘘をついても、お客さんはイベントの一環だとしか思わないし、特に風呂カフェの営業に影響を及ぼさなくなった。
また、噂で聞いた話だが、セドリック様が無料券を持っていると思ったお客さんが彼を追い回したこともあるそうだ。正直、いい気味である。
セドリック様は正体を隠して、ユードレイスに来ているはずだ。平民に追い回された時は肝が冷えただろう。
これで風呂カフェへの妨害を止めてくれたらいいんだけどね。
しかし、数日後のこと……。
「リディア、来てやったぞ!」
「……」
ついに営業中の風呂カフェにセドリック様がやって来てしまった。