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第18話 騎士団員たち




 ユーリさんが常連になってくれればいいなぁとは思っていたけれど。


 まさか次の日、すぐに来店してくれるなんて思ってもいなかった。……しかも、部下を連れてなんて。


「この人が団長の言っていた、スライムを倒した方っすか?」

「王都から来た令嬢って、もっとか弱いかと思ってました」

「すごいですね〜〜!!」


 キッチンから顔を出すと、ちょうどユーリさんと彼の同僚が来店したところだった。


 ユーリさんは申し訳なさそうに、私を見た。


「騒がしくてすまない。この店のことを話したら、部下が行きたいと言って聞かなくて」

「お客さんが沢山来てくれるのは嬉しいわ」


 すると、ユーリさんの後ろにいる部下が、私に話しかけてきた。


「あの、“お風呂”というものに入れば、疲れがすべて取れるって本当ですか⁈」

「肩こり腰痛、不眠、万病に効くとか!」

「睡眠の質も上がって、短い睡眠時間でも疲れが取れるとか。仕事の効率も100倍だとか」

「そ、そうですね。まあ、間違ってはないかと」


 あ、怪しい勧誘感満載すぎる……。一体、ユーリさんは部下たちに何て言ったのかしらね。


「申し訳ないけど、今日は私はキッチン担当だから、もう失礼するわね」

「ああ。引き止めてしてまって、すまない」


 その後、お風呂に入った彼らは、『うおおおおお、身体中の筋肉痛が和らいだ!仕事ができるぞおおお』と叫んでいた。し、社畜ぅ。



 それから毎日、騎士団の人たちは入れ替わりで店にやって来るようになった。

 ここに来れば、体を休めることができると騎士団員達の間で話題になったそうだ。


 これまでのお客さんに加えて、騎士団員たちが店に訪れるようになったおかげで、風呂カフェは連日賑わいを見せていた。



 今日も今日とて、騎士団員達はお風呂に入り、カフェスペースのテーブルでくつろいでいる。ちなみに、まだユーリさんは来ていない。彼ら曰く、追加の仕事を終わらせてから、ここに来る予定だそうだ。


 彼らはカフェメニューを食べながら、談笑している。


「今度は恋人を連れて来ようかな」

「お、いいな。俺は奥さんを連れて来ようかな」


 騎士団員達のそんな会話が聞こえてきたので、私はすかさず彼らに声をかけた。


「それなら、カップル割の日に来れば、お得よ」

「カップル割?」

「平日は、何かしらの特別割引を実施してるの。ちょうど来週、カップルで来たお客様に割引をする日があったはずだわ」


 実は、店が賑わい始めてから、平日割引を実施し始めた。割引の種類としては、カップル割だけじゃなくて、レディース割やファミリー割などなどがある。

 あと、平日限定で日替わりバスソルトやアロマオイルも入れたりなどの取り組みもしている。


 私の説明に騎士団員達は首を傾げた。


「なぜ、平日なんですか? どうせなら、人が集まりやすい休日にすればいいのに」

「休日に人が集まりすぎないようにしたいから、お客さんが平日に利用しようって思ってもらえるようにしてるの」


 現状、店は私とリーナ・ルークの三人で回している。だから、混雑しすぎるのは防ぎたい。

 そこで、平日限定の平日限定お風呂&割引の実施である。これのおかげで、休日に来ていた一部のお客様が平日に来てくれるようになったのだ。

 平日に客入りがなくなるということも少なくなり、風呂カフェの経営者としてありがたい状況である。


「なるほどな〜。リディア様は経営が上手いですね。王都では、こういったことも習うんですか?」

「まあ、そんな感じかしらね」


 本当は、前世で見たお店のサービスを活用しているだけなんだけど、それは言わなくてもいいだろう。


 先ほど「恋人を連れて来たい」と言っていた騎士団員の男性は、はにかみながら口を開いた。


「それじゃあ、来週、有給を使って行きますね」

「あなたたちって、有給って取れたのね……?」


 失礼ながら、てっきり、みんなが休みを取れずに何十連勤も働いているのかと思っていた。

 私がそう言うと、彼らは苦笑しながら口を開いた。


「仕事日が危険だったり忙しかったりするだけで、団長が俺たちを優先的に休ませてくれるので、結構休みは取れますよ。まあ、その代わり、団長だけが仕事を背負い込んで、休みが取れないんですけどね」

「なるほど。そうだったのね」


 団長であるユーリさんと比べると、団員達は元気があるな〜とは思っていたけれど、そういうことだったのね。


 そんな会話をしていると、ちょうど、ユーリさんが店にやって来た。


「あ、団長が来た! もうお風呂に入っちゃいましたよー!」

「お前達、店では騒ぐなよ」


 彼は私を見つけると、申し訳なさそうに眉を下げた。


「すまない。今日もうちの団員が騒いでいて」

「大丈夫よ。そんなにうるさくないし、お店が賑わって嬉しいわ」

「それなら、いいのだが……」


 彼は私の目を真っ直ぐに見つめてきた。そして。


「もし迷惑でなければ、近いうちにリディア嬢にお礼をしたいのだが」

「お礼?」

「ああ。日頃、騎士団員たちがここで癒されているんだ。おかげで仕事も捗っているし、何かお礼をしたい」

「こっちはお店に来てくれるだけでありがたいのよ? お礼なんていいのに」

「それでは俺の気が済まないんだ」


 相変わらず真面目なのね。でも、そこまで言うなら、一つだけ叶えて欲しいことがあるのよね……。


 せっかく提案してくれてるんだし、頼んでみてもいいかもしれない。


「それなら、私と一緒に出かけて欲しいわ」


 ガタッと音を立てて、後ろでルークが何かに躓いていた。

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