人魚岩
ペニー7歳の時ーー
「ペニー。あなたの描く絵は本当に素敵ね。」
「ありがとう。クララおばさん。」
ペニーは塔の上から海を見るのが好きだった。
今日は夏休みの最初の日。いとこのクレアがあそびにきていた。
クレアは母の兄妹の一人娘。
隣町の小学校に通っていた。
夏になると丘にあるペニーの家に遊びに来ていた。
ペニーは丘から海までの秘密の道を知っていた。
その道は父が子供の頃から通った山道だった。
よく父に肩車をされて歩いていたのを覚えていた。
ペニーがまだ3歳の頃、父親は漁を出たきり帰らなかった。
それからペニーにとって大切な道になった。
しかし、特別にクレアだけが通ることを許されていた。
道は結構険しかったが、30分ほどで海に出ることができた。
そこには小さな浜辺があり、岩が波で削られて、
U字型になっている場所があった。
2人はそれが人魚に似ていることから人魚岩と名づけていた。
次第にペニーは、その岩に取り憑かれたようにスケッチを続けるようになった。
絵は学校でも褒められた。いつも金賞をもらえるのが何よりの楽しみだった。
近所に家はなく、自然と友達と遊ぶより、砂浜のカニや魚と会話する方が楽しかった。
ある嵐の翌朝、ペニーはいつも通り歩いてきたが、波打ち際に小さな船が座礁していた。
1人やっと乗れるくらいの木でできた船だった。
避難用の船に見えた。中には誰も乗っていないようだった。
船の中を覗こうとした時、人魚岩の方に人影が見えた。
ペニーは恐る恐る声をかけた。
「誰かいるの?」
すると岩の向こうから、大きな魚の尾びれが、ゆらゆらと現れた。
ペニーは七色の鱗の美しさに目を奪われて近づいた。
するとこの世の物とは思えないほど美しい人魚がペニーの目の前に現れた。
金色の髪は風になびいていて、青い目には貝のようなキラキラした飾りが輝いていた。
「ペニー。わたしはアニー。怖がらないで。」
優しく微笑むように語りかけてきた人魚に、
ペニーは、心臓がドキドキして破裂しそうだった。




