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20話

いよいよ最終章も始まりました。冬の物語、ご覧ください。

十一月二十日、水曜日。文化祭はどうせ片付け要員が片付けているので一切合財がも終わり、今日からはいつもの日々だ。十二月半ばにはおなじみ期末考査があるが、少なくとも凛華と泊まり込み勉強会→襲われるの流れだけはやめてほしいと願う。

「...なーんか、今僕に向かってすっごい失礼なこと考えなかったかな、ナツ君?」

「いや、凛華が可愛すぎて試験前なのに勉強に身が入らなそうだなと」

「...!ま、まあそういうことなら許してあげなくもないけど?」

ちょろい。そしてそれ以前に危なかった。首の皮一枚といった感じだったな、今の。

そしてまあ今の会話で大事なとこだが、最近凛華は俺のことを「ナツ君」と呼ぶようになった。本人曰く「そっちの方が親密って感じするしね。ね、ナツ君?」だそうだが、あいにく俺はそう思わないね。


いつものように下に降りると、珍しく父さんはもういなかった。

「2人っきりだね、ナツ君。...今日は、ナツ君の朝ごはん食べてみたいかな」

笑顔で甘えてくる凛華に負けて、俺は朝飯を作る。といっても、今日はザ・和食といった感じで米に味噌汁、少しの漬物と冷奴。「...なんというか、普通」と評する凛華に思わず頷いてしまうほどに、自分の中でも普通だった。それでも美味しかったようで、口に入れた時に少し目を輝かせていたのは嬉しかったが。

ささっと着替えを済ませて自転車に乗ると、いつものタンデム仕様が始まる。今回は警察がいたので危なかった。前警察がいた時に凛華に降りてもらって危機一髪といった感じだったが、最近は二人乗りの禁止という風潮が強い。このままじゃ、道交法でダメになる日が近いのかもしれない。まあ、それまではこのタンデムを続ける気だが。

今日は凛華が俺の首に抱きついていたので、背中に豊満な胸が押しつけられて少しだけ劣情が生まれそうだったがグッと我慢して校舎に着いた。いつものことだが、ちょっと苦しい。首に抱きつかれたままだと、凛華が少し浮いて首が絞められる。


「...おお、2人ともおはよう。今日は一段とイチャついてんな、お前ら。...まさか、俺のいない間に何かあったか?」

その声を聞くなり、俺らは振り向く。

「...恋。怪我はもういいのか?」

「いいに決まってんだろ。な、北斗?」

自分の後ろにそう声をかけた恋の後ろから、おそらく北斗と呼ばれた少女が顔を出してきた。顔立ちは整っている。意外と可愛い。なんなら、凛華とも引けをとらなーーー

「ナーツーくーんー?」

「いひゃいひゃらやめろ」

そんなことを考えていると、後ろから俺のほおが伸ばされた。ちょっと痛い。というか結構痛い。

離してもらって赤くなった頬をさすっていると、恋が間抜けづらで俺を見ていた。


「...なんだよ」

拗ねてそういうと恋は慌てて、

「ああいや、悪い。、、、まずは一言、やりやがったな。二つの意味で」

そして懐かしい笑みを浮かべた。まあ、何度も見ているのだが。

それにしても、恋仲になったのはわかるがもう一つのやりやがったことってなんだ?戸惑いの視線で恋を見ていると、

「...保史恋。もうちょっと、人目を気にした方がいいんじゃないかな?」

結構冷たい凛華の言葉が、恋に突き刺さった。しかし当の恋は悪びれた様子もなく肩をすくめて見せ、凛華の目にほんのちょっとだけ怒りが灯った。

「...そこまで。恋を虐めるなら、たとえ護衛対象相手だろうと私は恋との愛を貫く」

そこまできて、ようやく北斗が動いた。目には明らかな怒りと...ちょっとだけの喜びがあった。なぜだ?


一触即発...という状況だったが、

「ていっ」

「あてっ。恋?」

恋が北斗の頭をチョップしてことなきを得る。

「...何するの」

涙目で怒ろうとする北斗に、恋は

「あくまでも俺とお前の関係性は「契約」で成り立ってるんだ。それを忘れんなよ」

冷徹に、そう告げた。その「契約」が北斗にとっても非常に重いのだろう、彼女はグッと黙ると一瞬凛華に恨めしそうな瞳を向けて去っていった。

「...今の子、キャラ濃いな。知り合いか?」

北斗と恋の関係を聞こうとした俺に恋の答えは、

「いや、前俺を刺したやつだ。それで、いきのびちまったもんだから気に入られて、今は契約という形で俺と同棲している、ヤンデレ女だ。あいつと...もしくは、俺と必要以上に関わんなよ?あいつが『恋と私の関係に邪魔になるかも』なんて考えた日にゃ、お前は確実に死ぬからな」

こええ。ヤンデレ女怖え。

凛華をつい見てしまうと、

「...なぁんにも怒ってないよ?なんで僕のこと見るのかわかんないけど、ナツ君は僕のこと大好きだから...他の女に懸想するなんてこと...ないよね?」

一種の呪いをつぶやかれた俺は、首を縦に振るしかなかった。

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