7話
「ナツー、おっはよー!」
「おはよう。あと、なんで毎回俺を起こすために腹に乗んだよ」
「お腹の引き締まった筋肉がーーー」
「あー、聞こえないー」
非常に長く感じた一週間が終わり、ようやく土曜日になった。ゆっくり眠れると思っていたのだが、あいにく凛華はそれを許してはくれないつもりらしい。
「今日はね、早めに動かなきゃいけないから」
「何でだ?俺は特に用事なんてないけど...。」
するとニヤリと笑って、
「僕が本を買うのに、大量の本をこんなか弱い僕に持たせるなんて可哀想だとは思わない?」
要は荷物持ちだ。呆れるところだが、あいにく今日はやることもないし付き合ってやるのもいいだろう。
「分かった。...ただ、俺が面白そうだって感じたものなら何冊か買ってくれたりは...」
「ダーメ」
マジでパシリじゃねえかよ、俺。
「さあ、出発進行!...生憎雨だけど」
「そうだな。ちょっとリュックサック持ってくる」
意気揚々と外に出ると、雲は厚く、また暗かった。少し雨が降ってすらいる。しょんぼりしてしまった凛華にやる気を出させるべく、俺はリュックサックを持ってくる。何層かに分かれていて、一層6冊ぐらいなら入るだろう。
「おおー!流石ナツ、用意周到だねっ!」
「喜んでもらえて何より」
これには凛華もご満悦のようで、キラキラした瞳を俺に向ける。見ていると変な気が起こる気がするので早めに逸らしておく。
「ん?どうした、2人とも。本でも買いに行くのか?」
そこに恋が来た。凛華と並んでーーーそして凛華にすれば天敵とも言える、俺の「悪友」だ。
「ナツの格好からして、十中八九凛華の荷物持ちだろ?荷物持ちは多いのに越したことはないだろう、って言う友人様からのありがたい配慮だ」
結局、三人で街まで繰り出してきた。俺の左をいく恋は楽しげに、反対に右をいく凛華は少し不満げだった。...せっかくのデートなのに、とか言っているが、俺の感情を代弁してくれているのだろう。正直、凛華と行く二人っきりの街には期待していたことだしな。
「まあ、どうせ今日は休日なんだし、いろんなとこ見ていくか?例えばプラモ屋とか」
「おっ、いいな。最近発売したやつで作りたいのがあったんだよなぁ」
恋の言葉に、俺は少し感心して恋を見る。確かに荷物持ちだけさせられるのは甚だ不本意だし、息抜きも必要だろう。
そう考えた俺の頭を、凛華が引っ叩いた。
「いてえ!何すんだよ!」
「何すんだよ、じゃないでしょ!プラモ屋は明日付き合ってあげるから、今日は僕の方を優先にしてよ!」
「...へえ。言質とったからな、なんと言おうと明日だぞ?」
恋の言葉に、あっと言う表情をした凛華だったが、「...まあ、僕だけの用事に付き合わせるのは心苦しいし」と言わせて明日の予定が決まった。...何もなければ、明日は多分アーケードでプロ級の腕を持つ(と言うか、そういう大会にも出場して結構好成績を叩き出している)凛華と、飾らない大乱闘を繰り広げていたのだろうが...と思ったが、「...ナツ?早くいくよ!」とかるく腕を引っ張られたので、急いで付いていくことにした。
「あれ?まだ空いてねえじゃねえか。早く来る意味あったのか?」
午前8時半を少し回った頃。当然ながら書店は未だ開いていなかった。少し訝しんで凛華を見ると、これだから素人はとでも言いたげな視線を向けていた。意味がわからず首を傾げると、こういう時は優しい恋が教えてくれた。
「大方、初日発売のものなんだろ。そういうのは、数が少ねえし人気のやつだと転売ヤーどもに根こそぎ刈り取られるからな。十中八九初回購入特典付きだろ?」
視線を向けられた本人は、「うん。それに今回は、初回購入特典に前巻で出てきたゲームソフトがついてるからね。正直、いつもの5倍以上の値段でも相当安いと思う」と返した。元がいくらか知らないが、確実に4桁はいきそうで空恐ろしい。
10時の開店まで非常に長いが、一時間半も会話が続くほど俺たちは積もる話がない。取り留めないことばかり言ってはすぐに飽きるのを繰り返して、いつの間にか集まっていた人を見て笑いながら(冷たい目を向けられた)開店までを過ごした。
午前10時直前でシャッターが開いて、俺たちは急ぐ。
目の前にあった「おひとり様一品まで」の小説にはなるほど、確かに言っていたものと思われるソフトがあった。
「三つ回収して!」と言う凛華の言の元、俺は三つしっかり取って抜け出す。
そこからは多少本を買って(俺も、最近買っていた文庫本やらを自分の金で買った)、早めに撤収する頃にした。
「ふいー、これで大方目的は達成されたね!あ、でもまだ昼まで行ってないし、街を散策する?」
それに首肯して、ウロウロして(途中、凛華がはぐれるトラブルはあったにせよ)時間を潰した俺たちは、ファーストフード店で飯を済ませた後自分たちの街に戻ることにした。
「...なんかさ、都会ってちょっと疲れるよね」
「そうか?俺は面白くていいと思うけど」
恋と別れた後、家までの短い帰り道をゆっくり歩きながら会話した。
「でもさ、気疲れしない?」
「あー、確かにはしゃぎすぎるかも...。」
「僕が言いたかったのはそういうこと。チョッチはしゃいじゃっててさ...。」
「ま、いいんじゃね?楽しいなら」
「...そうだね。ま、あとはゆっくり本を読もっかなあ」
「おい、走んな!俺を置いてくなー!」
...結局止まらなかった凛華を追いかけて切れた息は、本を凛華の家に置いて自分の家に戻るまで続いた。




