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第24話 リディアの新たな挑戦




「しばらく風呂カフェを閉めたいと思ってるの」

「……え?」


 私の言葉にルークが目を見開く。


「風呂カフェを閉めたいって、どういう……。も、もしかして……」


 ルークが後ずさる。そして、勢いよく振り返り、大きな声で叫んだ。


「リーナァァァァ、こっちに来てくれ! リディア様が偽物に成り代わられているかもしれない!」

「どう言う意味よ、それ⁈」


 ルークは乱心しながら、私の肩を掴んだ。


「だって、リディア様が風呂カフェを閉めるって、あり得ないですよ! 三度の飯より風呂が好きなリディア様が? 偽物じゃなきゃおかしいでしょ!」

「本っ当に、あなたは失礼ね!」

「それとも熱でもあるんですか? 明日は槍が降るんですか? 頭大丈夫ですか⁇」

「よーし、熱があるのはあなたの方ね。さっさと落ち着け、バカルーク!」

「何してるんですか、二人とも」


 そこへあきれ顔のリーナがカフェスペースに入って来た。彼女の冷めた視線が突き刺さる……。


「リディア様が店を閉めたいだなんて言い出したんだよ。だから、このリディア様は偽物なんじゃないかって話をしてたの」

「店を閉めたい? どういうことですか?」


 リーナが冷静に聞いてくれたので、ようやく話が進められそうだ。ため息をつきつつ、私は口を開いた。


「あのね、風呂カフェを閉めたいって言ったのは、改装工事をしたいからだけなの」

「え? 改装工事?」

「だから、私は偽物じゃないし、熱もないし、正気も失ってないわよ」


 まったくルークの悪ノリには呆れちゃうわ。まあ、半分くらい本気で思ってそうだったけど……。


 「改装工事」と言う言葉に、リーナが首を傾げた。


「改装工事って……、この店のどこも古くなってないですよね? 必要ありますか?」


 彼女の言う通り、この店は老朽化などしていない。そもそもこの店は、婚約破棄の慰謝料を使って新たに建築したものだ。改装の必要は特にないだろう。

 しかし……。


「私、新しいお風呂を風呂カフェの中に作りたいの」

「新しいお風呂?」

「そう。ドライヤーを売り出したおかげで、お金がたくさん入ってきたでしょう? この機会に、資金の関係で諦めてたお風呂を作ろうと思って。どうせなら増築もしたいわね」

「なるほど。いいんじゃないですか? お客さんも増えてきたし、店を大きくするのは賛成です。それで、どんなお風呂を作るつもりなんですか?」


 リーナの質問に、私は「ふっふっふー」と笑って自信満々に答えた。


「ずばり、サウナ風呂よ」

「サウナ風呂……ってなんですか?」

「部屋を温めた上で熱した石に水をかけて、それによって発生した蒸気で温まる……って感じかしら。水風呂と交互に入ると、色んな効果があるのよ」

「へぇー」


 リーナもルークも何だかよく分かっていない表情をしている。まあ、こればっかりは実際に体験してみないと分からないわよね……。


「とにかく、予定を立てて、この店を建ててもらった建築商会の商会長に話をつけに行くわよ」




⭐︎⭐︎⭐︎




 数日後、私は商会長に会いに行った。その人は、実は、この土地の自治を任されている権力者でもあったりする。


 大きな屋敷の来賓室に通されて、すぐに商会長がやって来た。初老の優しそうな男性だ。


「リディア様のご活躍の噂は聞いておりますよ。お風呂というものを開発して人々に癒しを提供しているばかりか、街を襲うスライムを特殊な方法で倒したり、自ら魔物の森に入って魔封石を獲得しドライヤーを発明したりと勢いが止まらないとか。すごいですね〜」

「あはは……」


 ベタ褒めされると、こそばゆい。私が苦笑いしていると、彼はボソッと呟いた。


「最初こそいい話は聞きませんでしたが、やはり、実際に会って確かめなければですね……」

「え? なんですか?」

「いいえ、何でもありません。それでは、本日のリディア様のご要求は?」

「お店を新改装したいんです。ぜひそちらにお頼みしたいのですが……」


 私は改装したい旨とその構想案をざっくりと話した。


「なるほど、分かりました。改装工事について、うちの商会で引き受けましょう」

「ありがとうございます」

「ただ、色々なことで成功を収めている貴方に相談したいことがあります」

「相談したいこと、ですか?」


 私が聞き返すと、彼はにこやかに「はい」と答えた。


「ええ。こちらの相談を聞いてくださるなら、格安で引き受けますよ」

いつもお読み下さり、ありがとうございます。

3章からは2日に1回更新とさせていただきます。引き続き楽しんでいただけたら幸いです。

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