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第32話 核心に迫る





 悲鳴を聞いて外に出ると、そこには腕から血を流して座り込んでいる女性がいた。その前には、狼の姿をした魔物が吠えていた。


 なんで、また街に魔物が出てきちゃってるのかしら⁈ とか、こんな大事な日なのに‼︎ とか色々と思うところはあるけど、まずは……


「大丈夫ですか⁈」


 まずは魔物に襲われた人の保護である。私はすぐに怪我をして座り込んでいる女性の元へと駆け寄った。


「すみません。歩いていたら、いきなり引っ掻かれて……」


 彼女の腕には、鉤爪の痕が残っていた。幸い、傷は浅いようで出血量はそこまで多くなかった。手当は必要だろうが、命に別状はないだろう。

 それなら、魔物を倒す方が先だ。


「少し待っててくださいね」


 私は今にも襲いかかってきそうな魔物に手を向けて、口を開いた。


「水よ、鎖となり、対象を捕縛せよ。……アクア・チェイン」


 私の手から水の鎖が飛び出して、すぐに魔物を縛りつけた。魔物は身動きを取れなくなり、慟哭をあげる。今のうちに倒すことが出来るだろう。そう思って、私は後ろを振り返った。


「ルーク!」

「分かってます!」


 ルークは剣を抜いて、魔物の体に剣を突き刺した。すると、魔物の体は霧散して、後には魔封石が残った。


 これで一安心かと思ったんだけど……。


 私たちの周りからグルルルルと獣たちの唸る声が聞こえてきた。気づくと、私たちは数匹の狼の魔物に囲われてしまっていた。


「なんで……」


 なんで、こんな街中に魔物が何匹も現れているの? 


 異常事態に、額から汗が滲む。


 怪我をした女性の手当てもしなければならないし、もうすぐスミス夫人たちがここを訪れる予定だ。早急に、私とルークで魔物を駆逐しなければならないだろう。


 だけど、こんなにたくさんの魔物に対処するのは初めてで……。


 緊張と恐怖で震え始める。その時だった。


 一つの影が魔物を次々に切り裂いていったのは。果たして、その影の主は……。


「ユ、ユーリさん!」

「リディア嬢は、怪我人の手当てをしてくれ!」

「……っ、分かったわ!」


 ユーリさんが来てくれたおかげで、余裕ができた。私は頷いて、すぐに怪我をした女性を振り返った。


「傷口を押さえて、心臓より高い場所に手を上げてください」

「は、はい」

「ルークは店の中に戻って、右奥の棚の2段目にある瓶を持ってきてちょうだい!」

「分かりました!」


 しばらくして、ルークが持ってきた


「こ、これは……?」

「薬草を使った塗り薬です。止血効果があります」


 女性の質問に答える。お風呂で使うバスハーブを作るついでに、塗り薬も作っておいたのだ。また魔封石狩りの時に行く時にでも持って行こうと思っていたのだ。


 女性の処置をしていると、戦い終えたユーリさんがこちらにやって来た。


「リディア嬢、大丈夫だったか?」

「ええ、おかげさまで。本当にありがとう」

「いや、騎士団に要請が来たから、駆けつけられただけだ。間に合ってよかった」


 ユーリさんはホッとしたように笑う。その後ろでルークが「いいところを持ってかれた気がする……」と呟いていた。


「手当には何を使ったんだ?」

「薬草を使った塗り薬です。あくまで応急処置なので、ちゃんとした治療は必要だと思いますが」

「リディア嬢は、薬草の知識もあるんだな」

「いやぁ……」


 怪我をしたらお風呂に入れないからね。少しでも早くお風呂に入るために、怪我を治すための薬は常備しているのだ。


 ユーリさんは難しい顔で、「それにしても」と首を傾げた。


「何故、リディア嬢の元に魔物が集まるんだ……?」

「私は何もしてないわよ」

「それは疑っていない。しかし、リディア嬢のいる場所に魔物が現れる傾向にあるのは気になる。それに、すぐに騎士団へ出動要請が届いたのもおかしい……」


 確かに、ユーリさんの言う通りだ。


 最初は、スライムが街中で私の帰り道を妨げたことだった。その後は、ユーリさんと魔封石狩りに行った時にドラゴンが急に攻撃してきたこともあった。

 今回のことも、ピンポイントで私の事業を邪魔するような形で、魔物が現れている……。


 そういえば、最初にユードレイスにやって来た時、不自然なほどに私の悪い噂が広まっていたんだっけ……。


「少し、こちらで調べてみる」


 ユーリさんは、少し考え込んだ後に、ポツリと呟いた。


 だけど、心配だ。ただでさえ彼の仕事は多いのに、これ以上増やすことになってしまうのではないか。


「大丈夫? 仕事が増えてしまうでしょう?」

「大丈夫だ。これが市民の安全にも繋がっているからな。それに……」

「?」

「その……リ、リディアさんを助けられるなら、俺も嬉しいんだ」


 ユーリさんは赤くなった顔を手で隠しつつ、言った。その表情に驚いていると、私の手を後ろから掴む者が。


「リディア様! もうすぐスミス夫人がいらっしゃいますよ。準備はいいんですか⁈」


 ルークだ。彼はいつになく必死な表情をしている。


「そ、そうね。準備……は、早くしなきゃね!」


 私の腕を掴んだルークの言葉に、私は激しく頷いた。それから、ユーリさんに向き直る。


「それじゃあ、ユーリさん。今日はありがとう」

「あ、ああ。怪我をした女性は、こちらで引き取って、改めて異常がないか確認しておく。こちらこそ応急処置をありがとう」

「ええ」


 そう言葉を交わして、私はルークと共に店の中へ戻っていった。


 店の中へ入ってから、さっきのユーリさんの「助けたい」と言ってくれた時の表情を思い出す。


 前に、ユーリさんには、「私が王子の婚約者としてずっと助けてくれる人がいなかったこと」を話したことがある。


 だから、そんな私を助けようとしてくれるのが、想像以上に嬉しくて……。そして、一生懸命、助ける意思を伝えてくれたユーリさんの表情に、少しだけ鼓動が早くなった。


 けれど、今は風呂カフェでもてなすことに集中しなければならない。私は頬を叩いて、目の前のことに集中することにした。

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