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平和に呪われた歪な剣士  作者: XIS
剣士学校編
2/2

第二話 敵対と友人




 人には誰だって夢がある。


 例えばそれが、どれだけ小さく儚くても。


 そして彼――ユファン・ノーブルにだって、それは同じことだ。


 ユファンの夢。それは、この世界の平和だ。


 もっと詳細な部分を含めて言うと、剣士として権力を持ち、その力を行使することで、貴族と平民の目に見えた格差をはじめとした差別をなくすこと。


 様々な剣士がこの世に存在するが、残念なことにこの世では、平民の価値は貴族の価値の何倍も下回る。


 それはこの世の理のようで、当然のようで、誰もが気にしないような些末なことなのかもしれない。しかしユファンにとって、それは物心ついた時から看過できないことであるから、今も尚必死に剣士の高みへと手を伸ばし続けている。


 さて、そんなユファンだが、夢が剣士として高みへ行き、権力と実力を以てこの世界を平和にすることなのは昔から分かっているとして、ならばその領域へ足を踏み入れるなら何が必要か、分からないことはなかった。


 だから行動した。そして今、ここに居る。


 間違いなく最大の学院。間違いなく最長の歴史。間違いなく最強の生徒を何人も輩出したエリート剣士学校――ローラン学院。そこにこそ、ユファンの求める未来がある。


 そして更に、今この瞬間からユファンは夢へと本格的に歩み始めることになる。


 現在十七歳。ローラン学院三年生にして最後の年。ここで実力を示し更なる高みへ行くために、今日もユファンは真面目に登校しては、授業を終えた放課後に騒がしい未来の優秀な剣士の卵たちの会話を右から左に聞き流していた。


 そんな時、突如聞こえた廊下からの轟音。そこに意識は向けられて、帰宅準備を始めていたユファンの首から上は、窓側の最後尾という席からじっくりと廊下を見た。


 しかし、そこに轟音の答えはなかったので、ならばもっと先を見る必要があると判断したユファンは席を立つ。


 普段は聞かない音だからこそ興味を持ちつつ、ユファン以外のクラスメイトさえもその音の正体を知ろうと窓から顔を出していた。そしてユファンも少し遅れて答えを見る。同時に、その音の正体に納得した。


 「邪魔だ。今すぐ退くか、今すぐ死ね」


 「邪魔だと思うならお前が俺を避けて通ればいい。俺が退ける必要なんて皆無だろ」


 「なんだと?下級貴族の分際でよくもまぁ、そんなにも堂々とバカを晒して俺に反論できるな。俺は上級貴族であり、この学院で最も剣技の才に長けた存在だ。そんな俺に、実力でも権力でも劣るお前が何だって言うんだ?なぁ、教えてくれ」


 実力主義であるローラン学院の生徒誰もが付けている胸章。自分の現在の評価を表すSが刻まれた胸章を指さしながら、自らを上級貴族であり学院トップと謳う彼――ジアック・ウィンター・ニューは高圧的に言った。


 しかし、そんな態度に一切怖気付くことがないのが、下級貴族と蔑まれ、現在廊下を遮ったとして難癖をつけられている側のA評価を刻んだ胸章を付ける彼――ルニス・エス・フィロムだ。


 上級と下級として差はあれど同じく貴族。しかしジアックにとって下級貴族はとても見ていて心地のいい存在ではないのは確からしく、こうして二人が人前で言い争うのを見るのは、ローラン学院に入学してから百は超えている。


 「……またか。飽きないなぁ」


 二人の言い争いは日に日に激化し、ついには魔力をぶつけ合うという争いになっているらしく、その結果轟音を生むことになった。それが音の正体。流石に学院内で争うのは他の人の迷惑になるから自重を願うが、それでも止めるとは思えない二人に、争いを嫌うユファンは相変わらずため息を吐いた。


 「何?まだそんなことに興味があるの?いい加減見飽きて退屈に感じたりしない?」


 窓からジアックとルニスの激しい言い争いと魔力の押し合いを見ていると、背中に柔らかな感触と共にゼロ距離で耳元に声が聞こえた。


 気怠そうなその声色に加えて、右手にはストロー付きのコップを持ち、自由人という代名詞の似合うユファンの友人――アネア・リル・シリアレスが背中に乗るように二人の言い争いを見に来ていた。


 「ん?退屈とは思わないよ。あの関係も、世界を平和にする道のりでは変えていかないといけないことだからね」


 「ふーん。まぁ、そうよね。貴方の壮大な目標なら、あんなの低レベルの喧嘩として難なく処理できるようにならないとダメよね」


 納得しながら飲み物を口に運び、音を鳴らしながら飲む。そんなアネアはユファンの友人として当然ながらユファンの夢について知っている。


 「この後だけど、もちろん付き合ってくれるのよね?」


 「剣技の鍛錬のこと?」


 「そうよ」


 「分かった」


 睨み合いを見つつ、ここ最近アネアと共に剣技の鍛錬を続けていることを思い出され、今日もだろうと確認を取られる。基本的にユファンではなくアネアの鍛錬になるが、そんなの必要なのかと疑いたくなるのは、ユファンとアネアの胸章のせいだ。


 「ありがとう」


 「ちなみに、最近ずっと僕に教わってるけど、もう大抵のことは覚えたんじゃない?」


 「そんなことないわ。貴方の魔力操作並に上達しないと、覚えたとは胸張って言えないわよ」


 「そっか」


 ユファンの心の中にある懸念点。ユファンの評価を表す胸章はBであり、アネアの評価を表す胸章は最高評価のSだ。


 ローラン学院に入学した時点で全員にD評価が与えられ、三年間で評価を上げていくのが通例。そして三年間を経て卒業する際、S評価にたどり着く優秀な生徒は、毎年たったの二十人程度。


 現在三年生の生徒数は約五百人。余計にアネアの現評価が高評価なのか分かる。だからユファンは、現在B評価程度の自分が教えることがあるのかと、少しばかりの不安を抱えているのだ。

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