最愛のペニーへ
それからペニーは東京の大学に進学した。
アニーはペニーが戻ってくるまで島で待つことにした。
アニーは島の牡蠣小屋で働いていた。
気前のいい性格は評判だった。
ある日アニーは、
作業場に着くといつものように網を解いていた。
すると風に乗って声が聞こえてきた。
「アニー。こっちだよ。こっちにおいで。」
アニーは海を見た。波が呼んでいる。
そこへ海ガラスが飛んできた。
「アニー、海へ出て。海が呼んでいるよ。」
そう言って、カラスは海の方へ飛んでいく。
こっちへ来てと言わんばかりに。
アニーは小さなボートで海へ向かう。
声に吸い寄せられるようにボートを漕ぐ。
沖合に近づくとどんどん声が大きくなった。
アニーはそれがイルカの声だと思い出す。
人魚時代に一緒に泳いだイルカの声だった。
アニーは海の中を覗くと、何やら海底に光が見える。
アニーは躊躇なく飛び込んだ。
どんどん潜っていく。
アニーは何も考えていなかった。ただ体が動いていた。
そのうち、人間のアニーは苦しくなり、気を失ってしまった。
気がつくと洞窟のような場所にいた。
少し奥に歩いていくと、広い空洞に出た。
空洞の壁は全て真っ白だった。
急に目の前が眩しくなり、空間の真ん中に神が現れた。
そしてアニーに告げた。
「お前は未来に起きることを止める運命にある。
お前は人間と交わり、その子供は特別な能力を身につけるだろう。
未来を見て、過去に戻り、石を未来へ繋げ。
未来は石が導いてくれるだろう。」
神がそう言うと、アニーは空中に浮かんでいた。
下には島の街が見える。
そこへ地震が起きた。多くの人が逃げ惑う姿が見える。
そして目の前は急に真っ赤になり、マグマが支配する地球の姿があった。
そしてマグマの中には悪魔たちがうごめいていた。
するとまた場面が切り替わり、緑の中の一本道の上に浮かんでいた。
下には車を止めて外に出るペニーと、太一、サキが見えた。
3人の会話が聞こえたが、アニーの声は彼らには聞こえない。
気がつくとアニーは森の中に倒れていた。
ジャングルの深い森のようだった。
アニーが起き上がると、目の前には大きな獅子が、口を開けた遺跡があった。
アニーは遺跡の中に入る。
薄暗い中を進んでいく。すると奥から青い光が見えた。
そこには、青い石が光りながら回転し、浮かんでいた。
「石を未来に繋げ。」
その言葉を思い出し、アニーは石を手に取る。
遺跡の入り口を出たアニー。その瞬間地響きを立てて遺跡は崩れ落ちた。
間一髪助かったアニーはジャングルをさまようが、しばらくして開けた丘に出た。
そこには一軒の建物と塔が見えた。ペニーが子供の頃に住んでいた家だった。
家の中に入ると、テーブルと二脚の椅子。
テーブルの上にはラジオがあった。
ラジオからは1920年のベルギーアントワープオリンピックの水泳競技が中継されていた。
それからアニーは未来へ戻るまでずっと待った。
ペニーに会いたい。その一心だった。
気がつくと、アニーは妊娠していた。
そして無事女の子を出産した。
赤ん坊の肩には人魚の紋章である三日月のアザがついていた。
ある朝、目覚めると、アニーは自分の腕が消えかかっていることに気づく。
その時、アニーはもう自分の寿命が近づいていることを知った。
なんとか自分の赤ちゃんを守らなければいけない。
アニーは、青い石にずっと語りかけた。
海へ。。海へ。。。
石がそう言った気がした。
アニーは裏山の細い道を降りていき、砂浜に出た。
ペニーと最初に出会った場所だ。
海面が盛り上がったと思うと、
なんと、人魚界の王が目の前に現れた。
「その娘は人魚になる運命だ。私が預かろう。」
「お願いします。」
自分の命がもう途絶えるまで時間がないことを分かっていたアニーは
赤ちゃんを王に託した。
王は赤ん坊を連れて、海の中に戻っていった。
アニーは涙し、途方に暮れた。
しかし、自分がここへ来た理由はなんなのかわからない。
それともあの青い石を。。。
アニーは誰にも見つからないよう、家の近くの木の根元に、
石を埋めることにした。
そして手紙を書く。手がかりはあのワンシーンだけだった。
空の上から見せられた通りに。ペニーに宛てたのだった。
最愛のペニーへ。
空から見せられた手紙の内容通り、アニーは記した。
途中で指が消え、。手が消え、、自然と文面はその通りになっていく。
アニーはこれでいいんだと悟る。
青い石が運命に導く。アニーは神様の導きを受け入れるのだったーーー。




