海の魔女
2020年---
夕陽が水平線に近づき、あたりは暗くなりかけていた。
「ねえ、太一、この手紙、、私たちの名前が書いてあるわ。。」
「ああ。一体どうなっているのかわけがわからないよ。とにかく、ペニーさんまだ近くにいるかもしれないけど、
今日はもう遅い。明日出なおして聞いてみよう。」
太一とサキは、アパートのある七尾に向かった。
翌朝、
太一は、いつものベッドの上で目が覚めた。
あれから3年。2人は同棲していた。
「着替えもせずに寝てしまったのか。。」
自分の胸にサキが寝ている。
寝顔が少女みたいで、心が安らいだ。
8畳の1Kのアパートからは海が見える。窓には二人のネックレスがぶら下がってる。
太一は天井を見上げて考えていた。
アニーはなぜ未来の自分たちのことを知っているのか、地震、青い石とは何なのかーー
ペニーは、なぜ手紙を渡したのかーー
ペニーはどうやってアニーと出会ったのか。。
自分たちが地震を止める?仮にそうだとしても、アニーは、サキが人間になったことを知らないーー
今の自分たちに何ができるというのだ。。
「ううううう〜〜〜ん。おはょ。たいちいぃ。」
サキが目覚めた。
「ちゅして」
「うん」
二人は朝毎日キスをすることを約束していた。
同棲をはじめたころは、喧嘩もした。でも二人は子供の頃からの運命の人。
お互いこの先の将来を考えはじめていた。
「太一、行ってくるね。」
「うん。気をつけてね。今日は波が高いかもしれない。」
「は〜〜い」
サキは季節関係なく、毎朝海で泳ぐことを日課としていた。
人魚であったことを忘れないためだった。
人間になって太一と結ばれたことはサキにとって、何にも変え難い幸せだった。
でも一方で、人魚のころの自分が忘れられなかった。
いつか、海に戻りたい。そう思う衝動にかられていた。
考えてはいけない。そう思えば思うほど、海はサキを呼んでいるかのようだった。
「サキ〜〜。人魚のくせに、歩いてやがる〜〜」
サキの頭上から声がしたのは、海カラスのジャスパー。
「うるさいわね〜。人間があんたの言葉わからないからって、好き勝手いうんじゃないわよ〜!」
人魚時代、ジャスパーはサキの案内人だった。魚の友達の居場所や、嵐の到来など教えてくれていた。
サキが人間になったことを知り、嫉妬していた。
「あんた、あたしがいなくて、さみしーーんだろ〜〜。」
「な、、わけないだろ〜〜!!お前みたいなブサイクな人間、興味ないわ!!」
ジャスパーはつばを吐いて飛んで行った。
「まったく、どんどん行儀わるくなるわね、あの海カラスめ。」
サキはいつもの人気のない小さな入江から、海に入った。
人間になっても不思議と海の水は冷たくない。どんどん沖合に歩いていく。
足がつかなくなったところで、サキは海に潜った。
海の中では人魚の時のようには、息ができなかった。
でもサキはそれが悔しくて、太一に黙って、どんどん深くに潜る練習をしていた。
ここ3年で、500m近くまで潜ることができるようになっていた。
今日もいつものようにどんどん深く進んでいく。
腕時計の深度計が、500m近くまで来てたところで、サキはいつもと違う気配を感じていた。
重い気配。海の向こうのほうがものすごく暗くて冷たい。
気がつくとあたり一面真っ暗になっていた。
サキは危険を感じ、戻ろうとした。
その時!
先の足を誰かが掴んだ感じがした!
「サキちゃ〜〜〜〜ん。どこいくのかな〜〜〜〜〜〜〜。
待ってたよ〜〜〜〜〜〜。」
恐ろしい女の低い声がした。
サキは全力で振り切ろうとするが、力が入らない。
そしてそのまま気を失ってしまった。。