8話
「おっはよー!」
「おはよう。というか、毎回毎回俺の腹に乗るな。結構重いんだよ」
「ええー。女の子にーーー」
「御託はいいから早く降りろよ」
「...ちぇ。つまんないのー」
「つまんない、じゃねえよ。ほら、さっさと下に降りるぞ」
「はーい」
日曜日。最近は凛華が俺を起こすにも腹の上に乗って、それから耳元で起きろだのおはようだのと大声で起こす必要があるらしい。俺は別に構わないが、たまに父さんと鉢合わせると「分かってるぞ」と何も分かっていない言葉を言われるから少し困っている。
「今日は、確かプラモデルを買いに行くんだよね?」
凛華の疑問に俺は「ああ」と首肯しながら、凛華を跳ね除ける。本人は不満そうだったが、睨みつけるとおとなしくなった。
「あ、凛華も欲しいものあったら言えよ?値段にもよるが、買ってやらなくもない」
「ホント!?じゃあね、プラモ屋の後についてきて欲しい場所があってさ...」
「ま、値段にもよるが、な。なるべく買えるように善処する」
「やった!じゃあ、今すぐにーーー」
急いで支度しようとする凛華を、慌てて止める。またしても不満そうにしていたが、
「急いで行っても空いてないんだよ。それに、俺の欲しいものも特段売れているってわけじゃないし。まず無くなることはないから、安心して買えるってわけだ」
一応俺の言葉を信用したのか、布団の横にちょこんと座る。
動きそうにない凛華に見つめられて赤面しつつも着替えを終えた俺は、稀に凛華が作る非常に美味しい朝食(今日は、どこからか買ってきた豚肉を使った豚の生姜焼きと出汁巻き卵、ネギと豆腐の入った味噌汁に白米だった)に舌鼓を打って、9時半ごろに家を出た。
家を出ると、昨日の会話からも理解できていたが恋がいた。家に呼んだことがないのに場所がわかるのはストーキングしているからじゃないのか、という悪い考えが俺の頭をよぎったが、結局はいつもの笑みで挨拶するに留めておく。
「おはよう、恋。今日はいつもと違う格好なんだな」
「ん?...ああ、まあな。俺行きつけの店に行くんであれば、俺がこの服装している方が安く済むしな」
恋が言っていることは理解できなかったが、確かにいつもとは服装が違う。服装自由な高校の時は大抵タンクトップにボタン全開けの上着と短パンという小学生+αの服装しかしていない恋だが、珍しく七分丈のジーンズに砂の色をした短パンという服装をしていた。ついでに腕にリストバンドすらしていた。
「...ま、色々気になるけどとりあえず早く行こうよ!早くしないと、もしかしたらネット民に騙された転売ヤーが買い占めしていくかもしれないよ?」
「いや、ねえだろ」
「で、でも!僕だって前、そうやって扇動して転売ヤーを釣ってほくそ笑んだもん!」
「うわー、、終わってるー」
「終わってるってなんだよー!」
結局いつもの会話をしながら、俺たちは地元の駅まで歩いて行った。
「...あれー?なんか人多くない?」
「気にすんな、いつもはもっとだから」
「え!?これが少ないなんてーーー」
「「静かにしろ」」
視線をやらずとも、痛々しいほどの視線が凛華を貫いているのがわかった。全く、なんでこいつに世話を焼かなければならないのか。
「...ま、早めに買った方がいいのは事実だな。人が多いし、親父に見つけてもらうにも早いうちがいい」
「親父?」
恋は疑問に答える気は無いのかさっさとプラモを選び始めてしまったので、仕方なく俺もプラモ選びに精を出すことにする。と言っても、量産機の鉄蜘蛛などを買い漁り、ついでに作り始めた機動兵器群の一機体を買うだけだったけど。
そのあとは恋に合流して、買い物を終了させる。
「親父。経費で落としてくれ」
「了解。五百円かける12で、六千円だ」
「ほい」
「どーも」
たったそれだけで会話は終了し、俺は三千円だけで買い求めるのを終えてしまった。しょうじき、驚いた。
「...んで、凛華はどこに行きたいんだ?」
「あー...まあ、僕の聖地というか、何と言うか...」
「なんでそんなに歯切れが悪いんだよ。...まさか、俺に見せられないようなものを...?」
「違うよ!?まあ好き好んで見せたくはないけど、一応健全だよ!」
少し引いていると、少し怒ったのか頬を膨らませていた。くっ、かわいい。
そのまま引かれるようにして入ったのは...大きなお友達がたくさんいるショップ。
「おい」
「何?」
「なに、じゃねえよ!ここ、どう見てもーーー」
「うん、まあ...許して?」
「わかった、可愛さに免じてゆるそう」
「やったー!」
気づかないうちに甘やかしていたのにも気付かぬまま、俺は凛華と共に見ていく。そのうち彼女の目が一体のフィギュアに止まったのを見て、「これか?」と問う。
「うん。占めて六千円。よろしくね?」
縋るような視線を受けた俺はーーーもちろん、買ってやった。ちょろいと思われても仕方ないだろ、あのかわいさは。
「満足満足ー!」
「...意外と、ナツはちょろいな」
「う、うるせえ!」
そんなこんなで家に帰り...再び、一週間が始まったのだった。