第34話 お疲れ様パーティー
次の日。ユードレイスの宿泊施設に泊まったスミス夫人は、王都へ帰ることになった。
「それじゃあ、エレンさん。案内してくれてありがとう」
「はい。こちらこそありがとうございました」
「リディアさんも、楽しい体験をありがとう」
「こちらこそです。またのお越しをお待ちしております」
「ふふ。もちろんまた来るわ。それに王都に帰ったら、貴族たちにもユードレイスのことは広めておくから」
彼女の言葉に、私とエレンさんは喜びに顔を見合わせる。これで当初の目的は果たせたのだ。
「それじゃあ、元気でね」
「「はい‼︎」」
そう言って、スミス夫人は馬車に乗り込んだ。彼女がユードレイスを去って行くのを見送る。そして、私はエレンさんに抱きついた。
「ちょ、何よ!」
「すごいわよ! スミス夫人に気に入ってもらえたってことは、王都中の貴族に噂が広まるわ! これで、ユードレイスは潤うわよ!」
「ほ、本当に……?」
「ええ、そうなるはずよ。そして、それはあなたが頑張ってアピールしたから、勝ち取れたことよ」
エレンさんは私の言葉を聞いて、涙目になった。
彼女は、冬の間のユードレイスの収入が少なくなり父親の立場が危うくなることを心配していた。だからこそ、この結果が嬉しいのだろう。
「それに風呂カフェも気に入ってくれたみたいだし、王都にお風呂が広まるのも時間の問題ね」
「あなた、そっちの方が嬉しいんでしょ」
「それもそうね」
「まったく。感動が台無しよ」
そう言いつつも、彼女の目は赤い。彼女はズズッと鼻をすすって、「よし」とガッツポーズした。私はそんな彼女の背中を押して、風呂カフェへと導く。
「それじゃあ、お疲れ様のパーティーするわよ。たくさん料理を用意してあるから」
「ちょっと! 私はまだダイエット中なんだけど⁈」
「今日くらいいいじゃない。無礼講よ」
そう言って、カフェのテーブルに彼女を座らせる。テーブルにはシチューやピザやグラタンなどのカフェの定番メニューに加えて、アイスやパンケーキなどのスイーツも用意してある。
「スイーツもあるじゃない⁈ 太るじゃないの。困るわ」
「安心して。アイスには牛乳の代わりに豆腐を使ってるし、パンケーキには大豆を使ってるから、ヘルシーなのよ」
「そ、そうなの……?」
ちなみに、豆腐は大豆から自作した。豆腐のなめらかな美味しさが牛乳の代わりにちょうどいいのよね。
ダイエットしている時でもスイーツを食べたい全乙女の味方、それが大豆なのである。
「リーナ、ルークも来なさい。今回も準備に協力してもらったからね」
私が店の奥に声をかけると、2人とも姿を現した。
「言われなくても来ますよ」
「いやぁ〜美味しそうですね」
リーナとルークも席に座る。4人で自由に料理を楽しむ。しばらくすると、店の扉が叩かれる音がした。
「嬢ちゃん〜。話は聞いたぞ。王都の貴族を出迎えたんだってな。大仕事終えたんだし、差し入れ持ってきたぞ〜」
「あら、ありがとう」
お礼を言って、差し入れを受け取る。どうやらワインをくれたらしい。受け取った瞬間、ずしりとした重みを感じた。
「あのー……うちからも団長から差し入れのケーキです」
彼らの後ろから、何人か騎士団員さんたちが顔を出した。たまたま常連さんと同じタイミングで、店に着いたらしい。
「ユーリさんから? わざわざ届けてくれてありがとう」
「いえいえ。本当は団長が届けられたらよかったんですけど、ちょっと忙しいみたいで。俺ですみません」
「あなたでも嬉しいわよ。忙しいなら仕方ないしね」
きっと、私の周りで魔物が出現する原因について調べてくれているのだろう。そんな中で差し入れをしてくれるなんて、本当に真面目ね。
私はクスッと笑って、ケーキを受け取った。後でこっちからもお返ししなきゃね。
「みんな本当にありがとう」
「いやいや、このくらいは」
「いつも団員がお世話になってるので」
彼らはそれぞれ謙遜してはにかむ。だけど、このまま彼らを返すのも、寂しい気持ちもするわね。それなら……。
「今、お疲れ様会やってるんだけど、あなたたちも食べていかない? 料理が沢山あるのよね」
「お、それは嬉しいな〜」
「いいんですか? それじゃあお言葉に甘えて! あ、でも団長に怒られちゃいそうなので、内緒でお願いします!」
そう言いつつ、彼らは全員、店の中に入って、それぞれ席についた。
「あ〜美味しいわ。やっぱりリディア様の料理は力がつきますね〜」
「マヨネーズとか大豆とかを使った料理が珍しい上に、これがまた上手いんだよなー」
「あ、それ私が食べようと思ってたやつよ!」
みんなが楽しそうに食事している光景を見て、ここの土地に来たばかりの頃……スライムを倒した後にみんなで食事した時のことを思い出した。
あの後、スライムを共に倒した人が常連さんになって、そこから口コミが広がってお客さんが増えた。ひょんなことから騎士団員さん達も通ってくれるようになって、この土地の権力者の娘であるエレンさんも加わるようになった。
そういった経緯があって、あの時よりも、今の風呂カフェ「ほっと」の方がずっと賑やかだ。
でも……、きっとこれからもっと賑やかになるわ。だって、観光地化計画が成功したら、王都からたくさんの観光客が訪れるはずだもの。
その時は営業が大変になるだろうけど……、それも楽しみよね。
「ね、見て! 雪が降り始めたわよ!」
食事を取っていたエレンさんが窓の外を見て、指をさす。窓を見ると、真っ白な雪がしんしんと降り始めていた。
「綺麗……」
ユードレイスに来てから初めての雪だ。ここに来てからの時の流れを実感して、少しだけしんみりするけれど……。
「リディア様、こっち早く来て食べましょうよ」
「はいはーい」
私はリーナに呼ばれて、再び食事の席についた。風呂カフェの未来を楽しみにしながら。




