青い三角屋根の家。
港から穴水までは平常時で1時間半くらいだった。
じゅんはクルーザー船を北へ飛ばす。
「サキちゃんならきっと大丈夫だ。」
地震が起きたのは夕方の4時過ぎ。
サキは店にいたはずだった。
丘の上にある小さな「CAFE BLUE」は、もと天体学者ペニーの煉瓦造りの別荘を譲ってもらい、
リノベーションしたもので、頑丈な建物のはずだった。
ペニーとの出会いは偶然だった。
----3年前のある日。
サキと太一の二人は能登さくら駅の花見をして七尾へ帰る途中、
誰も通らないような山の中の一本道を走っていると、100m先の路肩でこっちに手を振る老人がいた。
「ねえ。太一、どうしたのかなあ。」
「とりあえず声をかけてみよう。」
太一は老人の近くに車を停めて、窓から話しかけてみた。
「どうしたんですか?」
「いやいやすみません。車がガス欠になってしまいまして。」
白髭をはやし、麦わら帽子をかぶった白人の老人だったが、
流暢な日本語で返してきた。
「ガス欠ですかあ。困りましたねー。ガソリンスタンドに電話してみましょうか。」
「あ〜いやいや。わたしの家にガソリンがあるので、
申し訳ないですが、もしよろしければ家まで乗せていただけないでしょうか。」
「え、そうなんですか?」
とにかく家に戻りたいというが、方向が逆で山の方へ向かわなければ行けないらしい。
ただ、ここに放っておくわけにもいかないと思った。
「ね、太一、乗せてあげようよ。かわいそうだよ。」
「うん。仕方ないね。どのみち折り返しで帰り道だし。」
二人は老人を助手席に乗せて老人の家へ向かうことになった。
「お二人さん、ご夫婦かい?」と老人が切り出した。
「え、いや、、まだ、いや、、恋人同士です。。」
太一は照れながら言った。
バックミラーで思い切り笑顔で太一を見てくるサキの視線を感じたが
見て見ぬふりをした。
「若いっていいですなー。あははは。」
「おじいさん、ここの人ではないんですか?」サキが聞いた。
「ええ。わたしは東京の人間でして。ちょっとここいらの地質調査を10年くらいしているんです。」
どうやら若い頃は天文学者だったが、今は地形と天体観測の両方をして、陸の成り立ちについて調べているとのことだった。
サキが後ろの席から乗り出して青い目を見開いて言った。
「ええ〜〜おじいちゃん、すんご〜〜い!あたしそ〜〜ゆ〜〜のわくわくする〜〜!」
「おお。お嬢ちゃん、興味あるなら家におもしろいもんがたくさんあるぞい」
「え〜〜楽しみ〜〜〜!!」
サキは目をキラキラしていた。
太一は、サキの好奇心は半端なく、一旦火がつくとどんどんハマってしまうことを知っていたので
帰りが遅くなることを心配していた。
「サキ、すぐ帰るんだぞ。迷惑だぞ。」
「ふん。太一はいつもそうなんだから。お父さんみたい!」
太一を見てあっかんべ〜をしてくる。
「あははは。お二人さん仲がいいの〜。
おお。そこの脇道を右に入ってください。」
老人が指差したその道は車がやっと一台入れるような細い道で、
森に続いており、舗装もされていなく、勾配も進むにつれてだんだんきつくなっていた。
いくつかの旧カーブを登り切ると、急に視界がひらけて、辺りが草原のような平らな丘に出た。
丘の向こうには海が見える。ここちいい潮風が車の窓から入ってきた。
丘を進むと、遠くに小さな青い三角屋根が見えてきた。
「あそこですか?」と太一。
「そうです。」
しだいに家に近づき、
二人は車を降りて見渡した。
小さな煉瓦造りの平家に、青い屋根の四角い塔が立っている小さな教会のような不思議な作りだ。
窓にはステンドグラスの装飾がいくつかあり、家の周り全てが腰丈くらいの植栽で囲まれている。
奥の方に畑もあるようだ。
「すんご〜〜い!!あたしここすき〜〜!!!」
サキは無邪気に叫んでいた。