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第39話 恩人





「それじゃあ、おじいさん。とりあえずお風呂に入っちゃいなさい」

「お、おふろ?」

「体を温かいお湯で温めるの。お風呂に入れば、腰痛なんてすぐに吹き飛ぶわ」

「しかし、そんなものでわしの苦しみが和らぐとも思えんな……」


 私はリーナを振り返った。


「リーナ、お客さまアンケートの結果ってあったかしら?」

「ありますけど……」


 私に言われて、リーナは店の奥から紙の束を取って来た。お客さんに任意で頼んでいるアンケート用紙である。意外とみんな喜んで答えてくれるので、ありがたい資料となっている。


「これを見てちょうだい。“お風呂に入ったら、肩こりが改善した”“腰痛がすっかり治って、仕事が楽になった”とか、書いてくれる人がたくさんいるわ」

「な、なんと」


 おじいさんは資料をめくって、感心したような声を上げる。私はおじいさんにずいっと詰め寄った。


「それに、お風呂は万病に効くのよ!」

「そ、それは誠か?!」

「ええ! 今、おじいさんが苦しんでいることも治っちゃうわよ」


 私がニコニコしながら告げると、おじいさんは「うむ」と頷いた。


「そんなに言うのなら、試しに入ってみよう」

「はーい。じゃあ、お風呂の用意をするわね〜」




⭐︎⭐︎⭐︎





 数十分後。おじいさんがお風呂から上がってきた。


「よ、よかったのじゃ……」

「そうでしょう?」


 おじいさんは頬を上気させて、ホクホクの様子だ。


「温かくて心地よいし、いつまででも入ってられるのぉ」

「そうでしょう、そうでしょう」

「腰の痛みも和らいだぞ。温めてみると、いいのだな……」

「そうでしょう、そうでしょう」


 ふふふ。お風呂の良さに気づいてもらえたみたいね。


「それじゃあ、おじいさん。そこ座って」

「ん? うむ」

「今、リーナが食事を用意してるから、待っている間にマッサージをするわ」

「なんと!」


 私はおじいさんの後ろに座って、マッサージを始めた。

 前世では、よく「背中が痛い」と言っていたリアルおじいちゃんにマッサージしてあげたのよね〜。思い出すわぁ〜。


「気持ちいい?」

「うむ〜」


 私の指圧に揺られて、おじいさんは眠そうな声を出す。お風呂上がりのマッサージって気持ちいいのよね。

 マッサージ機の魔法道具でも開発して、風呂カフェに置こうかしらね……。


 しばらくすると、リーナが食事を持って来た。


「スープを持って来ました」

「ほら。おじいさんお腹空いてるでしょう。温かいスープよ」

「な、なんと……!」


 本日の営業で余ったものを温め直しただけなんだけど、おじいさんは喜んで食べ始めた。


「おいしいのぉ、おいしいのぉ」

「それなら、よかった」

「ここまで真心こもった歓待を受けたのは初めてじゃ……。嬉しいのぉ」


 おじいさんは感極まって泣き始めてしまった。あらら。


「まあ、とにかくゆっくりしていってね?」

「ありがたい。ありがたいのぉ……」




⭐︎⭐︎⭐︎




 翌朝。おじいさんは荷物をまとめて、風呂カフェを旅立つ準備を始めた。わずか一泊の滞在となった。


「おじいさん、もう体調は大丈夫なの?」

「ああ。風呂のおかげですっかりよくなったからの。何せ、お風呂は万病に効くからな!」

「あはは。まあ、万病に効くというのは、流石に嘘なんだけどね」

「なんと⁈」


 前世の言葉で言うプラシーボ効果みたいなものだ。「これで治る」って信頼感があれば、効果のない薬でも病気が軽くなるっていう結果があったって聞いたことがあるのよね。

 だから、わざわざ他の人の意見を見せてから、「万病に効く」と伝えたのだ。


「信じてみれば、病気も良くなった気がするでしょう?」


 実際、お風呂に入った後のおじいさんは「腰が痛い」「苦しい」という言葉を発さなかったしね。


 私の言葉に目を丸くしたおじいさんは、大きく吹き出した。


「あっはっはっはっ! 娘さんには騙された! 見事、あっぱれじゃ!」

「ごめんなさいね」

「よいよい。面白いし、本当に治ったような気分になったからの」

「あ、でも腰痛に効くのは本当よ」

「そうなんじゃなぁ」


 おじいさんは一頻り笑った後、荷物を抱えて微笑んだ。


「それでは、ワシはもう行く」

「おじいさんは、この後どうするの?」

「決めておらぬが……まあ、気ままに旅をしようと思うぞ」

「そうなのね」


 本当に宿を転々としているだけなのね。体調のことを考えると、今後のおじいさんの生活が心配だけど……。


「体調に気をつけてね」

「うむ、分かった。娘さんには大変お世話になったな。今後、そなたが困るようなことがあったら、わしが助けよう」

「あら、そう? それなら、困ったことがあったら、遠慮なく頼るわね」

「ああ。この恩は忘れぬぞ」


 おじいさんはそう言って、風呂カフェから去って行った。なんだか不思議な人だったわね……。


 まあ、私としてはお風呂の良さを新しい人に知らせることが出来て、よかったわ〜。

2024年、作品を読んでいただき、ありがとうございました。次回更新は年明けの4日になります。来年もよろしくお願い致します。

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