22話
副題「女装と嗜虐心」
「ああ、おかえり夏に凛華。2人で一緒に来るなんて珍しいな。ってなぜ詰め寄る、俺が何かしたのか」
「ああしたね、恋の父親を介して俺らの関係を「幼馴染」以上にさせようとして成功したって事実がな!」
言い放ってから、包囲する。といっても風呂場の方に追い詰めるだけだが。
「痛い痛い、降参だ!だから凛華、その腕を退けてくれ!」
「...」
「凛華!?おい、しっかりしろ!?」
父さんの腕をきめたまま目がどんどん鋭くなって行く凛華の目の前で猫騙しをすると、驚いた様子で腕が動きーーーそのまま、父さんの腕が逝った。
痛そうに腕を抑える父さんに、今度こそ俺たちは詰め寄る。
「恋が父さんのことオヤジって言ったんだが?しかも、組長って書く方の。...どういうことだ?」
「...法史のとこの倅か...。まあ、それであってる。ちょっとここら辺の奴らと裏で繋がりがあってな。複合組織『多頭蛇』として裏の世界では少しは名の知れた組織なんだよ」
こわっ。俺の父親って裏の人間だったのかよ。
恐ろしい話を聞いた後、俺と凛華は俺の部屋で無言で過ごしていた。まあ、どう考えても父さんが悪いんだが。
「...あの、僕のこと抱き枕にする?」
「んー...いや、今日はいいかな。まだ水曜だし、抱き枕にしたら最後しばらく動けない気がする」
それに、今抱きしめたら夜までぐだぐだするだろうしなーーーという言葉を飲み込むと、凛華が俺を見つめ返してきていた。首を傾げると、少し笑って
「まあ、動けるぐらいに体力残してあげる気ないしね。...それとも、僕がくたびれるまで遊ぶ?」
どういうことだ?と聞く事はしなかった。そうしたらなんだか色々ダメな気がした。
「ちぇ。いくじなしのナツ君め」
「うるせえ」
なおも何かを言い募ろうとした凛華を無理やり家に帰し、俺はジェネシスオンラインにログインした。
ジェネシスに入り始めてまだ三日目、三日坊主だけは絶対にするなと一昨年死んだじいちゃんに言われているのでログインは継続する。
「...あれ?ナツ君もやっぱりここに来たんだ。ふふっ、やっぱり僕たちは考えることが同じだね?」
その先には、凛華がいた。なんでいんだよ、とか突っ込みたいものだが俺から出てきたのは苦笑だけだ。それと、
「ああ、そうだな。じゃあ、今俺がお前に何をしたいと思っているのか当ててみろ」
と意地悪を言うぐらいだった。
この意地悪は、言い当てられたなら凛華にこの後三週間はネタにされて意地悪の内容を強要されるだろう。それもそのはず、俺が願ったのはアイツを抱き枕にすることでーーー
「...ナツ君のえっち。いくら僕が可愛いからって、抱き枕にした後襲おうなんて...相談してくれれば、いくらでもしてあげるのに...。」
「ちょっと待て、それは誤解だ」
慌てて凛華の暴走を止めようとしたが、ぶつぶつと頬を赤くして言い始めた凛華は思考が空転して暴走している。俺に止められるわけもなくーーー「あれ、2人ともどうしたの?」と谷町が来るまで続いた。
「...じゃ、そろそろ次の街に行くか」
「そうだね。次の街は...4区の湿原を越えた先にあるみたいだよ。今日はまだ5時だし、ちょっと頑張れば次の街から動けるしね。でも、3区はともかく4区はまだ入ったことないから、気をつけようね?」
「はーい」「はいはい」
なんだか、このグループのリーダーが谷町に見えてきた。前の女装姿を見たことがある身からすると、これはこれで悪くない。寧ろ、妹としてこのままリアルでも女装してもいいような...。
「...夏凛。土曜日、家に来ない?きっと君に合う服があるよ」
「わかったー!楽しみにしてるね!」
「ナツ君!?そっちいっちゃダメだよ、そっちに堕ちたら僕は...!」
凛華が何か言っているけど、気にしない。土曜日、俺は変わるんだ。
その楽しみがあったからか、今日の進行はいつもよりも圧倒的に早かった。
「じゃ、また明日。...ゆっくり寝てね?夏凛」
「うん!また明日!」
谷町の言葉が、いつもよりもあったかく感じる。なんでだろう。
彼のログアウトを見届けると、俺は凛華に引っ張られて行った。
「?凛華、どうしたの?」
「...ナツ君は、僕のものだ」
そして腕を強く引かれーーー運動エネルギーそのままに、唇が奪われる。
「!?!?」
「...ふふ、これで自分が「男」だって認識できたでしょ?だから...」
怪しい笑みを浮かべている凛華。でも、今の俺は女だ。...女にもキスできるなら、それは...
「凛華も百合?」
「!?なんでそうなるの!?」
言った瞬間、慌て出す凛華。やっぱりそうだったのか。
「大丈夫、凛華もこっち側の人間だってことを谷町に伝えれば...」
「ちがーうー!」
若干泣いた凛華に、俺は追撃のように「...そう言ってられるのも、金曜までだからね?」といって、即座にログアウトする。...楽しい。
この布石を作ってくれたのは谷町だが、俺が演技を続けたことでああなったのだ。ま、女装するのは割と本気だが。
凛華の反応が見られるだろう明日を楽しみに、俺は眠りについた。




