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第38話 新たな客のご来店?




 ルークとユーリさんが店を出て行ってから、しばらく時間が経過した。風呂カフェの営業も無事に終わったので、私とリーナは店じまいを始めた。


「今日も問題なく営業ができてよかったわ〜」


 ご機嫌に外の片付けをしていると、男2人の影が遠くに見えた。1人の男はこっちに手を振っている。


 誰だろうと思って目を凝らすと、果たして彼らはルークとユーリさんだった。


 ルークは顔を赤くして、ユーリさんに寄りかかりながら歩いている。


「ど、どうしたの⁈」


 驚いて彼らに駆け寄ると、ユーリさんが申し訳なさそうに口を開いた。


「酒場で飲んでいたんだが……彼が飲み過ぎてしまったみたいで酔いつぶれてしまったんだ」

「ルークが⁈ 本当にごめんなさい!」


 ルークは「おふろの女神さま……」とよく分からない寝言を呟いている。何言ってるの、こいつ。


「ユーリさん、本当にありがとう。迷惑をかけてごめんなさい」

「いや、俺も楽しかったから、問題ない」


 彼はクスッと笑った。どうやら二人だけの絆みたいなものが芽生えているらしい。


「あとは、私が介抱するから大丈夫よ」


 そう言ってルークを受け取ろうとするが、ユーリさんは首を振った。


「よかったら、俺が家まで運んで行く」

「大丈夫よ。家は店の隣だし、あとは私に任せて」

「しかし……」


 その時、風呂カフェの常連でもある騎士団の団員が慌ただしく駆け寄って来た。


「ユーリ団長、ここにいた! すみません、緊急事態です!」

「何だ?」

「実は……」


 団員はユーリさんに耳打ちをする。ユーリさんの表情はどんどん険しくなっていった。


 何かの大変なことがあったのだろうと察知した私は、ユーリさんにしがみついているルークの腕を取った。


「ルークを受け取るわ」


 ユーリさんからルークを受け取って、腕を彼の肩に回す。ちょっと重たいけれど、ルークが自分で立っているから、運べないほどじゃない。


「こっちは大丈夫よ」

「しかし……」

「それより早く行った方がいいんじゃない?」

「……すまない」


 少しだけ名残惜しそうにして、ユーリさんは隊員と共に駆けて行ってしまった。


「ほら、こっちも行くわよ。酔っ払い」


 ルークに声をかけて、彼を家に運び入れる。なんとか部屋まで連れて行き、彼をベッドに投げ捨てた。すると、少し目を覚ました彼は何かを呟き始めた。


「リディア様……。俺を置いて、どこか遠くにに行かないで下さいね……」

「何言ってるの。遠くになんて行かないわよ」

「女神じゃん……」

「本当に何言ってるの」


 まったく、世話の焼けるやつね。


 その後、水を飲ませたら眠ってしまったので、私は店の方に戻ることにした。


 すると、外からガッターンと、何かが倒れるような大きな音が聞こえてきた。


 次から次へと何かしら。


 急いで外に出てみると、そこには大荷物と共に倒れ込んでいるお爺さんがいた。


「うぅ、ワシはもうダメじゃ。もう死ぬんじゃ……」

「おじいさん、どうしたの?」

「腰が痛い。腰が痛いんじゃ……」


 倒れ込んだお爺さんは、「腰が痛い」とうめき続けている。


「おじいさん、何かの病気なの?」

「分からぬ。けれど、この痛みによって死ぬに違いない。なんか胸も苦しくなってきた気がする……」

「それなら、とりあえずうちの店に入ってちょうだい。ほら、立てる?」


 お爺さんの腕を取って、体を支えながら、店に入れる。なんだか今日はこういうのばっかりね。


 おじいさんを支えて店の中に入ると、床拭きをしていたリーナが目を丸くした。


「リディア様? どうされたんですか、その人は」

「店の前で倒れてたのよ。外は寒いし、店の中で介抱するわ」


 とりあえずおじいさんを椅子に座らせてみる。


「おじいさん、お家はどこ?」

「わしは旅の者じゃ。帰る家などない。宿を転々としてるのじゃ」

「そうなの? じゃあ、今日は泊まるところがないのかしら?」 


 おじいさんは「うむ」と頷く。


 今から街の宿に泊まることは難しそうだ。このおじいさんを寒空の下に放り出すのも目覚めが悪い。うーむ。


「じゃあ、うちに泊まっていく?」

「リ、リディア様」


 リーナが慌てた様子で私の袖を引っ張った。そして、ヒソヒソと話し始める。


「いいんですか? 怪しい者じゃないんですか?」

「一泊だけよ。嘘ついてる感じはしないし、大丈夫でしょう」

「何かあってからでは遅いんですよ」

「あなた、ルークみたいな心配してるわよ」

「う……」


 リーナが言葉に詰まる。そのうちにおじいさんを振り返って、

 

「おじいさんは、うちで泊まるでいいかしら?」

「ああ、願ってもないことじゃ。すまない。もうずっと体が悪くて、今日は宿まで辿り着けなくての……」

「そうなの?」

「うむ。煙草を吸い過ぎたのが祟ったのか、体がボロボロなんじゃ……」

「あらら」


 聞くところによると、どうしても好きな銘柄があって、それを吸い続けたらしい。しかし、若い頃は良かったけれど、歳をとるにつれて、体の不調が増えていったそうだ。


 旅をしてるのも相まって、特に疲労も溜まっている状態なんだろうな。


 それなら、おじいさんに勧めることは一つよね。


「それじゃあ、おじいさん。とりあえずお風呂に入っちゃいなさい」

「お、おふろ?」

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