表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/35

地震

元旦、島は壊滅的な被害を受けていた。


太一が金沢の実家にいたとき、地震が発生した。

金沢は幸い、大きな被害を免れた。しかし、テレビに映し出される被災地の映像を見て、太一の胸は重く沈んだ。報道では、断水や停電、建物の崩壊が広がっているという。サキがそこにいる――そのことが、頭の中で繰り返し響いた。連絡はつかない。地震後の状況は、まったく分からなかった。


あれから数年、太一とサキはしばしば近くの島に足を運んでいた。

サキが開いたカフェ、「CAFE BLUE」。

海を見下ろす丘の上に、その小さな店はあった。サキはその地の風景に心を奪われ、太一もまた、彼女の夢を支えるようになっていた。二人は、いつかこの仕事を引退したら、ここでずっと一緒にカフェを営もうと決めていた。だが、その未来が、今、恐ろしい速さで崩れ落ちようとしている。


地震が襲ったのは、そんな矢先だった。

数年前から続いていた群発地震は、ついに致命的な力を持って大地を揺るがした。サキはその前から、異変を感じていた。海底から立ち上る泡が増え、海の表情が変わっていたのだ。

太一は、そんなサキの言葉を思い出しながら、急いで車に物資を詰め込んだ。


島に向かう道中、心の中でただ一つの思いが強くなる。

サキが無事であってほしい。

だが、地震後、サキとは一度も連絡が取れていない。里山道路が崩れ、海沿いの道も甚大な被害を受けている。太一は軽トラを走らせる。道がでこぼこになり、進むにつれて不安は増すばかりだ。そのうち渋滞がひどくなり、進めない。

しばらく歩いて様子を見に行くと、崖が崩れて道が完全に塞がれていた。

前に進むためには、迂回しなければならない。


「こんな時に、道がひとつしかないなんて…」

太一は無力感を感じる。

焦っても仕方がない。まず辿り着くことが、今は唯一の目標だ。だが、この狭い道が、すぐにでも途切れてしまいそうで、太一の心は乱れていた。


そのとき、背後から声がかかった。

「太一か!」


振り向くと、じゅんが立っていた。

サキのカフェの開業を手伝ってくれた、地元の漁師だ。

「じゅんか!無事だったか?」


「うちはなんとか大丈夫だ。壁が崩れたけど、家自体はなんとか残った。今、漁港の様子を見てきたところだ。サキちゃんのところへ行くんだろう?」


「うん…。」


じゅんは一瞬黙った後、言った。

「なら、車じゃ無理だ。うちの漁港に車を停めろ。俺が案内する。」


太一は迷う暇もなく、じゅんを助手席に乗せ、車を漁港へと走らせた。

港に着くと、目の前に広がったのは、あまりにも衝撃的な光景だった。

大地が隆起し、漁船が無惨にも陸に上がっていた。

太一は言葉を失い、ただ呆然とその場に立ち尽くす。


「…ひどい。」

震える声で呟く。

じゅんは少しの間黙っていたが、やがて言った。

「こっちだ、太一。」

指差された方向へ車を進める。

元々海底だった場所に、慎重に車を進めていく。砂の上を走りながら、太一の目には、まるで世界が崩れていくように見えた。

岬を越えると、遠くに灯台と海が見えてきた。その足元には、小型のクルーザーが浮かんでいるのが見えた。


「これは…」

太一は言葉を失った。


「釣り人の船だろう。中には誰もいなかった。立派な船だけど、何かあったんだろうな。」

じゅんが淡々と続ける。


「でも、動くのか?キーもないのに。」


じゅんはニヤリと笑い、ポケットから鍵を取り出した。

「動くさ。これがあればな。」


「お前、まさか…。」


「盗むわけじゃない。借りるだけだ。」

じゅんは船に乗り込んでいった。

「これで、島に行ける。急ぐぞ。」


太一は呆然としながらも、言われるがままに車から物資を降ろし、船に積み込んだ。船の持ち主がどんな状況でここに船を残していったのか、太一には分からなかった。ただ、この目の前の現実を受け入れ、サキの無事を確かめるために全力で進むしかないと決めた。


エンジンが唸りを上げ、船は海に出て行った。

太一の目はただ前を見つめていた。

あの丘の上のカフェが、今どうなっているのか、サキが無事であることを願いながら。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ