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第36話 穏やかな日常……?





 雪の降る日が続く中、風呂カフェは今日も営業中だ。寒い中でも、風呂の温かさを求めて来店してくれる人が多い。

 ひっきりなしにやって来るお客さんの中で、見知った顔が店に来てくれた。


「いらっしゃい。……あら、ユーリさん。久しぶりね」

「リディア嬢、久しぶりだな」


 来店してきたのは、ユーリさんだった。ほとんど毎日のように風呂カフェに訪れていた彼だったが、ここ最近は、あまり姿を見せてくれなかった。


「仕事と調査で忙しくしてたの?」


 前に私の周りで魔物が出現することについて、原因を調べてくれていると言っていたから、そのことで忙しかったのかしら?

 だとしたら、少し申し訳ないわね。そう思って聞いたんだけど、ユーリさんは首を横に振った。


「いや……エレン嬢と顔を合わせるのは、あまり良くないと思って、タイミングを見計らっていたんだ」


 ああ、なるほど。少し前に彼はエレンさんを振ったばかりだ。二人が顔を合わせることで、エレンさんは辛いことを思い出すきっかけになってしまうかもしれない。ユーリさんも気まずいだろうしね。


「あと、魔物が君の周りで現れていることについては、引き続き調査しているから、安心してくれ」

「忙しいのにごめんなさいね」

「いや、気にしなくていい。あと少しで、証拠を掴めそうなところなんだ」

「本当にありがとうね」

「いや、このくらいなんてことない」

「……」

「……」


 私たちの間に沈黙が流れる。


 彼が「助けたい」と伝えてくれてから、初めて顔を合わせるからなのか……。何となく胸の奥がキュッとして、上手く話せている気がしない。


 とにかく何か言葉を繋げなきゃと顔を上げたところで、お店の扉が開いた。


「嬢ちゃん、風呂入りに来たぞ〜。受付頼む」

「あ、はーい」

「それじゃあ、俺も風呂に入って行くから」

「え、ええ! ユーリさんもゆっくりしていってね」


 私は慌てて他の常連客さんの対応を始める。いけないいけない、集中しなきゃね。


 対応に集中し始めた私は気づかなかった。その後ろで私の様子をじっと見ていたルークの存在に。




⭐︎⭐︎⭐︎



 客足が落ち着いてきたところで、ルークが話しかけてきた。


「リディア様。この後の仕事、休んでもいいですか?」

「突然どうしたの? 具合でも悪い?」

「いえ、そういうわけじゃないんですけど……この後、話したい人物がいまして」

「そうなの?」


 ルークの友達でもいたのかしら? 彼には彼のコミュニティがあるだろうから、あまり縛り付けるのはよくないわよね。


「それならもうお客さんも減って来る時間だし、あとはリーナと二人で仕事するから大丈夫よ」

「ありがとうございます」


 そう言って、彼は食事スペースへと向かう。


 彼の友人関係が良好に保たれればいいと思ったんだけど……。私の予想に反して、彼は別の人物に話しかけに行った。


「ユーリ様」


 ルークは、ちょうど食事を終えたユーリさんの前に立った。


「君は、リディア嬢の従者の……」

「ルークです。この後、お時間よろしいでしょうか?」

「この後予定はないが、何かあるのか?」

「話がしたいんです。あなたと二人で」


 ルークは挑戦的な目でユーリさんに問いかける。


「いいですか?」


 一方のユーリさんは、ルークから何かを感じ取ったのか目に闘志を燃やして、頷いた。


「分かった」

「ありがとうございます」


 そして、二人は立ち上がって、店を出て行こうとする。予想外の展開にオロオロしていると、ルークが私を振り返った。


「それじゃあ、ユーリ様と話してきますので、後のことはよろしくお願いします」

「え、えぇ……」


 私は戸惑いながら頷く。


 引き止めることも出来ず、二人は店を出て行ってしまった。

 

 あの二人に接点なんてなかったはずだ。なのに、二人きりで話すなんて……一体どういうことなの⁈




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