05. 実家に帰って
――
実家に帰ると蚊取り線香の匂いがした。畳も香っていた。
3 ぁ
「あ、おかえりー」 p
「ただいまー」 s
L
去年よりもシワの増えたお母さんがキッチンから顔を出す。靴を適当に脱ぎ捨てて居間に上がった。部屋の端にはおばあちゃんがいた。おばあちゃんの姿はすっかり四角くなってしまったが、心はまるいままなんだろうか。 s pn
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「おばあちゃん、ただいま」 ・
@仏壇
チーンと輪を鳴らして線香を据える。
扇風機をつけて座布団に座ると、畑から帰ってきたお父さんが縁側から顔を出した。遠くには竹林が見える。子供の頃よく遊んでは、蚊に刺されたあの林も奥にあった。
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「うす」 ・ ・ |||||||||||
「おお、でかくなったなぁ」 |||||||||||
「もう身長が伸びる年じゃないよ。横ってこと? えぇ?」|||| ・
・・ |||||||||||
お父さんは縁側からそのまま上がってきて、水道で手をじゃぶじゃぶしたあとポテトチップスを持ってきた。お酒が片手にあった。 。¥
ポテチぼりぼり
「ちょっと、昼ご飯前なんだから」 ぼりぼりぼりり
「へーきへーき」 パキッ
プシュー!
お父さんは酒を開けてお菓子を食べ始めた。
――4番バッター田中……
「暑かっただろう」 打った、ホームラン!
「暑いし道が臭かった」
「坂本さんちは肥料にうんこ使ってるからな。父さんが子供の頃はな……」
「その話は何回も聞いたよ。手がうんこまみれになったやつでしょ」
「それで終わりじゃないんだな。手がうんこまみれになるだろ? そしたら俺も小さかったからエーンエーンって泣くんだよ。涙を手で拭うと、顔にもうんこがつく。そんでもっと泣く」
「ひでえ話」
――車を売るなら高橋自動車♪
お父さんの話が終わるころには、お昼ご飯が運ばれてきた。今に限ってカレーとは間が悪い。
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「いただきます」:: :: : ::: :: :: : ::: :: :: : ::: :: :: : :::
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カレーにはお父さんが取ってきたばかりの野菜が入っていた。小麦粉でかさを増しているのが、うちのカレーのセコいところだ。それがたまらなくおかしくて、懐かしい。このカレーが好きだった。
~| ・
「みんなは?」 | ・
「康太は午後から来るって。剛はまあ、夕飯にはくるでしょ。寿司だし」 ・
「あいつの食い意地ハンパないからな~」 ・
「あれ、だれか来たっぽい」 | ――― ・
「ただいまー!」 | ◯ ――― ・
「おじゃまします」 | 人 ――― ・
・
康太兄ちゃんが家族を連れてやってきた。嫁の舞香さんの後ろに、まだ小さい優ちゃんが隠れていた。
・―― お
「ご無沙汰してます、つまらないものですが」 も
「お、舞香さん。どうもどうも」 い
・―― で
お父さんは梅干しを受け取るなり、すぐ食べ始めた。
・・・・
「ここで食うなよ」
「いいじゃねーか。お、この梅干しうめーな。ウメだけに」
「はいはい」
兄ちゃんたちも仏壇でチーンとやって座布団に座った。だいぶ賑やかになってきた。お母さんが立ち上がった。
「康太もカレー食べる?」
「早くつきすぎちゃったけど、お昼は食べてきたから平気」
「そう。お茶だけ用意するわね」
食べ終わったあと、しばらく雑談した。
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優ちゃんももう10歳か。
もう半分大人かぁ
学校は楽しい?
あ、はい。
ちょっと優、隠れない
いいじゃないか
そうだ。じいちゃんの畑見るか?
自由研究の課題に良いんじゃない?
行ってみる
うし、待ってろ
おれも行こっかな
外はあっちーな
うちわ持ってきてるぞ
わーい
これがトマト、これはナス
人参は?
あっちだ
じいじ、いっぱいかけた!
おーおー、良かったなー
ありがとうございます。
おじさん、見てて!
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これは良いかたつむりだよ!
それでね!
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これがわるいかたつむり!
じゃあ、
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これは良いかたつむりでしょうか!
うーん。おじさんにはわからないなぁ。
えへへー!
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これが悪いかたつむりなの!
それで、
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これは良いかたつむりになるの
もうおじさんにもわかるよね
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これが?
悪いかたつむりだ!
正解!
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などとやっていると、ガラガラと玄関の扉が開いた。昔は気にしなかったが、鍵もかけずに不用心だと今さら思う。
「ただいまー」
「剛か。寿司を食いに来たんだろ」
「バレた?」
「何年一緒に過ごしてきたと思ってるんだ」
「お、優ちゃんじゃん! 元気だった?」
「あ……」
「やーい、怖がられてやんの」
優ちゃんは舞香さんの後ろに隠れてしまった。お母さんがそれを茶化す。
「そういえば、身長はもうはかった?」
「あ、やってないな」
「優ちゃん、ちょっとそこの柱の前に立って!」
優ちゃんがおじおじと動き出す。
「動かないでねー」
|1**| ――16歳 おれ
|1**| ――16歳 康太
|1**| ――15歳 おれ
|1**| ――14歳 剛
|1**| ――13歳 康太
|1**| ――12歳 剛
|1**| ――11歳 康太
|1**| ――10歳 剛
|1**| ――12歳 おれ
|1**| ――10歳 優
|1**| ――9歳 康太
|1**| ――9歳 優
|1**|
「どんぶり寿司でーす」
「お、キタキタ!」
剛が目を輝かせて飛んでいった。まったく、しょうがないやつだ。